2019.06.19

「大切にしたい2つの価値
~株主総会:豊田章男からのメッセージ~」 後編

今年の株主総会では、12名の方々から18の質問が出された。トヨタイムズでは議長である豊田の発言を中心に今年の株主総会を振り返りたい。

「情報は現場にある。現場が今どうなっているのかを大切にしたい」

質問

豊田社長はテレビなどで、どんな質問にもよどみなく答えられ、すごく物知りなのだと思います。社長自身はどうやって情報を収集しているのですか。

情報は現場にある
==豊田社長==

私自身、そう、物知りではございません。あまり色々なことを知らないと思います。情報の出発点として大切にしておりますのは、情報は現場にあるということです。自分の経験値よりも、より現場に近い所、商品に近い所の情報、現場で今どうなっているのかを大切にする日々を過ごしています。

他の方と違って1日の時間が長いというわけではございません。1日の時間は24時間です。寝る時間もあれば食べる時間もあるので、情報収集時間は皆様と同じです。

私の周りには20代の方から80代の方、うちの父を含めますと90代の人まで、非常に多様性を持った年代層に囲まれています。例えばSNSですと発信者のモノの見方で、世の中が見えます。私が見ている世の中とどう違うのか、そういう情報収集をしております。

私が意見を言うと、20代から90代の方が、ほぼ10歳刻みに、色々なご意見を言われます。割と意見を言いやすいのかもしれませんが、叱咤(しった)ばかりされます。情報を取りながら、これはこういう言い方をしないといけないとか、そうしたことを日々やっております。

大きな転機になりましたのは、やはり「DJモリゾウ ハンドル ザ マイク」のラジオ番組だとおもいます。ラジオ番組で「モリゾウとコネクト」という場面があり、一般のリスナーの方から質問をいただくことにしています。(質問は)ディレクターは事前に知っているのですが、私には教えない約束にしています。それは、日々、株主総会の練習をさせていただいているような感覚です。

私が答えると、たまにディレクターやナビゲーターの方から「一般の方はそういう答えではわからないと思いますよ」とご指摘をいただくときがあります。それとラジオなので、映像があるわけではありません。例えばジャパンタクシーを説明するときに「背が高くて大きなドアが開いて乗り降りが楽な車でございます」と言うと、なんとなく、その情景が画像が無くても伝えられる、そういう訓練をしております。今、お褒めの言葉をいただきましたが、実はお褒めの言葉をいただいたのは初めてです。

指摘ばかりで「自分が悪いのかな」と考える中、非常に元気づけられましたので、今後ともしっかりと精進を重ねながら、自分の説明で色々な方々にスポットライトを当てられる役割をこれからも演じて参りたいと思います。ご質問ありがとうございました。

「大切なことは創業の原点を見失わないこと」

質問

豊田社長の次に社長になる方はどういう方なのか。すでに次の社長は役員の皆さんの中に候補者がいて、英才教育などを受けられているのか、あるいは、トヨタ自動車以外から連れてこられるつもりなのか。
もう一つ、豊田社長の代で会社をこうしたいという思いがどれぐらい達成されているのか。どれぐらい満足されているのか。以上2つを聞かせてください。

==豊田社長==

この件に関しまして、トヨタの改革が社長10年でどの様な感じだったか。総括を副社長の友山よりお答えいたします。

まいた改革の種を育てて花を咲かせる10年になる
==友山副社長==

まず、トヨタの改革がどこまで進んでいるかについては、正直に申し上げて、これから10年がまさしく正念場ではないかと思います。2009年に豊田が社長に就任して、最初の5年間はリーマンショック、品質問題、それから震災。そうしたものを乗り越えるための期間だったと思います。次の5年間は、次世代のトヨタに改革の種をまく5年間だったと思います。これからの10年は、まいた改革の種を育てて花を咲かせる10年になると思います。

社長の強い意志のもと、全社員が同じ価値観で物事に取り組んでいく必要があると考えています。現在進めている改革には3つの柱がございます。社内の変革、グループの変革、仲間づくりの変革です。

社内の変革に関しましては、2018年1月に社長がTPSと原価低減を加速させ、いわゆる質実剛健な経営の体質づくりと、それに向けた人材育成を含めて取り組んでいます。

グループの変革については、ホーム&アウェイの考え方のもとに、重複事業を競争力のあるグループ会社に集約する。または各社の強みを出し合って、新たなホームを作る。ハイブリッドのように競争力のある製品についてはトヨタ以外にも提供していくなど、着手を始めています。

仲間づくりの変革につきましては、カーカンパニーからモビリティカンパニーに変わると社長が昨年の1月に米国で発表しました。これをきっかけに、車をつくる会社から、それだけではなく、いわゆる移動の価値、その周辺の様々なサービスを提供する企業に変わっていく。そのために様々な異業種の企業と提携していく。そういうことを続けています。

冒頭に申し上げました通り、こういった変革はまだまだ道半ばでございます。これからもいばらの道を歩んでいくと思いますが、その先には必ずや輝かしいトヨタの未来があると確信しております。これからもぜひ、トヨタにご期待いただきたいですし、株主の皆様には、そういったトヨタの変革をこれからも応援していただきたいと思います。

==豊田社長==

後継者の件につきましては、副社長の河合よりお答えします。

豊田社長は一瞬のうちにファンにさせる。
==河合副社長==

先ほど友山からもありましたが、TPSと原価低減、これを掲げてやって参りました。今年は「プロになろう」。こういう言葉を出しています。私が思うプロとは、高い専門性と人間力を兼ね備えた人ではないかと思います。

