バッテリーEVシフトが進む欧州に"初上陸"した水素エンジン車。モリゾウこと豊田章男社長が、自らハンドルを握って伝えたかったこととは。今年4月にトヨタ自動車に入社した富川悠太が取材した。
トヨタ自動車のマスタードライバーでもあるモリゾウは、これまで国内外のレースで幾度となくクルマを走らせてきた。しかし、今回の世界ラリー選手権(WRC)への参加には特別な意味がある。新たにトヨタイムズに加わった富川悠太がモリゾウの走行に密着した。
今回モリゾウが運転したのは、トヨタが市販化に向けて開発中の水素エンジンを搭載したGRヤリス。これが、海外の公道で「水素エンジン車」を走らせる初の機会となった。それも、カーボンニュートラル社会への道として「バッテリーEV」へ舵を切ってきた欧州で。WRCといえば、「ラリー」の世界最高峰の戦いである。熱狂的なラリーファンも多い欧州で、WRCを舞台に水素エンジン車で走行したことは、市民の耳目を集める絶好の機会となったようだ。
舞台はベルギー西部の町、イープル。普段はのどかな田園都市が、ラリーファンたちの活気で熱を帯びていた。走行前、会場に現れたモリゾウも、チームのドライバーやメカニックたちと楽しげに言葉を交わしていた。
「貴重な機会ですよ、しかもカンクネンさん(と一緒)ですからね!」 4度の世界チャンピオンに輝いた伝説のラリードライバー、ユハ・カンクネン氏がコ・ドライバー(助手席で指示を出す役)を務めることにも喜びをあらわにしていた。
モリゾウとカンクネン氏が走ったのはWRCのコースそのもの。WRCドライバー達が戦う直前の道で、その“デモ走行”は行われた。密着取材の中で、出発直前、そしてクルマから出てきた直後にモリゾウが発した言葉とは?
走行直前のモリゾウへのインタビュー(一部抜粋)
富川
世界ラリーのコースを実際に走られる。どんなお気持ちなんですか?
モリゾウ
このクルマと一緒に走ることに意味がある。水素エンジンじゃないですか。
今はカーボンニュートラルが世の中に必要ですが、多様な世界には多様な選択肢が必要。BEVだけをやればいい、という、一つの選択肢という風潮がある中で、敵は炭素だよねと。
「内燃機関を使ったCO2ゼロのクルマ」で世界大会を走れることが、多くの方の五感に触れてカーボンニュートラルの一つの選択肢を感じてもらえれば、すごく意味があること。
「水素=爆発」という危険なイメージがあるが、私自身が乗ることで「水素=未来の選択肢」というメッセージに変わることを期待します。
富川
明日は助手席に乗られますか?
モリゾウ
明日は助手席 * 。カンクネンさんの走りと、水素エンジンを、最終SS(スペシャルステージ)でより多くの人に感じていただける。
*カンクネン氏と、ドライバー/コ・ドライバーの役割を交代富川
(コ・ドライバーとして)指示を出したりは…
モリゾウ
(笑い出す)
富川
初めてですか?(小声)
モリゾウ
初めてです、コドラは初めてで…(小声)
モリゾウのお茶目な一面も垣間見える今回のインタビュー、ぜひご覧いただきたい。