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一人ひとりが挑戦を止めない元・町工場 モノづくり、社会の変化をつくりだす進化に迫る

2025.02.28

多様化の時代に、多様な人づくりで立ち向かう元町工場。変化に対応するだけで終わらせない、変化をつくりだす挑戦を追った。

変化に対応する工場

豊田章男社長(20216月)

私たちはこれまで自動車会社として、工業製品をつくってきました。そこで必要とされる人材の特性は「均一性」だったと思います。バラつきがあるものを、誰が作業しても同じ品質でつくることが大切だからです。

しかし、これからはお客様のニーズも社会のニーズも多様化し、モビリティにもハードとソフトの両面で魅力的な性能が求められます。

その中で、多様な価値観や能力を持つ人材が必要になってきたと感じています。この多様な人材こそが、イノベーションをつくりだす原動力になるとも思っています。

2021年6月の株主総会で、豊田社長(当時)はこれからの時代に求められる人づくりについて、このような認識を示した。

多様な価値観や能力を持つ人材を育てる。これは、多品種少量や少量特殊生産のモノづくりに取り組む元町工場が向き合ってきた課題とも一致する。

時代の変化に影響を受けてきた同工場は、今や、変化をつくりだしていく工場として歩み続けている。継承編で見てきた元町工場の歴史の先にある進化を見ていこう。

「『人中心』のマルチパスウェイ」

元町工場の合言葉の1つに、「『人中心』のマルチパスウェイ」がある。宮部義久工場長は、“人中心”に込めた想いをこう語る。

宮部義久工場長

ここでのマルチパスウェイは単にクルマのパワートレーンの種類を指すのではありません。

ブランドを牽引するフラッグシップカーからモータースポーツの現場で鍛えられたスポーツカーなどの多様なクルマがあることに加え、工房から量産までの多様なつくり方、さまざまな部品やクルマの運び方、そして、最も重要なのはさまざまな経験、技能、国籍を持つ仲間と日々クルマづくりをしていることを意図しています。

「選択と決断」の日々の中で、この広義のマルチパスウェイへの貢献にあたって何をすべきか、それぞれの小集団、現場で考え、自分たちの仕事に落とし込み、実行に移す。

多様な仕事に向き合う、多様な仲間のことを思いやる「人中心」の価値観が大切だと考えています。

これを体現する現場の1つが、過去のトヨタイムズでも特集したレストア活動だ。パブリカ、クラウン、セリカと、旧車の復元を行っている。

さまざまな部署から有志が集まるこの活動。グローバル生産推進センター 技能支援室 槌田公彦室長はその意義についてこう語る。

グローバル生産推進センター 技能支援室 槌田公彦室長

良い機械、材料がない環境の中、安定した品質で量産まで実現した昔の知恵や技能を学ぶ。経験したことのない場での対応能力を高め、もっと先のクルマづくりにチャレンジできる人材を育てています。

人がモノをつくっているんだから、人をつくらなければ仕事が始まらない。モノづくりは人づくり。ここを基本にした現場です。

古いクルマを復元することで、新しいクルマづくりに対応できる人材を育てる。まさに“温故知新”の営みが行われている。

レストア活動がターゲットとするのは“高技能者”の資格を持つ工長、組長クラスの技能員だ。このクラスになると、誰かに教わる機会も減ってくるため、自ら学ぶ姿勢を持ち続けることが求められる。ここはそうした人たちがさらに高みを目指すための場としての役割を果たしている。

一般的な技能系の職場では、入社以来、塗装、機械、組立など、それぞれが配属された課や組の中で技能を高め、職位を上げていく。

しかし、レストアでは、そうした技能にとらわれず、1台のクルマを完成させる。

部品が壊れて再利用できなかったり、現在は生産終了していたりという事態に直面することも日常茶飯事。

こうしたケースでも、部品メーカーを見学させてもらい、そこで得た知識を活かして、部品を自作することもある。

仕入先の協力に支えられながら、社内だけでは得られない幅広いスキルを身に付ける。

そうした経験のなかで、クルマを形づくる部品一つひとつのありがたみ、トヨタを支える仕入先一社一社への感謝の気持ちを忘れないでほしいという願いも込められている。

グローバル生産推進センター 技能支援室 レストアG 川岡大記チームリーダー

さまざまな部署からさまざまな職種の人が集うだけでなく、部品メーカーさんにも輪を広げ、レストアに取り組みます。元職場に戻った際にも、この場で出会った仲間に相談をするなど、個人の技能を高めるだけでなく、つながりも形成しています。

1つの空間に多様な人材が集う場は他にも。現在、元町工場では、トヨタの受託業務を行う特例子会社 * 「トヨタループス」の社員が計17人働いている。

*障がい者の雇用の促進・安定を図るため、特別な配慮を行う子会社

元々事業所は本社地区だけだったが、障がいのある方のクルマづくりにおける働き方の可能性開拓を目的として、243月から、元町工場にも人を配属。

ここでは、本社地区でやっている社内便のラベル貼りなどのサポート業務に加え、ラインの配膳作業や部品の用意など製造に関わる作業にも取り組む。

取材時は、先日のラリージャパン会場でも販売されていたGR関連のグッズなどを管理していた。

2025年1月にリニューアルされたGRファクトリーの関係者が着用するユニフォームも工場と連携して貸し出し、洗濯業務を行っている。

長谷友博主幹はトヨタループスとの協業によるシナジーにこんな期待を寄せる。

長谷友博主幹

社内の多くの印刷業務/製本/社内便配布など、僕らが気づかないところで、実はたくさんループスさんのお世話になっていると感じます。

一方で、工場内での障がい者の方々についての理解がまだ浅く、どう接すれば良いかわからない人も多いと思います。

まずは我々の職場が理解を深めることで、協業の場をもっと広げ、今後、ループスさんと元町工場と会社がまさに「Win-Win-Win」の関係になっていけると良いですね。

また生産本部 人事室 技能系人事Gの豊川美香主任はトヨタループスと協業する意義についてこう語る。

生産本部 人事室 技能系人事G 豊川美香主任(現 生産本部横串・支援G)

2022年の労使協でも重要テーマとなった)多様性と全員活躍を進める中で、ループスさんと働くことが一番多様性の勉強になると思いました。

人それぞれ得意な作業があること、それを活かせる仕事を考えること、また必要な環境や配慮を模索することなど、日々たくさんの学びがあります。

みんなで一緒に働くことで、自分たちの職場にもしっかり多様性を入れていこうという協業の場となっています。

トヨタループス 元町分室準備室の宮本隆二室長代行はトヨタループスの社員をよく知る立場から展望を語った。

トヨタループス元町分室準備室 宮本隆二室長代行

トヨタループスには真面目に根気強く業務に励む社員がたくさんいます。

この力を活かし、トヨタ自動車さんの仕事をもっと効率よくできるようにサポートし、また我々は幅広い業務で雇用を増やす。

そんな双方にとって良い未来へ歩んでいけるよう、価値ある仕事を開拓していきたいです。

障がいの有無に関わらず「もっといいクルマづくり」の現場で支え合う。

元町工場にとってその景色が当たり前になるよう、現在、各部の工長へトヨタループスの作業現場を見学し、活躍の場が自職場にないか考えてもらう機会をつくっている。

今後、工長以外の社員へも理解を広げていく予定だ。