株主から出た、海外事業への質問。2人の現地事業体トップの回答に共通していたのは、トヨタらしい地域との向き合い方だった。
6月16日、愛知県豊田市の本社で行われたトヨタ自動車の株主総会(総会)は新型コロナウイルスの感染拡大に細心の注意を払いながら行われた。
株主には書面やインターネットでの議決権行使を呼びかけるなど、極力来場を見合わせてもらうよう案内。
来場者の受け入れには、検温・消毒はもちろん、ワクチン接種も効率化したトヨタ生産方式のアプローチでスムーズな受付を実現するなど、人の滞留を防ぐ工夫も見られた。
もう一つ、コロナ対策として触れておきたいのは、登壇役員のオンライン参加である。来日の難しい、海外事業体トップも株主からの質問に答えられるようスタンバイしていたが、質疑開始から1時間、ようやくその出番が回ってきた。
株主からの質問は、トヨタにとって販売台数や収益においても、非常に重要な市場である米国と中国の間の政治的リスクを心配し、両国の状況を尋ねるものだった。
議長の豊田章男社長に指名された北米本部の小川哲男本部長と中国本部の上田達郎本部長は、それぞれの地域での事業活動について報告。そこには、国境を越えても変わらない、トヨタの地域との向き合い方が表れていた。
米国:地域と「ありがとう」が言い合える関係を
小川本部長
トヨタの海外事業は、グローバルの各地域でお客様に支えていただきながら、少しでもお客様のご要望にお応えすべく、日々業務を行っております。
北米でも、1957年の米国へのクラウンの輸出以来、そのことを積み上げてきました。
現在、アメリカでは9の州に10の生産工場、全米の各州におよそ1500の店舗を展開しており、「北米の一員になるんだ」「地域に必要とされる存在になるんだ」という想いと、地域の皆様とお互いに「ありがとう」が言い合える関係を続けていくことを目指して取り組んでいます。
米中関係、国際関係の中でとても難しい状況となっています。よく注視しながらも、それぞれの地域で必要とされる存在、「町いちばん」の存在でありたいという想いをぶらさず、日々事業を継続していきたいと思います。
中国:地域課題の解決にトヨタの技術で役立ちたい
上田本部長
いずれも、中国のさまざまな環境課題について、トヨタの技術を使って、少しでも解決のお役に立てるように努力をしたいと話をさせていただきました。
中国での販売は好調ですが、お客様、支えていただいている販売店、仕入先のご尽力のおかげで、社長の豊田の発言が中国のお客様、そして、中国の政府にしっかり届いていると思います。
今後いろんなことがあっても、トヨタ自動車は中国に役に立っていると、お客様、政府からも言っていただけるような活動を豊田のリーダーシップのもと、現地で一生懸命やっていきたいと思います。
現地生産している車両の8割以上が現地で部品を完結しております。こういった活動もこれからしっかりやっていきたいと思います。
2つの地域を担当するリーダーに共通していたのは、トヨタが長年にわたって大切にしてきた「町いちばん」という考え方だった。
町の人の笑顔のために仕事をする
今から4年前となる2017年4月。当時、各国で保護主義の流れが強まり始めていた中、豊田社長は社内の幹部社員を対象に実施した「グローバル会社方針」の説明会で、次のように語っている。
豊田社長
世界は、これまでにないスピードと大きさで、変化しております。
今、起きている変化は、自由主義やグローバル化など、私たちがこれまで常識としてきたことにさえ、疑問を投げかけるものです。
こうした変化にさらされる中で、私自身、想いを強くしたことがあります。それは、「町いちばんの会社」を目指すという考え方がこれまで以上に大切になるのではないか、ということです。
「グローバル」や「世界一」ではなく、「町いちばん」。私たちがお世話になっている町で、いちばん信頼され、いちばん愛される会社を目指す。お世話になっている町の人々の笑顔のために仕事をするという考え方です。
(中略)
私流に言うと、「ギブ アンド ギブ」ということかもしれません。「ギブ アンド テイク」ではなく、「ギブ アンド ギブ」。見返りや利益など期待せず、常に感謝の気持ちで、純粋に相手のためになると思われることをやってみる。
その繰り返しが、信頼となり、お互いの成長や発展につながっていく。そして、「町いちばん」のトヨタにつながっていくのだと思います。
「良き企業市民」として、進出先の国や地域社会に根差し、発展に貢献する。これが、トヨタが長年にわたって持ち続けている「トヨタらしい」地域との向き合い方である。
大切なことは、トヨタが事業を行うそれぞれのコミュニティに受け入れられているということであり、それが「町いちばん」の会社を目指すということだ。
町から必要とされ、雇用を生み、利益をあげ、税金を払うことで社会に貢献する。それがトヨタの考える「企業の社会的責任」であり、「良き企業市民」ということでもある。
「トヨタが事業を行う町の皆さんに愛され、応援される会社になりたい」。2人のトップの言葉に共通していたのは、今も昔も変わらぬトヨタの願いだった。