様々なフィールドで戦うアスリートたちの、バックグラウンドや競技にかける思いをご紹介します。第2話は、名古屋グランパス ディフェンダーの新井 一耀選手。
※本記事は、トヨタグローバルニュースルームに2018年7月10日に掲載されたものです
様々なフィールドで戦うアスリートたちの、バックグラウンドや競技にかける思いをご紹介します。第2話は、名古屋グランパス ディフェンダーの新井 一耀選手。
5月30日、トヨタスポーツセンター内にある名古屋グランパス(以下、名古屋)の会議室で待っていると、「よろしくお願いします!」と爽やかに1人の青年が入ってきた。背番号5番、ディフェンダーの新井 一耀。
2017年8月に横浜F・マリノス(以下、横浜)から期限付き移籍で名古屋へ加入。すぐにレギュラーとして守備の要となり、2017年のシーズン終了後に完全移籍した。新井はどんなサッカー人生を歩んできたのだろうか。
環境に恵まれた学生時代
サッカーを始めたのは小学2年生の時。友人に誘われて小学校のチームに参加し、そのまま加入した。
「それまではあまりスポーツに対して興味がありませんでした。自分から何かをやりたいと言ったことはなかったと思います。」
それでも、これまでサッカーを続けているということは、何か感じるものがあったのだろう。彼のプロフィールには、日本高校サッカー選抜、U-20日本代表、全日本大学選抜、ユニバーシアードサッカー日本代表と、輝かしい経歴が並ぶ。だが、本人はさほどすごいことだとは思っていないようだ。
「中学・高校・大学と挫折はなかったですが、目立って活躍しているという意識はなかったです。ただ、指導者とか、周りの環境に恵まれていたなと思います。」
身長1m86cmの大型ディフェンダーとして将来を嘱望され、2016年に横浜へ入団。2017年8月に、J1復帰に向けてディフェンスラインの強化が急務だった名古屋が期限付き移籍で獲得した。
そんな彼が、サッカー人生で初めての大きな壁にぶつかった。期限付き移籍からわずか1カ月後の2017年9月、左膝の前十字靱帯を損傷。全治8カ月の大ケガを負った。2018年5月に復帰を果たすまで、長いリハビリ生活を過ごすこととなる。
リハビリ生活で気付けたこと
2017年9月9日、J2リーグの大分トリニータ戦。無理な体勢で相手選手のボールを取りに行った瞬間、足をとられて転倒してしまった。
「今までにない感覚で、膝が1回外れた感じがしました。痛すぎて動けなくて、膝もどうやって動かしたらいいか分からない。やってしまったと思いました。」
期限付き移籍をした直後から活躍していた新井の戦線離脱は、J1昇格をかけて戦っていたチームにとって大きな痛手だった。新井自身にとっても、レギュラーとして定着しつつあり、まさに「これから!」というタイミングでの負傷だった。
「試合にも出て良い経験ができていた中でのケガでした。チームもJ1に昇格するために結構苦しい状況だったので、もっと試合に出て貢献したかったし、自分も成長したかったという思いはとても強かったです。」
手術を経て、長いリハビリ生活が始まった。辛く、苦しいリハビリ生活を想像していたのだが、本人は至って前向きだった。
「一日一日で多少の浮き沈みはありましたけど、大きく沈んだっていうのはあんまりなかったと思います。自分の足りない部分を見つめ直す良い機会としてやっていました。もちろん筋肉が落ちてしまっているので、それを付けるとなると肉体的にも精神的にもきつい部分はありましたし、試合を見ている時はもどかしかったですけどね。」
淡々と語る新井だったが、チームに帯同するドクターの深谷に話を聞くと、ケガと向き合い乗り越えてきた新井のメンタリティの強さが見えた。
「本人は言わないですが十分辛かったと思います。手術を受けてから、入院中に熱が出たり、リハビリができない時期があったりと、相当沈むこともあったはずです。人は何か悪いことが起きた時に、まず自己否定から入ります。 『何でこうなったんだ』と。現実を受け入れるまでには色んなプロセスがあって、彼はそこを経て前を向いていると思います。」
リハビリをそばで支えてきたトレーナーの穂積もこう話す。
「自己否定の期間が長くなればなるほど、それをクリアするために時間が必要となります。だからすぐにリハビリっていうより、まずは話をして心のケアから始めることが多い。でも彼の場合は、そういうのがほぼないに等しかったです。実はあったのかもしれないですけど、外には出さず現実を見つめて、自分が何をしなければいけないのかちゃんと理解していました。」
