2019.02.12

日本を“母国”にしたい ~豊田章男が国内販売店トップに送ったメッセージ~

“トヨタの母国”とは何か?
“日本”のトヨタ販売店のトップを前に、豊田はそう問いかけた。その真意とは?

「全員で頑張ろう」と言わなかった理由

2019年1月23日、販売店代表者会議が開かれた。年に2回、日本全国のトヨタ販売店280社の社長たちが一堂に会して行われる国内販売事業最大の行事である。

ステージ上の豊田社長の写真

3か月前にも、同じ会議が開かれていた。その時、豊田が販売店に語ったのは、100年に一度と言われる自動車の大変革に向けた危機意識。最後に豊田から出た言葉が販売店にとっては衝撃だった。

「今、変わらなければならない。そう思っていただけた方だけで結構です。
私たちトヨタと一緒に、未来のモビリティ社会をつくりませんか。」

今までは「全国販売店と我々(トヨタ自動車)と、“心ひとつ”に頑張っていきましょう」そんな結びが通例だった。しかし、前回の結びは「そう思っていただけた方だけで結構です。」
販売店は、大きな流れの変化に驚いたのだった。

その流れを受けたこの日のスピーチ。そこで豊田が訴えたのは、従来の延長線上にある未来と決別し、自分たちの手で、変革へのスピード感を持って新たな未来をつくるという強い覚悟だった。

==豊田社長スピーチ==

前回の代表者会議でも、その大変革に向け、皆様と一緒に戦っていきたい…、そのために全車種販売へと舵を切り、同時に自らも変わっていかないといけない…、そんな覚悟を、私からお伝えいたしました。

あえて、最後に「変わらなければならない。そう思っていただけた方だけで結構です。」そう申し上げましたのは、何とかして、私の覚悟をお伝えしたい、という想いからでした。少し乱暴な言い方だったかもしれませんが勇気を持って、壇上から、そう言わせていただきました。

その時、皆様のお気持ちが、グッと前のめりになったのを、私は、この壇上から肌で感じました。

従来の延長線上にある未来と決別し、自分たちの手で新たな未来をつくる。簡単なことではありません。しかし、私たちの先輩は、一度、それをやり遂げているのです。そのDNAを受け継いでいるのであれば、私たちにも出来ないはずはありません。

ただし、そこには、「成り行きではない、新たな未来をつくりたい」という明確な意志が不可欠です。だからこそ、「そう思っていただけた方だけで結構です」と言わざるを得なかったのでございます。

では、どのようにして、こうしたやりとりに至ったのか?スピーチの結びに豊田は何を語ったのか?スピーチを前半部分から振り返ってみたい。

オールトヨタの責任者はこの私

米国公聴会における豊田社長の写真
(photo by Mark Wilson/Gettyimages)

平成最後の代表者会議にあたり、豊田はまずこの30年を振り返った。平成は、過去最高の市場規模で始まった。しかしその後はバブル崩壊、リーマンショック、2度にわたる消費税増税などにより縮小の一途をたどる。

2010年には米国に端を発した大規模リコール問題も起きた。豊田は社長就任から1年も経たない内に米国公聴会で証言台に立つことになる。このできごとは、豊田個人にとっても転機になったと振り返る。

==豊田社長スピーチ==

2010年には、米国に端を発した大規模リコール問題もありました。
このリコール問題は、私個人にとっても、大きな転機となりました。

販売店の皆様、仕入先の皆様、従業員のみんな、そして、世界中のお客様。
私が守ろうとしていた方々に、実は、私自身が守られていた。
そのことに気づかされたのが、「この時」でした。

だからこそ、現在だけでなく、過去も未来も背負っていく。
「オールトヨタの責任者はこの私なのだ」と腹をくくれた気がいたします。

縮小する国内市場に希望はあるのか?

