12回目の議長を務めた株主総会。豊田社長はトヨタが国や自治体、従業員、仕入先らに与えた影響を数字で示した。
トヨタ自動車は6月16日、愛知県豊田市の本社で株主総会(総会)を開いた。昨年に続いてコロナ禍での実施となった総会には、前年並みの383人が出席した。
株式会社の最高意思決定機関とされている総会。豊田章男社長は「一年に一度、自分たちの姿を鏡に映し出す大切な機会」と表現する。
会社を支える株主の質問に答えることは、トヨタが大切にしてきた価値観や直面している課題、目指すべき方向など、自分たち自身を見つめなおす機会になる。
「トヨタがいてくれてよかった」「トヨタの株を持っていてよかった」と思ってもらえているか――。経営陣が株主との直接のやり取りを通じて、肌で感じることができる貴重な場でもある。
今年の総会では、株価などの数字に見るトヨタの社会的貢献、カーボンニュートラルへの向き合い方、未来の実証都市・Woven Cityなど、今のトヨタの経営にまつわる、さまざまなテーマが話題に上がった。
今年はトヨタのどんな姿が映し出されたのか。トヨタイムズでは、株主から寄せられた質問への回答を中心に、全6回に分けて振り返っていく。
12年間の経済波及効果
総会の前日、東京株式市場ではトヨタ株が1万円を突破。これは、1949年の上場以来初のことだった。
株価は株主にとって大きな関心事の一つ。最初の質問は、このニュースをきっかけに社長就任から12年間の総括を問うものだった。議長の豊田社長自ら、納税、雇用といったトヨタの社会への貢献を具体的な数字で示した。
豊田社長
「トヨタが売り上げを伸ばして独り勝ち」「トヨタだけが儲けてどうなるんだ」という声が私の耳にも届きます。
ぜひ、ご理解いただきたいのは、12年間の売上の総数は300兆円になります。自動車産業は裾野の広い産業です。約7割の部品が仕入先からの購入部品で、部品を購入する対価として、(その分の金額を)お支払いしています。その金額の累計が230兆円です。
国家予算が1年100兆円と考えると、相当に大きな金額が世の中に回っていると思います。
トヨタは内部留保をたくさん抱え、配分を間違えているのではないかという声も耳にします。皆様にご理解いただきたいのは、12年間でトヨタの連結従業員は5万人増加していますが、これが経済面でどのような影響を与えているかということです。
仮に世帯年収を500万円とすると、5万人×500万円=2500億円のお金が家計に回っています。
また、消費税増加が叫ばれている中、消費税を1%上げると、約2兆円の国富への貢献と言われていることからすると、20兆円の時価総額が上がったということは、消費税10%に値します。
この場で申し上げるのはなんですが、役員の給与は昨年に比べて3%ほど下がっています。労使交渉でも(組合の賃金要求に)満額回答をしました。また、配当金も増加させていただく予定です。
ぜひとも、日本で一番大きな会社がこれからも夢があるような、トップ像が一体どういうものか株主の皆様にも正しくご理解いただき、ご支援いただきたいと思っています。
質問は株価をとっかかりにしたものではあったが、豊田社長は株主だけでなく、国や自治体、従業員、仕入先など、さまざまなステークホルダーへの貢献を具体的な数字で説明した。
日本の自動車産業は一般的に「完成車メーカーを頂点としたピラミッド構造」だと言われている。しかし、この構図を「上位企業による下位企業の支配・搾取の関係」と語られるケースが少なくない。
今回の豊田社長の発言は、自動車産業が完成車メーカーだけでやっているのではなく、さまざまなステークホルダーと互いに支え合いながら成立している産業であり、その経済波及効果の大きさに理解を求めるものだった。
「危機だからこそ耳を傾け、変わろうとする仲間が増えた」
続けて豊田社長は、社長就任以来、強まった想いと、危機を乗り越えてきた12年の経営を振り返った。
豊田社長
入社以来、創業家出身ということで、ずっとマイノリティの扱いをされてまいりました。非常に孤独な中で会社生活を送ってきたと思います。
私の中で次第に強く、大きくなったのは「対立軸からは何も生まれない」ということであり、「誰かの役に立ちたい」「誰かのために動きたい」という想いが、社長就任後、徐々に強まってきたと感じています。
ただ、私が社長で12年間続けられたのは、いろんな危機があったからだとも思っています。リーマンショックによる赤字転落、その後もリコール問題・公聴会、東日本大震災など、100年に一度と言われる大きな危機に一つずつ対処してまいりました。
この危機があったからこそ、私もトヨタも今日まで生き抜くことができたのではないかと思います。危機だからこそ、私の言葉に耳を傾け、変わろうとする仲間が増えたと思います。
解答がない世界で、ただひたすら私と私の仲間たちは、トヨタはどうあるべきかというミッションを掲げ、現実と向き合い、現場とともに動き続けた12年間だったと思います。
一日一日を必死で生き抜くために、行動をしてきたことに対し、その間、全てが正解、成功だったわけではありません。数えきれない失敗、間違いもあったと思います。
しかし、私自身、仲間とともに、行動してきたからこそ失敗も顕在化し、そこで立ち止まり、改善という行動をともに起こしてきたからこそ、現在のこの景色があるんだと思います。
長年、株主様のご支援の賜物で、この景色を皆様とともに勝ち得たと思います。
株主総会直前の日に、(株価が)1万円を超えたということは偶然ではあるかもしれませんが、今日この株主総会に臨むにあたって、我々登壇者を含め、背中を押されたような気がしています。
リーマンショック後の赤字転落から始まった豊田社長の12年間は、その後も逆風の中での戦いの連続だった。それは、トヨタを取り巻く外部環境に対してだけでなく、「トヨタらしさを取り戻す戦い」という内なる戦いでもあった。
質疑の冒頭で、豊田社長は歩んできた道のりの成果をいくつかの数字で示したが、そこに至るまでには、トヨタの「成長」があったはずだ。
それは定量化でき、目に見えるものばかりではないだろう。むしろ、目に見えないものの方が多いかもしれない。
それでも、豊田社長に見えているトヨタの姿は12年前とは全く違うものだった。