「トヨタ・セリカが復活する!?」こんな噂が飛び交っている。噂の出どころは、トヨタイムズでも取り上げている豊田章男会長の発言だった。
セリカ復活!? 豊田会長の発言に注目が集まる
2023年3月5日、新城ラリーの2日目に企画されたスペシャルトークショー。「セリカというクルマに対してのモリゾウさんの思い入れってどうなんですか?」という質問に対して、豊田会長はこう答えている。
「そりゃあ、ありますよ。セリカっていうクルマがね、もう1回欲しいなって感じがしますね。あのクルマはWRC(FIA世界ラリー選手権)でも活躍していましたし、そういう意味ではカローラ、ヤリス、セリカっていう名前はラリーファンにとっても想いのある名前だと思います。トヨタもいろんなクルマを一時期、ドロップしていた時代もありますけれど、ロングセラーのクルマ、そういうのが復活してきましたしね。そういう流れもぜひ、佐藤(恒治)社長が引き継いでくれるんじゃないかなと、淡い期待をしています」
同年9月10日、ラリー北海道の北愛国サービスパークからのトヨタイムズの生放送。「セリカは本当に出るんですか? 期待している人がいるんですよ」という質問に対して、豊田会長はこう回答した。
「それはトヨタ自動車に聞いてくださいよ。(私は)執行じゃないんだもん」
質問者が、「お願いはできるじゃないですか」と食い下がると、「お願いはしていますよ。どういう流れになるかはわからないけれど」と打ち返した。
「お願いしてある、っていうかね、ラリーの会場だから言うわけじゃないけれど、(ユハ・)カンクネンさんって、“イコール”セリカですよ。4回目の(WRC)チャンピオンはセリカでしょ。なぜ私がここまでカンクネンさんに登場していただいているのか、みなさん、考えてみてください」
この発言を補足すると、ラリー北海道では豊田会長と、WRCで4度の世界チャンピオンに輝いたフィンランド出身のユハ・カンクネンがGRヤリスのプロトタイプでデモンストレーション走行を披露している。
現時点では、トヨタから「セリカ復活」の報は出ていない。けれども豊田会長が「もう1回欲しい」と公言するセリカというクルマには、強く惹かれる。
そこでトヨタイムズは、トヨタとセリカの関係について振り返ってみた。
自動車専門誌が絶賛した
セリカの歴史は古く、初代は1970年に登場、日本車初のスペシャリティクーペだった。以後、モデルチェンジを繰り返しながら進化していったが、歴代セリカの中でも豊田会長が言及しているのは、WRCでチャンピオンを獲得した4代目と5代目のセリカだ。
1985年にデビューした4代目セリカは、大きな変更を受けている。それまでは後輪駆動だったのに対して、前輪駆動に移行したのだ。
そして1986年10月、4輪駆動システムとターボエンジンを組み合わせたセリカGT-FOURが追加される。このモデルは、クルマ好きの間では車両型式の“ST165”と呼ばれることが多い。そこで本記事では、ST165という呼称を使いたい。
余談になるけれど、ST165は熱心なクルマ好き以外からも大注目される出来事があった。
1987年に公開されて大ヒットした映画『私をスキーに連れてって』に“出演”。スキー場からの道中、渋滞で進まない雪道を避けるため、ST165で道なき道を疾走する場面は、日本の映画史に残る名シーンだった。40歳代以上の方なら、「あのクルマがST165か」と、ピンとくるはずだ。
閑話休題。
では、ST165とはどのようなクルマだったのか。自動車専門誌の草分け的存在で、日本に自動車ジャーナリズムを根付かせた『CAR GRAPHIC』誌(カーグラフィック)の記事が興味深い。
『CAR GRAPHIC』1986年12月号では、ST165登場の第一報が掲載されている。ポイントは「トヨタ初のフルタイム4WD」ということだ。
当時のトヨタには、ランドクルーザーに代表されるような、悪路に強い4WDシステムは存在した。パートタイム4WDと呼ばれるこのシステムは、普段は2輪駆動で走り、泥濘地などの悪路になると手動で4輪駆動に切り替えていた。ヘビーデューティで悪路に強い半面、舗装路を4輪駆動で走るのには向いていなかった。
一方、ST165のフルタイム4WDは、読んで字のごとく常に4輪駆動。悪路ではなく、舗装路や平坦な道を安全に、速く走るためのシステムだ。
この記事には「トヨタのテクノロジー・イメージリーダーカーとしての役割も担っており」とあるように、ST165は当時のトヨタの先進技術を牽引していたことがわかる。
1987年1月号に掲載された試乗インプレッション記事では、「ファンタスティック!」というタイトルで、ST165が絶賛されている。
日本車として最速レベルの加速力、思いのままに曲がるハンドリング、心地よいエンジン音といった魅力が綴られ、「将来“クラシック”として名を成さないとも限らないのだ。」という言葉でまとめられている。