もうひとつの年頭あいさつ~グローバル企業の生きる道~

2019.02.06

複雑化していく世界の中で、グローバル企業はどう生きるか。豊田が全世界の従業員に伝えた道しるべとは。

豊田章男が全世界の社員に語ったこと

1月11日午前、豊田章男社長は米国の約5000名の社員の前に立っていた。実はトヨタには、国内の社員向けに行われた年頭あいさつとは別に、全世界の社員向けに英語で行われたもうひとつの年頭あいさつ、“New Year's Address”が存在する。

米国テキサス州プレイノ市にあるトヨタの北米本社からほど近い、ドクターペッパーアリーナ。T-シャツにジャケット、スニーカーというスタイルで、世界中の社員へ向けたメッセージを届けるために、1年ぶりにそのステージに登場したのだ。

登場した豊田章男

多くの日本企業では、トップが今年の抱負や目標を掲げる何らかの社内コミュニケーションを行っているだろう。近年は日本以上に海外の社員が多いといった企業もめずらしくなくなり、文化の違いを越えて、一体感を作るのも簡単ではない時代になっている。

そんな時代に、全世界の約35万人の社員とどのようなコミュニケーションをしたのか、何を語ったのか、米国で行われたその45分間を超えるステージの一端を紹介したい。

全世界の社員の共通言語、“クルマ”を年賀状に

「トヨタの年賀状はクルマ」だと豊田社長は言う。正月の箱根駅伝で選手や観客の安全管理を担った「白いGRMNセンチュリー」、CES®で公開された自動運転実験車「TRI-P4」…

写真:白いGRMNセンチュリー
写真提供:月刊陸上競技
写真:TRI-P4

そして、米国の社員へのNew Year Cardは「スープラ」だった。デトロイトショーの3日前、本来はトップシークレットであるはずの、公開前のスープラの映像を、社員に見せてしまったのだ。

これは就任以来、“もっといいクルマをつくろうよ”と言い続けてきた豊田社長が、そのひとつの象徴でもあるスープラの復活を、その目標に向かってがんばっている社員とともに一緒に祝福したいとの強い気持ちがあったからだ。

写真:スープラ

実際に豊田が社員に語った内容を引用していきたい。

==豊田社長スピーチの和訳==
“チームトヨタのみなさん、
そして、チームレクサスのみなさん、こんにちは!
私たちは、皆、同じ大きな家族の一員です。
プレイノに戻ってくることができ、とても嬉しく思っています。

だけど、正直に言うと、
私は世界中どこにいても幸せなのです、
胸にトヨタのロゴを付け、心にトヨタウェイを
持った人がいる場所であれば。…というのが本心です。”

デトロイトで発表予定のスープラを皮切りに、レクサスのコンセプトカーの紹介、CASE(コネクティッド、自動運転、シェア、電動化)での闘いといった、クルマをど真ん中に置いた社員との対話が続く。

そして、ルマン24時間レースでの優勝、世界ラリー選手権での年間タイトル獲得を祝うという流れの中で、もう一つサプライズが…。

写真:会場の様子
“重要なのは、皆が地球単位で考えることです。
同時に、我々の水素を含む、電動パワートレインが
運転して楽しいものであることも担保しなければいけません。
我々なら絶対に出来ると確信しています。

トヨタがハイブリッドカーでルマンに参戦する理由もその一つであり、
2018年には優勝をしました!しばらくかかりましたが、やっと言えます。
私たちは、「ルマンチャンピオン」だと!
トヨタガズーレーシングチームおめでとう。

ハイブリッド技術の信頼性と運転する楽しさが
共存できることを証明してくれました。

2018年、ガズーチームは絶好調でした。
世界ラリー選手権でも参戦2年目にしてヤリスで
チャンピオンになることができました。

世界ラリー選手権のレジェンドであるトミ・マキネン氏が、
三菱から辞めた後に監督としてチームに加わってくれました。
ありがたいことに、今は、トミにはトヨタレッドの血しか流れていません(笑)”

この後、世界ラリー選手権で活躍するWRC版ヤリスが、爆音とともに、突然、年頭挨拶のステージに登場したのだ。

写真:WRCヤリス
“16バルブ、1.6リッター、直列四気筒エンジン…
このサウンドが聞けるなんて最高です。しかも、朝からね(笑)”

一人ひとりが、私の代わりに社長になるための研修の身

そして、昨年末に行われた大きな役員体制、組織改正についても触れている。クルマの概念が大きく変わろうとしているこの時代、これまで以上のスピードで、即断、即決、即実行できる組織に生まれ変わるために、大切なこととは何か…。

“先月、組織改正を行い、日本で発表しました。
主に日本国内でのマネジメント体制に関わることですが、
変革に込めた想いは、皆さんにも通ずるところがあります。

簡潔に申し上げますと、トヨタで働く皆さんの評価は、
年齢や職位といった、予め決まっている指標ではなく、
個人の強みや成果によって判断されるように変えていきたいと思っています。

同時に、皆さんには、コミュニケーション向上の努力を続け、
より早く決断し、より早く結果に結びつけていけるよう、お願いしたいと思います。
「前例が無い」という理由だけで決断しないことは、私には通用しません。

もし決断が間違っていたとしても、決断をすること。
常に学び、改善し、前進していくことが大切です。

自分の仕事でベストを尽くし、他の人の仕事からも学ぶ。
トヨタでの学びが増えれば、一人ひとりがベターベターで仕事が出来るようになり、
やがて職場全体の力が向上するはずです。

一人ひとりがいずれ私の代わりに社長になるための研修の身と考えてください。”

グローバル企業の生きる道

スピーチの最後に触れたのは、全世界の社員に向けた熱い想い。世界中の多くの人に支えられ、世界中の社員がお互いに助け合うことで成り立っている“トヨタ”という灯を絶やすことなく、未来にバトンタッチしていくためには、感謝を忘れずに、こころひとつに闘っていこう、というメッセージを世界中の社員に向けて投げかけた。

写真:豊田社長
“個人でできることも大切ですし、
チームで成し遂げることも同じように大切です。
だからこそ、仲間の声に耳を傾け、互いに感謝し、助け合う。
時に難しいこともあるでしょうが、私たちが頼れるのは仲間です。

どんどん複雑化し、分断されていく世の中で、
共通のトヨタの価値観に基づき、我々は共に闘いましょう。

世界市民として、この世の中が、より幸せで、人に優しく、
良い場所になるように、私たちができることをしましょう。
私たち自身が世の中のお手本になれるように、誠実さや
謙虚さ、お互いへの尊敬の気持ちを忘れないようにしましょう。

なぜなら、「トヨタウェイ」とは、ただの言葉ではないからです。

トヨタが進むべき道を照らす灯であり、
その灯はトヨタという企業の本質を表し、
私たちはその灯を絶やすことなく輝かせ続けなければなりません。

私たちの行動で、気持ちで、想像力で、世界を変えましょう。
皆で力を合わせれば、私たちには出来るはずです。
私たち皆が合わさってのトヨタなのです。”

実は、このアメリカでの年頭挨拶について、豊田社長自身が出演するZIP-FMのラジオ番組“DJ MORIZO HANDLE THE MIC”でも、自ら語っている。その様子はこちらから聞くことができるので、関心のある方は、ぜひ聴いてみて欲しい。

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