連載
2020.10.31

「かけがえのない一日」 ~レース前夜の救世主篇~

2020.10.31

今回のレース前夜の救世主篇ではレース前夜のサーキット場で起こった、トヨタの販売店スタッフと、あるアマチュアドライバ-の物語を紹介する。それは、ドライバーの楽しみを取り戻したいというメカニックの強い気持ちが起こした数時間の出来事だった。

メカニックの強い気持ちが起こした復活劇

「かけがえのない一日」シリーズでは、「ありがとうございます。今日もまた、かけがえのない一日でありますように。」という豊田章男の直筆での宣言篇以降、お客様からトヨタに寄せられた販売店スタッフとの実話を紹介している。

今回のレース前夜の救世主篇ではレース前夜のサーキット場で起こった、トヨタの販売店スタッフと、あるアマチュアドライバ-の物語を紹介する。それは、ドライバーの楽しみを取り戻したいというメカニックの強い気持ちが起こした数時間の出来事だった。

レース前日、まさかの車両大破

いつも乗っている「愛車」を使いサーキットでレースを楽しめる86/BRZ Race2018月に大分県で行われたレースに、名古屋からある男性が遠征で参加していた。前日の練習走行で、本番を意識した攻めのドライビング。その結果、コースアウトし、フロント部分を大破させてしまった。

何カ月もかけ入念に準備してきたレースに出られない悲しみだけでなく、翌日応援に駆けつけてくれる大勢の友人たちへの申し訳なさで憔悴しきっていた。リタイア申請しようとピットを片付けはじめたその時、ある人物が目の前に現れた。

「車両を確認しましょうか?」声をかけるその人は、別チームのメンバーとしてレースに参加していたメカニック。数カ月前に男性が店舗で会ったことのある、トヨタの販売店スタッフだったのだ。

「可能性があるならば…」とクルマを見てもらうと、次第に他のメンバーも修理に取り掛かってくれた。そして作業開始から時間後にはなんとレースに出られるまでの応急処置が完了。翌日には予選を突破し、決勝も最後まで走り切ることができたという。

修理を進める当時の写真

クルマを愛する仲間として、居ても立っても居られなかった

この修理にあたった販売店スタッフが、「GR Garage福岡空港」で働く嶋さんと貞光さんだ。

二人は共にレース好きで、この日も休日の趣味で、自分たちのチームのメカニックとして参加。隣のピットには、2カ月前にレース車両のタイヤ交換でお店にいらした見覚えのあるお客様の姿が。そしてその方が、車両大破によりリタイアしようとしているのを目の当たりにした。

本来ならば他チームなのでサポートを行う相手ではない。しかし、このレースに向け入念に準備されていたことも知っている。同じクルマを愛する仲間として「なんとか走ってもらい、楽しみを取り戻してもらいたい」と居ても立っても居られず助けを申し出たのだ。

車両は大きく損傷、しかしエンジンは無事でオイル漏れもなく、部品さえ揃えば修理できると判断。すぐさまお店にいるマネージャーに必要なパーツを電話で連絡、在庫がない部品はトヨタの系列会社にも助けてもらい急遽調達した。そしてお店からサーキット場まで、マネージャーたちが暗い山道を約2時間かけて届けてくれたのだ。

現場では嶋さんと貞光さん以外のメンバーも加わり「意地でも直します、任せてください」と連携して作業に取り掛かり、修理完了時は「やった!良かった!」と全員で声を上げたという。

修理を見守る男性も、懸命に動いてくれるメカニックのために、遅い時間に営業しているお弁当屋を探して買い出しに。ピットには思いやりの輪が次々と広がっていった。

貞光さんは、クルマを愛する仲間のために「他チームの車両を直すことに全く抵抗がなかった」と語り、嶋さんは「メカニックはクルマを直すのが楽しいし、喜んでもらえると自分たちも嬉しい。達成感だけではなく、諦めないことの大切さを学べた」と話す。

貞光さん

お客様に楽しんでもらうことが、自分たちの楽しみ

嶋さんと貞光さんは共に、子供の頃からお年玉を貯めてはミニカーやラジコンで遊ぶほどクルマが大好きだったという。

嶋さんは「お店にあるレーシングシミュレーターで、小学生のお客様と一緒になって楽しむことも多い」と話す。さらに、免許を持っていない高校生のお客様にはクルマの助手席に乗ってもらいドライブするなど、年齢に関係なく一人ひとりにクルマを楽しんでいただけるよう心掛けているという。

貞光さんも「お客様同士が楽しそうにクルマの話をしていると、自分も会話に入って楽しんでしまう」と話す。

このお店ではお客様に楽しんでいただくだけでなく、お客様同士、さらにはスタッフも一緒になり、全員でクルマの楽しさを共有していることが伝わってきた。

嶋さん(写真右)

無事レースに参加できた男性からは「もう駄目だと思っていたので、完走できるとは夢にも思っていなかった。決勝の最終ラップでは自然と涙が溢れていた」と感謝のメッセージが届けられている。

シリーズで続く「かけがえのない一日」。相手の気持ちを想い、目の前のお客様のために自分にできることを考え実践する、そんなトヨタの販売店スタッフとお客様との間で生まれた実話を今後も紹介していく。

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