水素エンジンに、電動車に...。開発費は足りるのか? 株主総会2021 #2

2021.06.22

電動車の"フルラインナップ"で戦うトヨタ。技術トップが示した"開発"のカギは"生産"方式にあった――。

6月16日、愛知県豊田市の本社で行われたトヨタ自動車の株主総会(総会)。所要時間1時間49分のうち、1時間半が株主との質疑応答に充てられた。

今年の総会では、11の質問があったが、議長でもある豊田章男社長が回答したのは2回。例年、社長自ら答えたり、他の役員に回答を譲りながらも後から補足するケースも少なくなかったが、今年は執行役員をはじめとする経営陣に任せる場面が目立った。

今回取り上げるのは、豊田社長が技術担当トップの前田昌彦 Chief Technology OfficerCTO)に回答を委ねたトヨタの「全方位戦略」について。

業界ではカーボンニュートラルの実現に向け、脱エンジンや、走行中にCO2を排出しない電気自動車(BEV)などに投資を振り向ける選択と集中の動きも出ている。

一方トヨタは、BEVだけでなく、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、そして、先月、24時間耐久レースを完走した水素エンジン車など、全方位(フルラインナップ)で開発を進める。

この他社とは異なるアプローチに対し、株主からは「投資が多額になるのではないか」「BEV開発に経営資源を集中させた方がよいのではないか」という質問が飛んだ。

前田CTOがポイントに挙げたのは、デジタル化とトヨタ生産方式(TPS)だった。

トヨタがフルラインナップになったわけ

前田CTO

トヨタは電動化に対して、フルラインナップ(全方位)で取り組んでおり、先日の決算発表のときにも説明させていただきました。

社長の豊田は「最後に選んでいただくのはお客様」と言っています。トヨタは昔からお客様との関係を築いてきたと思います。

戦略という言葉を使うと、それが主目的と思われるかもしれませんが、ずっとお客様の利便性を追求し、ご要望にお応えしてきた結果、トヨタが用意させていただくクルマはフルラインナップになりました

これは、カーボンニュートラル、すなわち、CO2をなるべく排出しないクルマに関しても一緒だと思います。

BEVがいま非常に注目を集めているので、それだけが答えだと思われる方もいるかもしれません。ただ、お客様の声に耳を傾けると、BEVがいいという方がいる一方で、まだまだ今の技術では、利便性が高くないというお客様方がいるのも事実です。

過去からの関係上、今までトヨタを信頼していただいているお客様を裏切るわけにはいきませんし、カーボンニュートラルの時代で電動化がお客様に対して必要な技術になったときにでも、フルラインナップでやっていく。

BEVだけではなく、HEV、PHEV、FCEV、そして水素エンジン、いろんな選択肢をお客様にご提供させていただくのが一番いいと考えています。

「エコカーは普及してこそ環境への貢献」。これは、1997年に世界初の量産ハイブリッド乗用車プリウスを世に送り出したトヨタの、環境技術開発における基本的な考え方である。

いくら環境に良くても、選ばれなければ環境負荷を抑えることはできない。多くの人に選ばれるためには、お客様にとって便利で手が届くもの、つまり、プラクティカル(実用的)でなければならない。

トヨタのお客様はグローバルに広がっている。先月の決算説明会で前田CTOは、日本の常識では考えられない1万ポンド(約4.5トン)のトレーラーをけん引するような例を紹介し、クルマにはさまざま使われ方があることを説明した。

使用する環境が違えば、お客様の嗜好は変わる。自動車を取り巻く規制も国によって異なる。

違いのある現実を踏まえ、お客様一人ひとりにとって便利で、環境にもやさしい選択肢を提供するというのがトヨタの考え方である。

技術 “開発” に役立つ “生産” 方式

全方位戦略の考え方に続けて、前田CTOは開発投資を抑えるためのポイントを語った。

これだけの開発をしようとすると多大な投資がかかりますが「原単位」=「開発の最小単位」をなるべく小さくしていくことが必要だと思います。

そのときに重要なのが、デジタル化と、トヨタの哲学であるTPSだと思います。開発には大勢のエンジニアが関わり、いろんな情報の流れが存在します。

情報の流れを整理するときに、このTPSが非常に役に立ちます。情報の流れが整理できると、どこをデジタル化すれば効率化されるのかが分かりやすくなります。

昨年、社長の豊田自らTPSを事技系(事務・技術系職場)にも持ち込みました。生産現場だけではなくて、開発現場に持ち込むために、講演をし、メンバーにもその心を植え付けました。

デジタル化においては、コンピューターのシミュレーションや技術が発達したので、これを上手に掛け合わせることで、かなりの原単位を圧縮することができます

こうして、投資一つひとつの原単位を小さくすることで、フルラインナップの電動化にも応えることもしっかりとやっていきたいと思います。

ぜひ、今後のトヨタのカーボンニュートラルに向けて選択肢を広げる活動を見守っていただきたいと思います。

TPS、トヨタ生産方式はその名前から、「工場のもの」と思われがちだ。しかし、それを生産現場に閉じ込めず、“非”生産現場に広げる取り組みも始まっている。

前田CTOは先月の決算発表で、4月に中国・北京モーターショーで発表したSUBARUとの共同開発BEVbZ4X」について、従来のトヨタのクルマに比べて30%程度、開発リードタイムを短縮していることを明かした。今後のBEV車両では、さらにもう10%程度の改善を目指しているとも言う。

  SUBARUと共同開発したBEV「bZ4X」

その中で、TPSの考え方を開発現場に応用することについて、「(リードタイムを縮めることは)結果的にリソーセスをかけないで、少ない固定費で開発ができることにもつながるし、(お客様の嗜好や規制などの)変化に対しても適応力を持つことにもつながる」とその意義を語っている。

未来の技術開発にトヨタが培ってきた強みが生きる。カーボンニュートラルに向けて選択肢を広げるため、トヨタは改善を積み重ねていく。

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