「MRIの中でゲーム!?」トヨタが調べていた驚きの内容とは

2023.01.24

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、MRIを使った脳活動の研究・・ってどういうこと?

仰向けでゲームに熱中する男性が吸い込まれるのは、MRIのトンネルの中。

MRIといえば、体の断面を見える化して、病気の有無を調べる精密機器だ。検査中もコントローラーを離さない様子に「どれだけゲームが好きなんだ!」と驚くかも知れない。しかしこれは遊びではない。トヨタが進める“前例のない研究”だという。

見えなかった脳内を、丸裸に

MRIの中でゲームを楽しみ、ハンドル型のコントローラーを操作する。実はこれ、腕の筋肉を動かすことで、脊髄反応も含め脳のどの部分が活発に反応するかを調べる研究だという。

ここ数年でMRIの技術は進化して、神経繊維レベルで、どこにつながっているかが明確にわかるようになったというから驚きである。図はDiffusion Tensor Imaging(DTI)という手法で、脳神経を詳細に見えるようにした結果だ。

さらに「無意識に手を動かした場合」と「主体的に手を動かした場合」では、脳の動きが異なることも判明したという。

運動野の左右の断面画像。脳の活動部位が見える

理研CBS-トヨタ連携センター(以下、BTCC)の研究チームによれば、2030年前までは、脳の温度を測るには“直に針を刺す”手法しかなかった。

なんと残酷な・・と思ってしまうが、近年はMRIの感度が高まったことで、断面画像により、脳のどの部分がどれだけ温度上昇したかもわかるようになった。

運動で体を動かすと体温が上がるように、がむしゃらに仕事をこなし「今日はたくさん頭を使ったな」というときは、実際に脳の温度も上がっているという。漫画で、頭から湯気が出ている絵は、あながち間違っていなかったのだ。

脳以外に、体をコントロールしている部位がある!?

ここで、衝撃的な仮説が語られた。

未来創生センター R-フロンティア部主幹・博士(学術) 吉澤真太郎

たとえば、脳卒中で右脳にダメージを受けると、大半は体の左側が動かなくなります。でも、リハビリで動くようになることがあります。メカニズムは解明されていません。

共同研究を進める理化学研究所の下田真吾先生とともに、脳に損傷があっても「脳とつながる中枢神経である“脊髄”が回路を切り替えているのではないか」と、仮説を立て研究を進めています。

脳だけでなく、脊髄にも「記憶や機能を補助するメカニズムがあるのでは、という驚きの仮説だ。

吉澤

研究を進めると、脳がすべてを制御しているわけではなさそうだと分かってきました。脊髄でも体の制御をローカルにやっているはず。つまり脳が損傷を受けても、脊髄が無事ならば、体を動かせるかもしれません。

オレンジ部分は、大脳と脊髄路の活動量の差。運動時に大脳だけではなく、脊髄も使っている様子を観測したことになる。(左が首辺りの脊髄の側面図、右が正面図)

メカニズムが明らかになれば、かなり画期的な発見になる。誰も解明したことのない領域へ、チャレンジは続く。

ところで、なぜトヨタが脳を研究するのか。次のページではAIの知られざる可能性も語られた。

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