「トヨタのBEV(電気自動車)はコモディティにしない」。BEVシフトが叫ばれる中、トヨタが公開した最新技術には、クルマが大好きなエンジニアたちの情熱があふれていた。
トヨタが6月に開いたテクニカル・ワークショップでは、新体制方針のテーマである「電動化・知能化・多様化」を体感できるさまざまな技術が紹介された。
トヨタイムズでは次世代電池やFC(燃料電池)システムについて報じたが、会場には、まだまだ紹介しきれなかった最新技術がたくさんあった。
今後3つのテーマに分けて、そのうちのいくつかを掘り下げていく。初回は「クルマ屋がつくるBEV(電気自動車)」のこだわりについて。
「愛が付く工業製品はクルマだけ」
イベントの発起人はChief Technology Officerを務める中嶋裕樹副社長。4月の新体制方針説明会では、2026年に「クルマ屋がつくる今までとまったく異なる次世代BEV」を投入すると宣言した。
クルマ屋がつくるBEV。それは、同業他社、ひいては、バッテリーメーカーやITベンチャーがつくるBEVと何が違うのか?
ワークショップで、参加者に問われた中嶋副社長は「それぞれの年代でクルマの価値は変わってくると思いますが…」と前置きしたうえで、こう続けている。
「クルマの使われ方が変わっても、クルマに乗ったときに笑顔になる、ワクワク、ドキドキする。(豊田章男)会長が『愛が付く工業製品はクルマだけだ』と言うように、クルマ屋がつくるBEVは愛着が持てるものでないといけないと思っています」
今回のワークショップ会場では、クルマが「愛着が持てる工業製品」であり続けるために、エンジニアたちがこだわりをつぎ込んだ技術が展示されていた。
BEVになっても運転は楽しい
今回公開された技術の一つが「マニュアルBEV」。
エンジンや変速機のないBEVでありながら、モーター制御でMT車を再現。ドライバーはシフトレバーやクラッチペダルを操作することで、MT車のような運転感覚を味わえる。
低いギヤでは力強い加速力が得られたり、シフトチェンジがうまくいかないと変速ショックが大きく出たりするなど、クルマ屋らしいこだわりだ。
ボタン一つでAT/MTの切り替えも可能で、ATしか運転できない家族も安心してハンドルを握ることができる。
また、当日は1台のBEVで小型車のパッソからスーパーカーのLEXUS LFAまで“乗り換えられる”クルマも披露された。
ソフトウェアのアップデートだけで、走りや乗り心地、エンジン音までオンデマンドで変更可能に。思い出の一台から憧れの一台、走りを追求したスポーツカーまで、その日の気分によって乗り換えられる日も遠くないのかもしれない。
このほか、以前トヨタイムズニュースでも紹介した「ステアバイワイヤ」を搭載するLEXUS RZもラインナップ。
ステアリングとタイヤの切れ角を電気信号でコントロールすることで、直感的な操作を実現するとともに操作量そのものも大幅に低減するなど、新しい運転体験を提供する。メカニカルにつながっていないため、ステアリング配置の自由度が増し、モビリティの新たな発展にも期待できるという。
また、航空機の操縦桿を思わせる特徴的なその形は、走り出す前からワクワクする運転体験を予感させてくれる“先味”の演出にも一役買っている。(本記事トップ画像参照)
駆動システムの小型化で走行性能もアップ
BEVのようにモーターで走るクルマの主要部品(モーターとギヤトレーン、インバーター)を一つにまとめた「eAxle(イーアクスル)」の開発中の小型モデルも披露された。
開発はアイシン、デンソー、トヨタ、および、3社の出資でつくられたBluE Nexusの技術を結集して進められている。
モーターを高回転化し、磁石ポケットの位置や形状を最適化したほか、潤滑設計や流体解析技術、PCU(パワーコントロールユニット。モーターで走る電動車の電力を適切にコントロールする)のコンデンサー(電気を蓄えたり、放出したりする電子部品)の容量削減や冷却性能向上など、HEV(ハイブリッド車)で培った技術を活用。モーターはHEVの約40%、ギヤトレーンは従来品から約53%、インバーターも同約58%の小型化に成功した。
これにより荷室フロアは70mm下がり、50L分のスペースを確保。ルーフラインを下げられることで、空気抵抗を低減するとともに、よりかっこいいデザインを追求することが可能になるという。