聖光寺は交通安全祈願のためにトヨタとトヨタ販売店が建立したお寺。毎年夏季大祭を開き、今年で49回目を迎える。
通称「タテシナ会議」―。この言葉は、今年の7月17-18日に長野県茅野市の蓼科山聖光寺で開かれた夏季大祭の場で誕生した。聖光寺は交通安全祈願のためにトヨタ自動車とトヨタ販売店が発願して1970年に建立した奈良薬師寺別院。毎年この日に夏季大祭を開いており、今回で49回目を迎えた。豊田章男社長らトヨタ役員のほか、トヨタのグループ会社や販売店などのトップ、地元の参列者らが御霊を供養し、交通安全を祈願するのだが、今年はそこにスズキやSUBARU(スバル)、マツダなどの自動車業界各社のトップの姿があった。今年の夏季大祭はいつもと様相が異なる。タテシナ会議とは、果たしてどのようなものなのか。その現場をのぞいた。
聖光寺は東京と名古屋からそれぞれ電車で2時間半ほどかかるJR茅野駅から、さらに北東へクルマで30分ほどかかる自然豊かな蓼科高原にある。境内の道路側には「交通安全祈願の寺」と大きく掲げており、その祈祷対象が一目でわかる。この地で毎年7月17-18日に開かれているのが夏季大祭。17日には交通事故者の魂を供養する「萬燈供養会」などが、18日には交通安全を祈願する「夏季大法要」などが実施される。くだんのタテシナ会議は18日の夏季大法要の前にあった。
安全とFun to Driveの両立
タイトルは「交通安全ディスカッション」。トヨタでフェローを務める、米国人工知能(AI)研究開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」のギル・プラット最高経営責任者(CEO)が基調講演し、質疑応答するという内容だった。ギル・プラットCEOは、聖光寺が建立された1970年に居住していた米国ニュージャージー州で友人がクルマにひかれて亡くなったのを目の前で見たこと、そして友人をはねた運転手が頭を抱えて道端に座り込んでいたことなど、改めて実体験を交えて交通事故の悲惨さとトヨタに入社した理由などを説明。自動運転技術が事故の多い高齢者や若者の安全運転を支援すること、人と機械の相互補完でFun to Driveと安全は両立することなどを映像も交えて訴えた。
※ギルプラットCEOの講演映像はこちら。
質疑応答は静かに始まった。
先陣を切ったのは、あいおいニッセイ同和損保の金杉恭三社長。
ギル・プラットCEOはこう答えた。
そして、若者にとってもこの技術は有効的なものです。ガーディアンははじめて運転をする子供達を守るためにも必要です。なぜなら彼らもよくミスを起こしてしまうからです。
トヨタの取引先の設備・物流メーカーで組織する「栄豊会」の永井淳会長(新東工業社長)が続く。
ギル・プラットCEOが答える。
TRIの自動運転技術はいつ市場に出るのか
そして、3番手で手を挙げたのが豊田社長。
この発言で、突如、趣きが変わり、会場がどよめいた。ギル・プラットCEOに加え、技術担当の寺師茂樹副社長、吉田守孝副社長も回答者にまわった。
まず、ギル・プラットCEOが考えを述べた。
理由は簡単です。最近、日本でとても悲しい、悲惨な事故が起きているからです。多くは高齢者によって起こされていますが、若い人もこういった事故を起こしています。私たちはこの問題をできる限り早く解決しなくてはいけません。そのために皆さんと強い連携を取っています。
もう一つの理由は競争力です。トヨタグループ、一緒に働いてくれる他社の皆さんはとてもフレンドリーで、この関係は私たちの自動運転を競合他社に比べてよりレベルの高いものにすることを可能にすると思います。
と語った。
寺師茂樹副社長の答えはこうだ。
これまで、何かエラーがあった時に「後から助ける」ということを一生懸命やってきたんですが、一歩前に出るだけで、かなりのことが出来る技術でもあります。例えば、対向車があることを事前に認識できれば、右折する寸前にドライバーに対向車が来ることを伝えることができます。そうすることで、防げる事故もあると思っています。
完全な自動運転にして助けるというのには、まだ時間がかかるかもしれませんが、一つ一つの技術をもう少し前に出して、ドライバーとキャッチボールすることによって、もっともっと事故を減らすことが出来るんじゃないかと思います。これをどう車に入れていくかというのは吉田の仕事ですので、交代したいと思います(笑)。
吉田守孝副社長が続ける。
現在、いろいろな悲惨な事故が起こっていますが、その悲惨な事故を救っているのが、寺師が言ったTSSです。問題は既販車を含めTSSが付いていない車です。TSSが付いている車と付いていない車の両方の安全性能をいかにあげるかが非常に重要で、ギルさんが言った「人とシステムのハーモニーコミュニケーション」が大切になります。これを無しに、システムだけで、安全なものを作ろうとするとこれはなかなか難しいです。
いま取り組もうとしているのは、高齢者の方がどういう行動をとるのか、高齢者の方が運転する車に対して、何をすると後付けのシステムでより効果があるのかというところです。喫緊の課題として、後付けのシステムのレベルアップと普及に向けた原価低減に取り組んでまいりますので、本日ここにお集まりの関係者の方々、デンソーの有馬社長、販売店の方々、私たちはいま改善システムをやっておりますので、ぜひご協力をお願いしたいと思います。
この後、トヨタの会議から業界各社を巻き込んだ会議へと様相が大きく変化していく。
後編に続く。