電動化 世界ニ位

その後も東日本大震災などの自然災害が続き、ついには国内と海外の生産・販売規模も逆転した。今のトヨタにおいて日本の占めるウエイトは、販売で見れば15%、生産では30%なのだ。販売店の立場に立てば、海外に焦点を合わせた“日本の道に合わないクルマ”が増え、ハイエースやコースターなど、日本の社会に本当に必要な車の商品強化が置き去りにされていたかもしれない。しかし、こうした困難を乗り越える中で、販売店は新車販売ではなく保有のお客様向けの商売で稼げる収益構造を実現してきたのである。

==豊田社長スピーチ==

大変な日々の中で、販売店の皆様の体質は確実に強くなってきたと思います。
ブレークイーブン台数は大きく減少し、新車で稼ぐスタイルから、保有で稼ぐスタイルに劇的に変化されてきました。
東日本大震災の時に、フローで稼ぐしかないメーカーの目から見れば、ストックで稼ぐことができる販売店の皆様の姿は力強く、羨ましくもありました。

縮小の一途で、一見すると希望がないように思える国内市場。しかしながら、豊田が販売店に伝えたかったのは、そこではなく、日本の市場から感じていた “力強い可能性”だった。

国内市場についても、台数とは別の物差しを当ててみますと、
異なる姿が見えてまいります。

「電動化」という視点で見ると、日本は、ノルウェーに次いで、
世界で2番目に進んでいる国なのです。
つまり、日本には、ハイブリッドをはじめとする先進技術を積極的に受け入れ、
育ててくださるお客様がいらっしゃいます。
これは何を意味するのか。

「CASE」と呼ばれる新しい領域での技術革新が進む時代において、
日本はその先陣を切るポテンシャルがあるということではないでしょうか。

「母国」日本の使命とは

豊田佐吉と豊田喜一郎

トヨタの母国は?と問われれば「日本」ということは言わずもがなである。
しかし、豊田は「日本の暮らしを豊かにしたい」という創業者たちの想いを改めて語り、「トヨタの母国は日本である」ということを、あえてその場で強調した。

一方で、台数縮小などにより、日本の存在感がグローバルトヨタの中で薄れてきていることへの悔しさも、あらわにする。

その上で、先述の「日本の市場から感じる力強い可能性」を語り、「日本だからこそ果たせる役割がある」と“母国としての使命”を投げかけた。

“母国”とは、「グローバルトヨタのお手本となる国」
を言うのではないでしょうか。

今、私たちは、100年に一度の大変革の時代の真っ只中にいます。
先ほど申しあげましたように、
国内市場には、先進技術を積極的に受け入れ、育てようとする土壌があります。

世界に先駆けて、日本のトヨタが、日本という国において、
未来のモビリティ社会を創り上げる…

それこそが、“トヨタの母国”としての使命だと、
私は思っております。

販売店トップに聞いてもらいたかったイチロー選手の言葉

イチローさんとの対談

スピーチの最後、イチロー選手の言葉が映像で紹介された。
「人が出来ないって言うことって、誰かがやれば普通になる。」
「1回目やるやつが大事。1人目になりたい」

映像が終わり、豊田は、イチロー選手の言葉に対する自身の解釈を述べた。
「これは経営の話だと思いました。私たちのことを言っていると思いました。」

そして、会場の全員に向けて、こう呼びかけた。

イチローさんが言われていたように「一番はじめにやる奴」に
なりたいじゃないですか。

「日本にだってできる」「日本だからできる」
ということを世界に示したいじゃないですか。

2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが
開催されます。トヨタの世界大会もございます。

母国日本で、どの国よりも早く、どの国よりも進んだ
未来のモビリティ社会の姿を全世界にお見せしませんか。

一緒にがんばりましょう!

日本のトヨタが「どの国よりも早く、どの国よりも進んだ未来のモビリティ社会の姿を全世界にお見せする」ことができるかどうか。

「一番最初にやる奴」になれるかどうか。近い将来、その答えが出ることになる。

<スピーチ全編動画はこちらからご覧いただけます。>