9年前から変わらぬ想い ココロハコブプロジェクト

2020.04.28

トヨタグループは新型ウイルスと闘う人たちへの支援活動を、東日本大震災の時の支援活動と同じ名称にした。そこに込めた想いとは?

クルマが運んでいるものとは何か? 人? 荷物? 燃料や資材? もちろん、そのいずれの場合もあるが、社長の豊田章男は「心(ココロ)」と答える。豊田がそう強く思うようになったきっかけが、2011年3月11日に列島を襲った、東日本大震災だった。

高速道路が一般開放された直後の3月26日、豊田は工場のある宮城県へ向かうクルマの中にいた。人命救助、地域・生産の復旧に奔走する仲間を激励し、現場の困りごとを即断・即決・即実行で解決しようと、被災地を訪れていた。

現地へ向かうにあたって、豊田には自ら決めた約束事があった。地域の人たちのものを消費しないよう「食べ物は持っていく」、余計な仕事を増やさないよう「ごみは捨てない」、そして、必要最小限の人数とするため「秘書は連れて行かない」。地域の人たちへ迷惑は絶対にかけない。そんな想いで乗った、宮城に向かう車中で目にしたもの―。それは、全国のさまざまな都道府県のナンバーを付けたクルマが、たくさんの荷物を載せて被災地を目指す光景だった。

当時のことを豊田はこう振り返る。

物資も運んでるんですけど、心配していた家族とか、東北地方の人たちに「心」を運んでいるんだろうな、というのをものすごく実感しました。あのときほどクルマが、気持ちを運んでいる乗りものなんだ、というのを感じたことはありませんし、それはずっと生涯忘れないようにしていこうと思ってるんですよ。

モビリティがあるから遠く離れた被災地に想いが届き、地元の人たちが元気になる―。あれから9年たった今も、当時の光景は豊田の脳裏に焼き付いている。

そんなトップの想いを受けて、そこから2カ月ほどたったころに、社内で立ち上がった被災地支援活動の名称が「ココロハコブプロジェクト」だ。そして、今回、新型コロナウイルスからの復興支援を目的としたトヨタグループの活動に同じ名前を付けた。その心は、4月10日の自動車4団体合同記者会見での豊田のコメントにある。

今は外に出られない厳しい冬のような日々が続いています。その中で、多くの人は「移動する」ことの嬉しさを再発見しているのではないでしょうか。外に出られること、好きなところに行けることは、本当に素晴らしいことです。私も、改めて、それを実感しています。MOVEという言葉には「動く」という意味もありますが、「心を動かす」「感動する」という意味も含まれています。この2つが同じ言葉に込められているということも、本当に納得ができると思いました。

再び訪れた危機の中で、「移動する」ことの価値、自動車産業が果たすべき役割が見つめ直されている。そして、今回の危機に対してのトップの想いやトヨタの向き合い方の根底にあるものは9年前から変わらない。

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