ホンダとトヨタ共催のモータースポーツイベントが開催された。競い合うライバルの2社がなぜ手を組んだのか?
3月2・3日の週末、三重県の鈴鹿サーキットで
モースポフェス2019というイベントが開催された。
“モースポ”とはモータースポーツのことであり、
鈴鹿サーキットを運営するモビリティランド、
本田技研工業(以降ホンダ)、トヨタ自動車(以降トヨタ)の
3社共同で開催されたイベントである。
ホンダとトヨタ…、
本業のクルマ屋としては競い合う2社、
モータースポーツでも競い合うライバル同士、
なぜ2社が手を組んでイベントを企画したのか?
その答えがイベント当日の鈴鹿にあった。
オープニングセレモニーを駆け抜けたバイクとクルマ
イベント初日のオープニングセレモニーでは、
ホンダのF1車両をはじめ国内外のレースでチャンピオン争いをした
両社のレーシングカーやバイク、
そして、サーキットでは普段見ることのないラリーカーなど、
ホンダとトヨタのあらゆるモータースポーツ車両が一斉に走り出した。
コースを数周した後、観客席前に停められたクルマやバイクからは
世界や日本のトップカテゴリーで戦うドライバーやライダー達が降りてくる。
そんな中、1台のバイクと1台のクルマだけがコース上に残って走り続けていた。
先を行くバイクは、昨年のル・マン24時間耐久2輪レースを制したCBR1000、
それを追うクルマは世界ラリー選手権で
シーズンタイトルを獲得したヤリス(日本名ヴィッツ)。
多くのファンが見守る中、2台だけのランデブー走行が続く。
ホームストレートに戻り、停車した2台から降りてきたのは
ホンダ、トヨタそれぞれの社長だった。
CBR1000からはホンダの八郷社長、ヤリスからはトヨタの豊田社長…
ヘルメットを取りスタッフに渡すと、代わりに渡されたのはマイクであった。
そこから二人の会話が始まった。
ちょっとしたお願い
その場の司会となったモビリティランドの山下社長から
最初に挨拶を促されたのは豊田社長だった。
「皆さん、こんにちは! さっきの音聞きました!?」
レーシングカーやバイクのエンジン音は、どれも特徴がある。
それらが一斉に駆け抜ける音は、普段のレースでは聞くことのない音のブレンドである。
それを耳にした高揚感を豊田社長は、開口一番、大勢のファンと分かち合った。
「(こんな音を聞けた)鈴鹿サーキット…
これは八郷さんに、ちょっとしたお願いをしたところから始まりました!」
「普段は競い合っている2つのメーカーですが、
ファンの皆さまのおかげで今日というこの日ができたと思います。
本当にありがとうございました!」
豊田社長は、自身がホンダの八郷社長に“ちょっとしたお願い”をしたことが
このイベントのきっかけだったと語りかけた。
ライバル会社のトップ同士は仲が悪い!?
次に八郷社長が話し始めた。
「今日は本当にこのように多くの皆さんに集まっていただき
大変うれしく思っています。」
「豊田社長とは普段は仲悪くないので…、(むしろ)普段から仲が良いので、
本業では競争し、レースでも競争していますけども…
一緒にオールジャパンで、このモータースポーツを盛り上げていきたいと…
そういう想いで今回一緒にやらせていただきました!」
多くのお客様にモータースポーツの魅力を知ってほしい…、
もっとクルマを好きになってほしい…。
そんな2人の社長の共通の想いが
今回のイベントを実現させたということだった。
そのことをレーシングスーツを着た二人の社長が気さくに語りあっている…
これには大きな説得力があった。
二人は友達!?
その時、豊田社長が、八郷社長の喋りに口を挟んだ…
「さっき(今のデモ走行で後ろから)煽ったら友達やめるよ!とか言ってましたけど(笑)」
八郷社長も言い返す…
「乗ったバイクにはバックミラーついてなくて煽られたかどうかわからなかったですけど、
あとで映像をチェックしてみます!」
どうやら2人は友達同士であるという。
この会話は確かに、そんな仲の良さをにじませる。
直接かけられた電話。その会話は・・・
そんな会話に、このイベントでの盛り上げ役を務めるレーサーの二人、
脇阪寿一と伊沢拓也が入ってきた。
伊沢はホンダ陣営のチームで国内トップカテゴリーを戦う現役レーサーである。
脇阪はトヨタ陣営のチームでトップカテゴリーからは現役を退いているが、
監督としてチームを率いている。
また、TOYOTA GAZOO Racingのアンバサダーという立場も持ち、
ハンドルだけでなくマイクも握りながらモータースポーツの魅力を多くのファンに伝えている。
そんなモータースポーツに携わる張本人たちが、先頭に立ってイベントを盛り上げるというのも、
このイベントの大きな魅力のひとつであった。
そんな脇阪がさっそく豊田社長に話しかけた。
「章男社長、体調崩されたとお聞きして、我々すごく心配していました。」
これは2月13日のトヨタイムズ記事
「トヨタ 春交渉2019」~話し合いの始まり~」で体調不良が報じられていたからだ。
豊田社長は答えた。
「本当に体調壊していたんですけど…、今も壊れてますけど…」
「八郷社長から電話もらったんですよね」
電話と聞いて、脇阪は驚いて「直接ですか!?」と聞き返した。
そして豊田社長は続けた。
「はい、直接。」
「体調を心配してる感じでおっしゃっておられましたけど、
結局は今日来いよ!ってって意味だったんですよね。
代役がきかないんだから来いよ!みたいな感じでね。」
今度は八郷社長が話をかぶせていく。
「ちょうどですね…、体調崩してるみたいだと聞いたんで
自分の携帯から、豊田社長の携帯に直接電話をして体調大丈夫ですか?と」
「体調悪くても必ず来てくださいね・・・
ということでお願いをして、今日は来てもらえました。」
歴史的な瞬間!?
この二人のやりとりを聞いた感想を脇阪はその場で観客席に語った。
「でも、お二人が、ここに揃われるのと、揃われないのでは
もう全然ちがいますよね。歴史的な瞬間に居てるような気がします。」
二つの自動車会社の社長が、お互いを友達同士と言いながら立ち話をしている。
それも大勢の観客が見守る中で…しかもレーシングスーツを着ながら…。
脇阪の言葉を借りれば、これは “歴史的な瞬間”だったと本当に思えてくる。
鈴鹿に集まった多くのファンも、そんな場に居てるような気持ちになっただろう。
そんな歴史的瞬間からスタートしたイベントは2日間で5万人のファンを集め
「こんな楽しいイベント、これからも続けていってほしい!」
そんな声をたくさん残しながら幕を閉じていった。
イベント後に、豊田社長からホンダの皆さんへのお礼の“声”が届いたので紹介したい。
「また一緒によろしくお願いいたしま~す!」
この“ちょっとしたお願い”もホンダの八郷社長に届くことを期待したい。