期限付き移籍中にケガを負ったことで、今後どうなるのか少なからず不安はあっただろう。しかし、メディカルスタッフをはじめチームが彼に寄り添いお互いに向き合うことで、二人三脚で乗り越えてきた。
「チームがここ(名古屋)で治療をして残ってほしいということを、早くから伝えていました。チームにとって大切だと、彼に伝わっていた。それもあってリハビリの段階へスムーズに進むことができたんだと思います。」
新井自身も皆に支えられたと感じていた。
「メディカルスタッフの人が常に気にかけてくれて、良くなるように最善を尽くしてくれました。他のスタッフやチームメイトもみんなが気にかけてくれていて、自分は1人じゃないと思えた。改めてチームスポーツの素晴らしさを再認識できました。」
当たり前だったことが当たり前じゃなくなった時、改めて気付くことがある。ケガを乗り越えたことで、チームと新井の絆は更に深まっただろう。
経験者にしかできないこと
「ケガを経験した人にしか分からないことがある。それを伝える役目もある。」
ドクターの深谷は、ケガを経験した選手に必ずこう伝えるそうだ。ケガをして不安を抱える選手にとって、経験者の言葉はリハビリ生活を乗り越えるための一つの糧になるだろう。ただ、自らもリハビリ生活を送る最中に、そんな心の余裕があるだろうか。
「彼は言わなくても自然と役目を果たしていました。自分のことをしっかりやりながらも、周りのことをちゃんと見ている。真面目で非常にバランスの取れた選手だと思います。」
トレーナーの穂積も同じように新井のことを見ていた。
「リハビリ中も選手同士で楽しくいじったり、いじられたりしていて(確かに、取材中にも#9長谷川選手に冷やかされる場面に遭遇)。人徳というか、彼の人の良さが周りに対して良い影響を与えていました。ケガをしてリハビリをしている他の選手にも、『一緒にやろう』とか、やっているメニューを見て声をかけるなどのコミュニケーションを取っていました。」
ケガを負ったことで改めて実感したチームスポーツの素晴らしさを、新井自身が体現して伝えようとしているのかもしれない。
完全復帰に向けて
8カ月におよぶリハビリ生活を経て、2018年5月2日のセレッソ大阪戦で復帰し、3試合連続で先発出場するも、前半戦最後の試合では再び休養。あれだけの大怪我をした後では、復帰をしたと言ってもまだ完全に元の状態に戻ったわけではない。
「大勢のファンの声援の中で試合ができることは幸せなことだし、嬉しさもあったけど、自分が思った通りに動けないもどかしさがあって、それが五分五分って感じでした。完全に復活できて、試合にも勝てた時に初めて心から喜べると思います。」
現在はワールドカップ開催のため、リーグ戦は一時中断。前半戦をハードなスケジュールで戦ってきたチームも充電期間に入っている。
「まずは100%の状態に持っていくことが最優先だと思っています。膝がなじんで、自分の思い通りに動かせるようになるまでに時間がかかるので、この中断期間でしっかり動けるようにして、なるべく早く完全復帰したい。そして、シーズン終了までチームのために戦いたい。」
負荷をかけたら、休ませる。その繰り返しで徐々にコンディションを整え、パフォーマンスを上げる。今は膝の状態を見て補強のためのトレーニングや、膝に負担をかけない動きをするためのトレーニングをしているそうだ。
7月18日には中断期間が明け、後半戦が始まる。先発に復帰し、ピッチを駆ける新井の姿が見られることを楽しみにしている。
プロフィール
生年月日: 1993年11月8日
血液型: B型
出身: 千葉県市川市
出身校: 静岡県立清水商業高校 → 順天堂大学
ニックネーム: イッキ
家族構成: 父、母、弟、妹
競技のこと
ポジション: ディフェンダー
代表歴: ’12年 日本高校サッカー選抜
‘13年 U-20日本代表
‘14、15年 全日本大学選抜
‘15年 ユニバーシアードサッカー日本代表
プロ経歴: ‘16年 横浜F・マリノス
’17年8月 名古屋グランパス(期限付き移籍)
‘18年 名古屋グランパス
憧れの選手: 子供の頃は元フランス代表のアンリ選手、今はバイエルン・ミュンヘンのフンメルス選手
自分のこと
性格を一言で表すと: 真面目
趣味: ドライブ
チャームポイント: 笑顔
子供の頃の夢: プロサッカー選手
今の将来の夢: 長くサッカーを続けること
好きな食べ物: パスタ
嫌いな食べ物: ない
好きな音楽: ONE OK ROCK(ワン オク ロック)
好きな漫画: ナルト、ワンピース
異性のタイプ: 明るい人
オフの過ごし方: ゴロゴロ(長期のオフは旅行に行きたい)
一日で好きな時間: ドライブをしている時