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2025.03.18
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「トヨタって手広いなあ!」思わずママがつぶやいた、トヨタの見守りGPSって?

2025.03.18

GPS内蔵のデバイスから位置情報を取得し、子どもの現在地をスマホなどで確認できる「見守りGPS」。競合製品やキッズスマホがある中、トヨタは独自機能を搭載したサービスを開始した。その背景には、子どもの安心・安全に向けた強い想いがあった。

ランドセルを背負った子どもたちが通学路を歩く。友だちと笑い合い、ときには駆け出すことも・・・。そんな当たり前の光景の裏に、見えないリスクが潜んでいることをご存じだろうか?

トヨタが開発した 「SayuU(サユー)」は、子どもの「安心・安全」を守るために生まれたGPSデバイス。

特徴は、単なる位置情報の通知だけでなく、安全確認地点で左右確認をおこなったかどうかを検知して行動履歴に残す「左右確認の検知」。走ってしまったことを検知・記録して保護者に通知する「走行検知」 など、子どもの行動を見守る機能を備えていることだ。

商品はSayuU WEBサイトより先行モニター購入可能。(2025年3月現在)。お客様の声を聞きながら改善をしていきたいという思いから先行モニター購入としている。

開発をリードしたのは、新事業企画部の加藤貴裕。2020年に新規事業の公募制度(B-Pro)に応募し、BE creationの仕組みを利用しながらプロジェクトを進めてきた。

新事業企画部 加藤貴裕

トヨタはクルマの会社。でも、クルマを作るだけじゃなく、クルマが関わる社会全体の安心・安全を考えるべきだと思ったんです。

開発を始める際には仲間も増え、EVの車載充電器を設計していた横田和幸、保険会社の事故対応部署から出向してきた川崎充など、異なるバックグラウンドを持つメンバーたちが集まった。

彼らの共通の想いは「交通事故を減らしたい」ということ。

周囲を確認せずに横断する子どもたちの姿

実は、このプロジェクトの出発点は「教育の効率化」だった。各大学の基礎教育課程を共通化させれば、先生方はより専門性の高い講義にリソースを割けるのでは? というアイデアが発端だ。

加藤貴裕

課題を把握するため、初期段階で小学校から大学まで幅広くヒアリングをおこないました。

その際、ある小学校の先生に言われたんです。“効率化も確かに必要だけど、その前段階として、子どもがちゃんと安全に学校に着く、そして家に帰れる。そこを担保することの方が、喫緊の課題です”と。

そこから、チームの視点は大きくシフトする。

子どもの交通事故の発生状況を調査する中で、事故が最も多い「魔の7歳」と呼ばれるデータを見つけた。主な要因は、飛び出しや横断違反だった。

交通事故総合分析センターデータより引用

加藤貴裕

実際、小学校の近くで観察していると、周囲を確認せずに横断している子がたくさんいて、こんな状態で毎日登校しているのか! と驚きました。また、危険のない場所でも、子どもって足もとしか見てないんです。

大人の目が届かない場所でも、子どもたちが安全に行動できるようにするにはどうすればいいか?

そうして生まれたのが、SayuUの核となる「左右確認検知機能」だった。加速度センサーを活用し、頭や体の動きを測定して左右を見たことを検知する仕組みを導入した。

大人が子供の行動を知ることで、親子間の安全行動の会話を増やしたいという思いで作った機能だ。

都市から郊外まで、交通量の違う3つの小学校に協力を仰いで実証実験を繰り返し、保護者の声を反映しながら改良を重ねた。何か判断に迷うことがあれば、お客さまの声を優先することをルールにしたという。

加藤貴裕

保護者へのインタビューを重ねるなかで、心配ごとは交通事故だけではないことがわかりました。

もし子どもが迷子になったら??そんな不安を解消できるよう、現在地が高頻度でわかる機能や、通話・チャット機能を追加しました。

SayuUユーザーの声「いざというときに連絡が取れる」

SayuUのユーザーである小倉さん一家は、長女の小学校入学を機に他社製の見守りGPSデバイスを購入した。しかし、学年が上がり学童の利用が減ったことで、留守番する機会が増え、位置情報だけでは不十分という思いが生まれてきたという。

「乗り換えの決め手は、いざというときに子どもに連絡が取れることでした。スマホを持たせるのはまだ早いような気がしましたし、SayuUは腕時計型なので肌身離さず持てる安心感がありました。スマホだと邪魔になってベンチに置いて遊んだりするので」とママは語る。

「あれっ、どこ行った? というときも、GPSを調べればすぐに居場所がわかるので安心感があります」とパパ。

両親のスマホアプリには、走行検知機能により“走りました”という通知が頻繁に届く。そこから「なんか今日、ずっと走ってたね()」という会話が生まれることも。

お子さんも「SayuUを使うようになって、横断歩道を渡るときに気をつけるようになりました。友だちと遊びたいとき、お母さんにすぐ連絡できて便利です」と話してくれた。

不慣れな子ども向け小型デバイス開発は苦労の連続

トヨタはモノづくり企業ではあるものの、小型デバイスの知見があるわけではない。

新事業企画部 横田和幸

一番苦労したのは、自動車以外のモノづくりとしての品質づくりでした。

使い勝手はもちろん、安全なデバイスづくりにも注力しました。丸みのある形状や子どもに馴染みのある材質を採用しました。実際に使用いただきたい年齢層の保護者/お子さんにヒアリングを行い、対話を重ねながら品質のレベルアップを行いました。

長時間使用することを考慮して、ケース素材や形状を工夫し、装着感も最適化させていった。小倉さんのお子さんも「ちょうどいい、邪魔になったことはないです」と語るほど、ストレスのない設計に仕上がっている。

「ヒアリングを重ねるなかで、色選びは子どもにとって一大イベントであることもわかりました。大人がいいと思う感覚だけではなく、子どもも使いたくなるような形状や色のバランスを取るのが難しかったです」(川崎)

現在はイエロー、ブルー、パープル、の3色を用意。表面加工によりマットな質感に。

交通事故ゼロを目指して、SayuUが見据える未来

SayuUにとって、現在のデバイスは第一ステップでしかない。

新事業企画部 川崎充

保険会社時代にさまざまな事故を見てきたので、一件でも多く事故を減らせる活動に貢献できるならとジョインしました。安全に対する子どもたちの意識改革という面でも、SayuUは有効だと考えています。

加藤貴裕

試作機を用いた実証実験が終わったとき、“SayuUがないと心配なので、もっと長く使い続けていたかった” “1日でも早く商品化してください”など、激励のコメントをいただきました。開発がうまくいかないときは、そういったメッセージを思い起こしながら仲間とともに励ましあってきました。

交通事故ゼロという最終ゴールまでを考えると、将来的にはクルマや街のインフラと連携して、さらに精度の高い安全対策を実現したいと考えています。

世界的にもV2X(クルマとさまざまな機器・モノを通信で接続して連携する技術)の取り組みが始まっていますが、この技術は普及すればするほどできることが増え、またその効果も大きくなります。

まずはSayuUの普及を加速し、環境を整えてから車やインフラと連携することで、安全安心な世界を実現したいと考えています。現時点では、クルマには事故という負の側面がありますが、安心という正の側面を作れるように今後も製品開発を続けていきます。

子どもの安心・安全を願う気持ちは、すべての親にとって共通の想いでもある。

すべての人が、安全で自由に移動できる世界を作りたい。

SayuUの挑戦は、これからも続いていく。

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