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突然はじまったロバと老夫婦の話 11回目の株主総会③

2020.06.16

社長の豊田が持ち出したのは、ロバを連れて歩いても、ロバに乗っても批判される夫婦の話。株主総会で、なぜ?

今回もトヨタイムズでは、株主総会での質疑について伝えていきたい。

議長である豊田社長が「ご質問のある方…」と言うと、会場から多くの手があがる。

議長にあてられた株主は、マイクの前まで移動し番号と名前を告げて質問をする。

ひとりの株主は、マイクの前に立って“5月に発表した決算”のことを話しはじめた。

<株主>

先日の決算発表の場で先期2.5兆円の利益があった。

非常にすごいと思うんですが、今回、ほかの多く会社が今期の見込みに対して「わからない」「できない」という中で、トヨタだけが5千億円の黒字見込みを発表した。その数値はあてになるのか?

なぜ、不透明な数値をトヨタほどの周りから見られている会社が出したのかなと…。冒険的だったと思いますが、社長の真意をお聞かせいただきたい。

先日発表した今期の黒字見通しはあてになるのか?という質問である。

しかし、質問はそれで終わらなかった。

<株主>

また、翌日にマスコミが「トヨタ8割減」と太字で新聞報道をしている。私はマスコミに「え、そっちを書く?」と思った。

今期は先期との比較で8割減になることを報道したと思うんだけれども、今期の見込み5千億円(黒字)を発表したことに対し、マスコミが8割減を(見出しに)躍らせたことに対しての社長の考えを聞かせていただきたいと思います。

株主は自身の“決算報道に対する想い”を述べ、そのことについて豊田社長はどう思うか?と質問した。

前々回のトヨタイムズ「株主に語った豊田社長の胸の内」にも記載されているが、トヨタは2020年度(今期)の営業利益見通しを“普通で考えれば出すことは難しい”としながらも、ひとつの責務として出した。その内容も、コロナの影響を織込みつつも、積み重ねた体質強化の結果として “黒字”を見通している。

株主は会社のオーナーでもある。だからこそかもしれないが、この決算発表を見た時に、「このコロナ禍下でも黒字を確保した」ということを、明るいニュースとして捉えたのだろう。しかし翌朝、「コロナ影響でトヨタの利益は8割も無くなる」という“暗い捉え方”の報道を目にして「え、そっち?」と思ったということだ。

豊田社長は、どう思ったのか?

この質問を議長は誰にも振らなかった。まずは、ひとつ目の問いに答える。

<豊田社長>

あてになるかどうかでございますが、自動車産業は部品の75%を部品メーカーにお世話になっており、非常に多くの会社様のお世話になって成り立っている産業だと思っております。

トヨタが計画を出さないということは、ともに仕事をやっていただいている多くの仕入先様はじめ、いろんな方々が「どうすればよいのか」と大変お悩みになると思いました。そういう意味で、一つの基準となる計画を出したというのが本音でございます。

今回出した数字が“来期のあてになる数字”ということではなく、あくまで“ひとつの基準”でございます。

我々は、これをひとつの目線や計画としてではなく、“最低限、守らなきゃいけない基準”であると社内に伝えております。

何よりご理解いただきたいのは、リーマンショックの時の「販売台数15%減、赤字4600億円」だった会社が、みんなの努力で損益分岐台数を下げた結果、今回、リーマンの時よりも多い販売台数20%減にもかかわらず、こうして黒字を確保できる計画をお示しできたことは、まさしく、(株主の)皆様方の中長期にわたるご支援の賜物だと思います。この場を借りて御礼申し上げたいと思います。

豊田社長は示した見通しを「最低限、守らなきゃいけない基準」と答えた。

続いて、報道に対する想いについても話した。

マスコミの報道について、私も決算発表の当日は、いろんな方から「よく予想を出しましたね」「感動しましたよ」と言っていただきました。

ただ、次の日になると「トヨタさん大丈夫?」「本当に大丈夫なの?」と言われてしまい、一晩明けたときの報道の力に、正直悲しくなりました。

決算発表の翌日、豊田社長も、この株主と同じような思いをしていた。

「話は長くなりますが…ロバを連れている老夫婦の話をさせていただきたい」と続け、豊田社長は“例え話”をはじめた。

ロバを連れながら、夫婦二人が一緒に歩いていると、こう言われます。

「ロバがいるのに乗らないのか?」と。

また、ご主人がロバに乗って、奥様が歩いていると、こう言われるそうです。

「威張った旦那だ」

奥様がロバに乗って、ご主人が歩いていると、こう言われるそうです。

「あの旦那さんは奥さんに頭が上がらない」

夫婦揃ってロバに乗っていると、こう言われるそうです。

「ロバがかわいそうだ」

突然はじまったロバの話に会場は聞き入った。
そして、豊田社長は話を続け“例え話”の意味を解いた。

要は「言論の自由」という名のもとに、何をやっても批判されるということだと思います。

最近のメディアを見ておりますと「何がニュースか?は自分たちが決める」という傲慢さを感じずにはいられません。

「一億総ジャーナリスト」と言われるくらい誰もが情報を発信できる時代です。

情報によって人を傷つけることもできれば、元気にすることもできると思います。

大切なことは、「その情報を伝えることによって、何を実現したいのか」ということだと思います。

もっと言いますと、「どんな世の中をつくりたいか」ということです。

決算発表で、予想を出し、ああいう発言をしたのは、皆様に少しでも元気になっていただきたい。

皆様にトヨタが幸せを量産する会社だと思っていただきたいと思ったからでございます。

株主の皆様は、いわば「会社のオーナー」だと思っております。

トヨタが全てのステークホルダーに幸せをお届けしているか?、幸せを量産できる会社かどうか?を、厳しくも温かく見極めていただき、応援いただきますようお願い申し上げます。

こうして質問の回答を終えた。

豊田社長は、株主総会の終盤でも、こんな話をしている。

私は、暗い世の中はイヤなんです。世の中が明るくなるよう、皆様の元気の源になれるよう、グローバルトヨタ全員で、心をあわせて頑張ってまいります。

コロナ禍にあっても、なんとか世の中を明るくしたい、そのために“自分の力”、“自分たちの力”を使っていきたい…というのが、豊田社長の想いであった。

次回も、引き続き、株主総会での質疑応答をお届けいたします。
次は「モノづくりひと筋50年の“おやじ”からの御礼」。

"突然はじまったロバと老夫婦の話"の動画はこちら(9:01~14:01)
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