四輪・二輪メーカーのトップがずらり。カーボンニュートラルへの選択肢を広げるため、業界各社が競争と協調でレースに挑む。
四輪・二輪トップがずらり
11月14日、スーパー耐久シリーズ最終戦の本戦が岡山国際サーキット(美作市)で行われ、水素エンジンを搭載したカローラスポーツ(以下、水素カローラ)が完走を果たした。
水素エンジンで戦うレースとしては4回目。予選の日に行われる会見には、活動に賛同し、挑戦を支える企業のトップが登壇するのが恒例となっているが、今回はトヨタを含めて5社の社長がずらり。
豊田章男社長のほかに、マツダの丸本明社長、SUBARUの中村知美社長、ヤマハ発動機の日髙祥博社長、川崎重工業の橋本康彦社長と、四輪・二輪メーカーのトップが顔をそろえた。
会見の冒頭、豊田社長は今回の“仲間づくり”について説明した。
5月の富士24時間レースより、我々自動車業界のカーボンニュートラルにおける挑戦の旅が始まりました。
この半年間、スーパー耐久の各戦で我々の情熱を持った意志ある行動によって、 エネルギーをつくる・はこぶ・つかうに対して、多くの仲間が自発的に増えてきました。
今日の岡山ではエネルギーの選択肢の幅を広げたことにより、つかう側での仲間がさらに増えました。
ST-QクラスはROOKIE RacingのGR スープラ、水素カローラだけでしたが、今回マツダが、バイオディーゼル燃料で走ります。
SUBARUは、来年のS耐でカーボンニュートラル燃料の実証に、トヨタとともに走り出します。
ヤマハとは水素エンジンの性能開発を2016年よりずっと一緒にやってきました。今回ヤマハが川崎重工と一体となって、二輪業界でもカーボンニュートラルに向けて連携されると伺っています。私自身も五感でモビリティーを感じる、1人の人間として、とても楽しみにしています。
また、今回も大分県の地熱由来水素を大林組の協力で、下水由来の水素を福岡市の協力で、太陽光由来の水素をトヨタ自動車九州から、決勝では、福島県浪江町の太陽光由来水素をそれぞれ使わせていただきます。
はこぶの分野ではユーグレナ社のバイオ燃料を使用した、バイオディーゼルトラックで運搬しております。
このように、各社とも未完成の技術をモータースポーツの現場で実証するようになってきました。こうした、意志ある情熱と行動によって、10年後、20年後の未来の姿が変わってくると思います。
ここに集う仲間たちは、「クルマ大好き」「運転大好き」「モータースポーツ大好き」。そんな仲間たちの意志ある行動をこれからも応援いただきますようよろしくお願いします。
最初のレースとなった富士スピードウェイ(静岡県小山町)の会見では、8つだったバックボードの企業・自治体のロゴの数も今回は20に。
レースを重ねるたびに仲間が増え、毎回、新しいニュースを届けてきた水素エンジンによるスーパー耐久への参戦。
トヨタイムズでは、今回の最終戦も前後編の2本立てで紹介する。前編は来期へ向けて加速する“仲間たち”の挑戦について。
マツダ:石油を1滴も使わない次世代バイオディーゼル
最終戦で水素カローラと同じ開発車両が走るクラスST-Qに加わったのが、次世代バイオディーゼル燃料を使用するマツダのデミオだ。
丸本社長は「カーボンニュートラル社会の実現においては、燃料も含め、さまざまな選択肢を提供することが非常に重要」と説く。
そんなマツダが燃料として採用したのが、広島でともに実証実験を行うユーグレナの100%バイオ由来でできた「サステオ」。ミドリムシと廃油を原料とする、石油を1滴も使わない国産のバイオ燃料だ。
今回は100%サステオでレースに参戦したが、既存の軽油に混ぜて使用することもできる。分子構造は軽油と同じで、JIS規格、品確法上も軽油の扱いとなっており、既に世の中に出回っているクルマでCO2が削減できる。
既にジェットエンジンにも扱われており、丸本社長も「あらゆるエンジンで可能性がある夢のある技術」と期待を寄せる。
ユーグレナの出雲充社長によると、コストは「1Lで1万円」ほど。しかし、「新たに2000倍大きい工場を立ち上げて、規模の経済で2025年に200円くらいの常識的なレンジに持っていく」と普及へ自信を見せた。
なお、マツダは来季のスーパー耐久でフル参戦を見据えている。
SUBARU・トヨタ:バイオマス由来の合成燃料