まずは、自分が目指す人を超える努力と挑戦を続ける。また、部下を自分を超える人材に育てる。すべての人がこんな考えで切磋琢磨すれば、その中から次期社長が必ず出てくると思っています。その時にたまたま、豊田の姓をもっていようが無かろうが、学歴、年齢も関係ないと思っています。この人のために。この人と一緒に闘いたい。そう思える社長であってほしいと思います。

よく社長から私に「現場に行こう」と連絡があります。現場には一切事前に連絡をせず、1時間前に自分の後輩に「今から行くからね」と連絡をします。社長とあるがままの現場をふらふらと回ります。所々に社員が集まっている場所に、社長と入っていきますと、(相手は)一瞬びっくりして固まってしまいます。そこで社長はニコっと笑って、「なんでも聞いていいよ」と。この一言で、一気に話が弾んで、趣味の話だとか、社長は昼休みに何を食べているのかとか、こんな話がどんどん出てくる。不思議な魅力を持っている。一瞬のうちにファンにさせる。
こういう心のある、人間力のある人がふさわしいのではないかと思っています。また、いかなる時も一人ひとりの力を最大限に結集して心をひとつに闘っていけるような社長を探し出して参りたいと思います。

==豊田社長==

私は、社長就任以来、「もっといいクルマをつくろうよ」、「町いちばんの会社を目指そう」と言い続けて参りました。これは、別の言葉で申しますと、「創業の原点に立ち戻ろう」ということだと思っております。

今年の春の交渉の最後に、私は、佐吉翁の遺訓である豊田綱領の意味を私なりに解説させてもらいました。私が皆に伝えたかったことは、トヨタに勤める一人ひとりが自分のことを一番に考えるのではなく、お国のために、お客様のために、自分以外の誰かのためにという気持ちで仕事をしてほしいということです。

ここまで大きくなったトヨタは、もはや社会の公器だと思います。豊田という姓があろうがなかろうが、誰が社長になったとしても、大切なことは、創業の原点を見失わず、未来の笑顔につながることを、年齢を刻むかのごとく積み重ねていくということだと思っています。私は、創業の原点を次の世代に伝えていくということにおいては、ここにいる全員、全社員が、継承者であると思っております。

今の現役も、次の世代も、皆様から応援していただけるよう、何としてもトヨタらしさを取り戻し、しっかりと教育をして参りますので、株主の皆様の変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。

伝えたいことは「危機感」ではなく「価値観」

そして、議案の採決に入る前に、豊田自身の今の思いをこのように伝えている。

創業の原点に立ち戻ろう

==豊田社長==

私なりにこの1年間を総括いたしますと、「トヨタらしさを取り戻す闘いをしながら、同時に未来に向けてトヨタのフルモデルチェンジにも取り組んだ1年」ということになります。

今の私の気持ちを正直に申し上げますと、「トヨタらしさを取り戻すということはこんなにも難しいことなのか」「平時における改革がこんなにも難しいものなのか」ということを痛感する毎日でございます。

モビリティカンパニーに向けたフルモデルチェンジは私の在任期間中にできるものではないと思っております。しかし、トヨタらしさを取り戻すこと、トヨタらしい企業風土・文化の再構築については、社長就任以来、私自身がこれまで最も時間を費やし、苦労してきたことでもありますので、何としても私の代でやりきる覚悟でおります。

今年の決算発表の場で、「生きるか死ぬかの闘いの中で、トヨタが死ぬのはどういう時か」というご質問をいただきました。これに対し、私は、「トヨタは大丈夫だという意識が社内に蔓延(まんえん)した時」とお答えいたしました。
「危機感をあおりすぎではないか」という声がありますが、私が社内に伝えようとしているのは危機感ではなく、価値観です。喜一郎をはじめ、トヨタのリーダーズは、「お国のために」「お客様のために」「自分以外の誰かのために」という気持ちで、もっといいクルマづくりに愚直に取り組んで参りました。

常に「何のためにやるのか」を考え、ベターベターの精神でやり方を変えていくことは、TPSの精神そのものであり、トヨタがずっと大切にしてきた価値観です。そもそも、「常にもっとよいやり方がある」と考えている会社に、「大丈夫」という概念はないはずです。この価値観を取り戻すことが、私の言う企業風土改革であり、「トヨタは大丈夫」という慢心を取り除くことにもなると考えております。

価値ということで申し上げますと、もう一つの意味がございます。トヨタの中には、先行技術を開発している人もいれば、市販モデルを担当している人、アフターサービスを担当している人もいます。これは、皆が心を合わせて、車の現在、過去、未来における価値を向上させているということだと思っております。世間の関心は未来の仕事に集まりますが、現在と過去の仕事を、地道にコツコツと積み上げ、守っている人がいるからこそ、未来の仕事ができるのです。お互いに「ありがとう」という感謝の気持ちで仕事ができれば、それは、車だけでなく、トヨタという企業の価値を向上させることにもつながると私は考えております。

トヨタらしさという価値観を取り戻し、トヨタの車と企業の価値を向上させていくこと。周りからは「危機感をあおりすぎだ」と言われたとしても、私は、この2つの価値に、とことん、こだわっていきたいと思っております。これからも株主の皆様のあたたかいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

昨年のこの場で、豊田は「株主総会は1年に一度、自分たちの姿を鏡に映し出す大切な機会」と述べている。1時間49分に渡って行われた今年の株主総会。株主の方々の目に、豊田の目に、今のトヨタの姿はどのように映ったのだろうか。