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深刻にならずに、真剣に。みんなで助け合って、感謝しあう(自工会会見)

2020.03.25

新型コロナウィルスの影響が拡大する中、豊田章男が今、伝えたかった「前を向くための想い」

豊田章男はトヨタ自動車の社長を務めながら、日本自動車工業会(通称 自工会)の会長も務めている。
3月19日、新型コロナウィルスの影響が拡大する中、自工会の定例会長会見が開かれ、豊田会長が、今の状況について語った。(会見はWEB中継もされ、WEB越しに参加している方との質疑応答も行われていた)

豊田会長は、その挨拶の後半、自身でも「道徳の授業みたい」と語りながら、今の状況にいかに向き合っていくのが良いか?を語った。どうしても暗い話題にばかりなってしまう状況だが、あえて前を向くための豊田の想いであった。

新型コロナウィルスが事業に及ぼす影響について言及する部分が、多くのメディアでは取り上げられる。そのため「道徳の授業みたいな話」は、なかなか多くの人に届かない。ただ、トヨタイムズでは、多くの人に「道徳の授業みたいな話」を読んでもらいたいと考え、挨拶を全文掲載したいと思う。

<自工会 豊田会長あいさつ全文>

皆様こんにちは豊田でございます。はじめに、新型コロナウィルスにより、お亡くなりになられた方に、お悔やみ申し上げますとともに、今も体調を崩されている皆様に、心よりお見舞い申し上げたいと思います。

先日、私どもの会員会社からも感染者が確認されました。
関係者の皆さまに多大なるご心配をおかけしている事、重く受け止めております。

また、自動車の生産面、販売面にも、大きな影響が及んでおります。
供給が滞る部品を別の仕入れ先で作っていただいたり、生産現場の皆が徹底した予防活動をして現場を守り続けるなど、力をあわせ、必死に生産の継続、挽回を目指しておりますが、お客様への納車は遅れており、多くの方にご迷惑をおかけしております。この場をお借りしまして、お詫び申し上げたいと思います。

政府からは、感染拡大防止に向け、早め早めの対策を打ち出していただいております。
先が見えない、何が正解か分からない今の状況においては、とにかく決断をして実行していくしかございません。

一日も早い収束を願い、私どもも、力を尽くして参りたいと考えております。

急激な人と物の動きの停滞は、経済に大きな影響を与え始めました。

今は、先が見通せないことへの不安な気持ちを、みんなが抱いている状況です。

政府におかれましては、今まさに、大きな打撃を受けている中小零細企業や非正規雇用労働者への対応など、先に光を感じられるようなメッセージとアクションを打ち出していただければと思います。

今だからできること

一方、我々自身が何をしていかなければいけないか…
あえて、前向きな言葉を使わせていただければ”改革を一気に進めていく時”と捉えたいと思っております。

今まで「世の中の変化のスピードは早い」というフレーズを幾度となく使ってまいりましたが、こんなにも世の中がガラッと変わることがあるのかというところが正直なところです。

本当に、急激に、そして全ての人の生活が変わることになりました。

その結果、今までは見えてこなかった様々な課題が浮かび上がってきたのだと思います。
生産の現場は、お客様へのご迷惑に直結するため出来る限り、その手を止めてはならないと思います。

度重なる自然災害により、その対応を積み重ねてきましたが、それでも、今回、お客様への影響は避けられませんでした。今後に向けて、まだまだ改善できることはあるはずです。

販売の面では、ネットを活用した消費行動に、世の中が、もっとシフトしていくかもしれません。

そうなることを予測はしておりましたが「クルマは、まだそこまでならないのでは」と、どこかで、そう思っていたかもしれません。

このことだけではないかもしれませんが、自動車業界は、本当に、世の中の進化についていけるのか?見つめ直さないといけないと思っています。

生産、販売といった”いわゆる現場/第一線といわれる職場ではない、”間接職場”では、ずっと言われ続けた「働き方改革」を待ったなしで実行しないといけない状況となりました。

急激に、その実現を迫られたことで様々な問題が浮き上がっております。

多くの人が在宅勤務をしないといけなくなる中で
・人事の仕組みは対応しているのか…
・持ち帰れるパソコンがあるのか…
・それに耐えられる通信容量はあるのか…
・出社できない人がいても仕事が成り立つよう、仕事の優先順位付けや標準化ができているのか…
・横の人を助け合う文化が根付いているのか…

「みんな在宅で」「テレワークで」と言い出してみても、すぐに実現できる状況にはありませんでした。

今、考えて見れば、これらが整っていなければ、本来やろうとしていた「働き方改革」は到底、実現できなかっただろうと思います。

小さな国土の日本は、資源の少ない国です。だからこそ、先人たちは、知恵や努力といった「人の働く力」を資源にして、この国を大きく、強くしてまいりました。

日本に自動車産業が根付いたのも先人の「働き」があったからです。

「働くという日本の資源を今一度高められる機会」…
我々は、あえて、この状況を、そのように受け止めていきたいと思っております。

先日、労使の話し合いが行われました。
以前は、賃金をどうするか?という議論に焦点が当たっておりましたが、ここ数年を経て、大変革をいかに生き抜いていくか?競争力を高めるために、お互い何をしていけば良いのか?など、労使が向き合って真剣に話し合う場に変わりつつあると思います。

まだ、それができているところは一部かもしれませんが、着実に変わってきております。
笑顔あふれる未来のモビリティ社会を、日本が世界に先駆けて作っていくために、我々は、もっと競争力を磨いていかないといけません。

その源泉は間違いなく「人」です。
今は、先行きが、はっきりと見通せませんが、この状況だからこそ見えてきた課題を、着実に乗り越えて、笑顔の未来を目指して参りたいと思います。

「深刻にならずに、真剣に。」「みんなで助け合って、感謝しあう。」

最近、どこの現場にいっても「豊田さんは、この状況をどうお考えですか?」と聞かれます。

共通してお答えしているのが「真剣に考えないといけないが、深刻には考えないようにしている」
ということです。

経済がこの状況になっている1番の原因は「先が見えない不安」です。

先ほど申し上げたような課題に対しては、真剣に取り組み、”進めていけること”を、全力で進めていきたいと思います。

しかし、世の中にはコントロールできる話とコントロールできない話があります。比率で言えば、そのほとんどは”コントロールできないもの”ばかりであります。

”コントロールできない話”を深刻に考えすぎれば、人はネガティブになってしまいます。
ネガティブになっても、何もよくなりません。ネガティブの連鎖は、物事を悪くするばかりです。だから、深刻にはならず、まずはコントロールできる範囲のことを真剣にやっていければ良いと思っております。

自分ではコントロールできないものを、他の誰かが取り組んでくれているかもしれません。

そうしたら「ありがとう」と伝え、そして、誰かが困っていれば、自分ができることで助けてあげる。みんなで、それが出来ればコントロールできること”が増えてくると思います。

「深刻にならずに、真剣に。」「みんなで助け合って、感謝しあう。」

道徳の授業のようですが、このトンネルの先に光を見出すためには、みんなでこれをやっていくしかないと考えております。

こんな時だから、無理にでも笑顔になって乗り越えてまいりましょう。
皆さま、笑顔で、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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