10月29日にトヨタが詳細を発表した「bZ4X」はSUBARUと共同開発車したBEVだ。2022年年央に世界各地での発売を予定しており、SUBARUではいわゆる“兄弟車”のソルテラが発売される。
カーボンニュートラルに向けて電動車で手を取った両社は、来季、スーパー耐久のST-Qクラスに、バイオマス由来の合成燃料を使用する車両を投入する。SUBARUはBRZ、トヨタはGR86をベースとした車両になる予定だ。
中村社長は「自動車に対する理解の深いモータースポーツファンの前でしっかりと進めていきたい。レースはガチンコ勝負なので、競い合いながらカーボンニュートラル実現に向けて、いろいろな選択肢で挑戦をしていきたい」と意気込む。
豊田社長も「使う側にライバルが増えてきたのはいいこと。(ST-Qクラスは)今までROOKIE RacingのGRスープラと水素カローラのみだった。そこにマツダ、スバルが入ってくる中での表彰台は価値がある」と応じた。
具体的な燃料の種類はまだ決まっていないが、いずれの燃料になってもこれから課題を洗い出していく段階。ファンが見ている前で、競い合いながら、開発を進めていく。
来季、ST-Qクラスでは、水素カローラに加え、マツダの次世代バイオディーゼルで走るデミオ、合成燃料で走るSUBARU BRZ、トヨタGR86が走る。
カーボンニュートラル社会に向けて選択肢を広げるために競い合う各社の戦いから目が離せなくなりそうだ。
川崎重工・ヤマハ:水素エンジンの共同開発
オーストラリアの褐炭でつくった水素を日本へ「はこぶ」パートナーとして、前回、会見に出席した川崎重工。そして、2016年からトヨタとともに水素エンジンの開発をしてきたヤマハ発動機。
この度、両社は二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同研究について、検討を開始すると発表した。
二輪車にも電動化の波は押し寄せている。原付バイクから始まった電動化も、最近では大型の電動バイクが登場するなど話題にもなっている。
一方で、趣味性の高い大型バイクの電動化は、電池が大きく、重くなり、航続距離も落ちてしまうなど、バイクの楽しみがなくなってしまうとの指摘もある。
水素エンジンについても、燃料タンクのスペースの問題など課題は多いが、日髙社長も橋本社長もエンジンへの想いは強い。
ヤマハのことを「社名に『発動機』とあるように、内燃機関へのこだわりを人一倍強く持った会社だ」と表現する日髙社長は、60年以上にわたってエンジン部品を手がけている地元の企業から「トヨタがやっているような内燃機関を残す選択はないのか」と相談を受けているエピソードを紹介。
橋本社長も「内燃機関をつくる我々のサプライチェーンには、日本の誇る技術が結集している。この国の企業とともに、水素を通じて、こういった良さを残していく」と水素エンジンにかける想いを語った。
内燃機関については協力しながらも競争領域となるが、エンジンに水素を送る配管・吸気関係の部品などについては「量が見込めないと部品メーカーの協力が難しい」と日髙社長。
ホンダやスズキにも声を掛けており、二輪オールジャパンで内燃機関を活用したカーボンニュートラルの可能性を探る挑戦が動き出している。
来季へ加速する仲間づくり
今回登壇した各社は、いずれも日本自動車工業会(自工会)の会員(川崎重工はカワサキモータースが会員)でもある。
自工会の会長として、豊田社長が繰り返してきた言葉がある。
「どんなに優れた技術でも、お客様に選ばれ、使われなければ意味がない。お客様のライフスタイルをカーボンニュートラル化していくという意味でも、私たちはペースメーカーの役割を担える」
今回集まった5社はバイクやクルマといった最終製品を顧客に届けるBtoCのビジネスを行っている。
いくら素晴らしい技術であっても、それが手の届くもので、実用的でなければ、普及はしていかないということを実感している間柄でもある。
これから鍛えていくのは、人々のライフスタイルを変化させる可能性を秘めた商品や技術である。だからこそ、ファンが見守るモータースポーツのオープンな現場で、プロセスを共有しながら磨き上げ、見極めをしていく。
カーボンニュートラルに向けた仲間づくりと技術開発。2050年に向け、アクセルをさらに踏みこんでいく。