暗闇でピカッと光る猫目や、モフモフシートなど...。担当デザイナーが明かしてくれた「APMネコバス」の裏話とは?
2024年2月27日、報道関係者向けにお披露目セレモニーが行われた「APMネコバス」。
モデルになったのはスタジオジブリの映画『となりのトトロ』でサツキちゃん、メイちゃんを乗せ、夜空を走り回ったあのバスだ。
東京2020オリンピック・パラリンピックの会場で使われた短距離・低速型BEVのAPM(Accessible People Mover)をベースにデザインしているのだが、さっそく細部を見ていただきたい。
モフモフシートの座り心地は…
思わず笑顔になってしまうデザイン。トヨタのビジョンデザイン部、永津直樹プロフェッショナル・パートナーなど各部署のメンバーと、スタジオジブリ・宮崎吾朗監督がやりとりを繰り返し、完成させたという。
大きなしっぽ。愛らしい肉球。公道は走らないので飾りのナンバープレートが付いているのだが、宮崎吾朗監督のアイデアで数字は語呂合わせに。
隠された意味がお分かりだろうか?
ステアリングやメーターパネルも、猫の毛色に。
デザイナーの永津は「全体に合わせて、このクルマのために調色した“ネコ茶色”と“ネコベージュ”の2トーンにしました。宮崎監督ともお話しして、素材特有の質感を生かしています」と話す。
ネコバスの行き先はジブリパーク。昭和30年代のレトロなムードを出すために、行先表示は少し暗くするなど照度には強くこだわったという。
そしてネコバスといえば、サツキちゃんとメイちゃんが大はしゃぎした、モフモフシート。洗濯できるようにシートカバーは取り外し可能になっている。
座ってみるとふかふかで、まるでアニメのあのシーンに入り込んだような気分になれる。
見上げると天井にも“モフモフ”が。
デザインのこだわりを探していけば、部品のひとつひとつにまで至ってしまうので、ここからはさらに掘り下げた話を。
実は、左右の目が違う方向を?
「化け猫がAPMに化けた」という設定のAPMネコバス。ディテール表現では、ベテランデザイナーならではのクルマづくりの技が生かされた。
宮崎吾朗監督が特にこだわったのが「化け猫らしい目」だったという。
永津
実は、左右の目は正面ではなくちょっと外を向いています。宮崎さんからのアドバイスで化け猫らしさを表現したのですが、球体である目玉に、左右の黒目を気持ちよくセットするのは難しかったです。
そのためにはまず、クルマが水平に置かれていることが重要でした。
通常は、前後左右のタイヤの空気圧を調整し、レーザー測定機を使って水平になるよう調整するそうだが、永津は「だいたい目で見ればわかる」とサラッと言う。
ちなみに今回のAPMネコバスはステアリングが中央にあるが、普通ハンドルは片側なので、タイヤの空気圧を調整しないと微妙に重量差で傾くそうだ。まさに職人技。
またAPMネコバスのデザインでもっとも難しかったのは「アニメーションは平面だが実車は立体」という問題だ。アニメーションのキャラクターは輪郭線が描かれるが、立体物には輪郭線がない。
完成したAPMネコバスをよく見ると、“ネコ茶色”が切り替わる部分では、輪郭線ではなく段差をつけて表現していることがわかる。
永津
単に段差をつけて塗装を塗り分ければいいというものでもありません。
例えば、口と歯の隙間には薄いグレーを入れている。人でいう唇の部分は“ネコ唇”という色を塗り、歯は白すぎず暗くならない“ネコ歯色”に。同じ白でも爪に塗っている色とは微妙に差をつけています。
子どもの身長からの見え方も考えていて、影もアニメーションのように輪郭にそって黒く塗るのではなく、形状と塗装で表現しています。
こうした微細な塗り分けにより、輪郭線に代わる立体感を出しているわけだ。
永津
本物のネコは、毛の色の“境目”に段差はないのですが、APMネコバスでは、段差をつけて色を変えています。
この塗り方も、データ上の境目と、リアルな立体造形での境目は実は微妙に違ってくる。だから塗り分けるのが難しいんですよ。何度も修正についてきてくれた担当や塗装のメンバーとは、ワンチームになれた充実感がありました。
ベテランのカンやコツ。それは、単なる感覚ではない。経験に裏打ちされたロジックと緻密なこだわりの結果であり、そこにはクルマづくりのプロの技があるのだ。
次のページでは、夜にピカッと光る猫目をお見せする。まるで生きているかのような瞳をぜひ見ていただきたい。