けたたましいスキール音を上げ、障害物の間を縫って疾走するGRスープラ。トヨタの先端AI研究所・TRIが映像を公開した理由とは?
米シリコンバレーに拠点を構えるトヨタ自動車の先端AI(人工知能)研究所 トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は2月2日、研究中の車両がサーキットを自動でドリフト走行する映像を公開した。
けたたましいスキール音を上げながらコーナーを曲がり、障害物を次々に避けて疾走するGRスープラ。万一の事態に備えてドライバーこそ乗せているが、ステアリング、スロットル、ブレーキ、クラッチ、ギア操作など、クルマの操縦はすべて自動で行われている。
もちろん、自動でドリフト走行すること自体に研究の目的を置いているわけではない。すべては安全のためだ。
同じ道でも、天候によって路面は変わり、時間や交通量によって環境も変わる。例えば、毎日走る同じ道であっても、雨の日は路面が滑りやすくなる。交通量が増えると、車両や歩行者などとの間隔が狭くなり、より繊細な運転が求められる。
自動車事故の中には、路面凍結や急ハンドル・急ブレーキを要する事態など、一般的なドライバーでは制御困難なものもある。
そのような極限状態に陥った際、プロドライバーのように巧みに挙動をコントロールし、危険を回避することを狙いとしている。
そこには、自動運転技術が人にとって代わるのではなく、いざというときに、熟練ドライバーのスキルで人の運転をサポートするという考え方がある。
車両の極限状態で、カウンターステアや高度な荷重移動など、さまざまな要素を複合的にバランスさせることで初めて成立するドリフト。
この妙技を自動運転で成功させるために、TRIの研究チームは車線内をドリフト走行しながら、障害物を回避可能にする非線形モデル予測制御(NMPC:Nonlinear Model Predictive Control)と呼ばれるシステムを新たに開発。
これにより、車両の運動性能や制御を把握して、0.05秒おきに車両の軌道を更新することが可能となり、道路状況の変化への素早い適応と安全な軌道の確保を実現できたという。
今後も、ハードとソフトを高次元でバランスさせ、新しい時代の“ヒト中心”の安全技術を前進させる。
なお、設立当初から取り組んできた自動運転の先端研究が製品への搭載を見据えた開発フェーズに移行する中、TRIの役割も次第に変化。
今回の自動ドリフトを含む「人を中心に据えたAI活用」「AIを用いたエネルギーや新材料の研究」「ロボティクス」「機械学習の基盤研究」の4つの領域で、より“High Risk, High Reward(リスクも高いが生み出す価値も大きい)”な先端研究を行うことに軸足を移しつつある。
その根幹にあるのは、「AIを活用して、人の持つ力をさらに高めたい」「人々の生活をもっと豊かにしたい」というトヨタの掲げる「幸せの量産」に通じる想いだ。
今後どのような“とがった”研究の成果を見せてくれるか、次の時代を見据えるTRIから目が離せない。