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2021.11.09
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仕入先・販売店とともに抑えた減産の影響

2021.11.09

営業利益の期末見通しを上方修正するも、厳しい見方を示すトヨタ。決算説明会での記者とのやり取りを通じてその中身を見ていく。

11月4日に発表されたトヨタの2022年3月期 第2四半期決算。営業収益、本業のもうけを示す営業利益などが前半期として過去最高となり、営業利益の期末見通しを2兆5,000億円から2兆8,000億円へと上方修正した。

順調に見える決算だったが、会見に出席した近健太CFOChief Financial Officer)は「実力以上の部分もある実績」「円安がなければ実質下方修正」と厳しい見方を示した。

いったいトヨタは今回の決算をどう評価しているのか? 登壇した近CFO、長田准CCOChief Communication Officer)と記者とのやり取りを通じて決算の中身を見ていく。

会見に出席した近CFO(左)と長田CCO(右)

質問1:中間期の総括と生産の挽回策

トヨタは5月に930万台(トヨタ・レクサス車)の生産見通しを発表していたが、8月以降、数回にわたり計画を見直している。

これは、新型コロナウイルスの影響で東南アジアの工場や仕入先がシャットダウンしたほか、半導体不足の影響が出たことによるもので、9月に30万台減産となる900万台に下方修正した。

これに伴い、期首に960万台を見通していた販売も20万台引き下げて940万台に。

クルマをつくりたくてもつくることができず、お客様を待たせている中、実績としては過去最高。最初の質問はそんな状況を踏まえてトヨタの決算評価を問うものだった。

――中間期の評価・総括は? 今後の生産のリカバリーをどう描いているか?

CFO

前半期は世界中で生産が停滞する中、販売店、仕入先、世界中の工場の現場が「少しでも(早く、多くのクルマを)待たせしているお客様に届けたい」という想いで、減産量を抑えられたと思っています。

販売が生産のひっ迫に比べて落ちず、去年よりかなり増えているのは、販売店で在庫の圧縮や融通、効率的な販売など、販売機会をしっかりと捉えてお客様とコミュニケーションをとり、クルマをお届けできたことが大きいと思います。

供給制約下における主要国でのお客様つなぎ止め施策の例(編集部作成)

一方、実力以上の部分もあったと思っており、新車市場が世界中でひっ迫する中、中古車価格が非常に高くなって、金融事業のリース残価損益が好転しています。また、インセンティブ(販売奨励金)も非常に低く抑えられています

ただ、資材高騰の影響も非常に大きく、それを簡単にお客様へ転嫁できないので、一生懸命、原価改善と固定費(の削減)、クルマのバリューを上げることで挽回していかなければならないと思っています。

原価改善と固定費(の削減)については、全社を挙げて頑張っています。コロナ前の状況にリバウンドするような感触も今のところまったくありません。

営業面で販売が落ちなかった理由は、やはり商品の強化がベースにあると思います。豊田(章男社長)がずっと続けてきた「もっといいクルマづくり」、TNGA、商品力やラインナップの強化、群でモデルを設定していくようなやり方など、非常に効果が出ているのではないかと思います。

生産のリカバリーについては、まだまだリスクがあります。本日公表の生産台数900万台ですが、12月以降も若干リスクがあり、やや保守的に見ております。

お客様を待たせている状況なので、今の計画上は土曜稼働も含め、できるだけのことはやる前提です。

質問2:仕入先への分配の考え方

2つ目の質問は、政府が掲げる「成長と分配の好循環」を念頭に置いたもの。

自動車業界においても、規模の小さい仕入先ほど、カーボンニュートラルやCASEなどの対応に苦しんでいるとして、トヨタの分配の考えを問うものだった。

CFOは自ら仕入先に足を運び、現場で耳にしてきたエピソードを交えながら回答した。

――収益が厳しい仕入先もある中で、今回の業績の受け止めは? 分配・還元の考え方は?

CFO

仕入先との関係については「共存共栄」、一緒になって原価改善をして、仕入先の競争力を高め、それで出た成果をお客さまも含め、公平・応分に享受するという考え方で、ずっと変えずにやっています。

私自身、今回、仕入先とお話をさせていただきました。何回かに分けて減産の発表をしましたが、「トヨタからの発注は確度が非常に高い」ことに加え、万が一減産があったときにも、「非常に早く、細かく教えてもらえる」と言われました。

減産になると部品も減るので、もちろん仕入先に影響は出ますが、「過剰に構えてしまったことによるロスはない」と言っていただいています。

品質を適正にして原価を一緒に下げ、仕入先の困りごとに対応していこうという活動・SSASmart Standard Activity)も進めており、何千件も提案があります

例えば、ある仕入先では「この部品は組付けの線が消えると困るので分かるようにしてほしい」というトヨタの担当の何気ない一言を受けて、絶対に消えないインクでその部品の組付け位置を書いていたそうです。

そのインクは非常に高価なものでしたが、トヨタの設計者が現場に見に行き、マジックでもいいということが分かりました

このようなコミュニケーションをとって仕入先の困りごとを改善していく活動もだいぶ定着してきています。

ですが、ご指摘のようなコメントをいただくということは、まだまだ足りない、至らない部分があるということだと思います。

今後も真摯に立ち止まって改善をしていきたいと思いますので、引き続き、ご指導をいただければと思います。

CFOがトヨタの調達活動として言及した「仕入先との共存共栄」は、トヨタ創業者の豊田喜一郎が記した購買規定にそのルーツがある。そこにはこんな一文が記されている。

「仕入先は当社の分工場と心得、その工場の成績をあげるよう努力すること」

ただ安いモノを買うのではなく、仕入先の生産性を上げるため、トヨタも自分事として知恵を出し、一緒になって汗をかく。それがトヨタにおける調達の基本的な精神である。

そして、創業期から変わらないトヨタの原価改善の考え方が「利益=価格-原価」というもの。

かかった原価に利益を加えて価格を決める「原価+利益=価格」という考え方ではなく、価格は市場競争を通じて決まるという大前提に立って、原価改善により利益を確保するというものだ。

そのために原価をつくりこんでいくが、対象となるのは生産現場だけにとどまらない。仕入先の設計・調達など、モノづくりのすべてのプロセスにおよび、過剰品質の是正や、要求スペックの適正化を行う。

トヨタに起因する原価改善の阻害要因があれば、それも見直していく。

日本の自動車産業は「完成車メーカーを頂点としたピラミッド構造」だと言われ、「買いたたき」「下請けいじめ」などのイメージで語られるケースも少なくない。

しかし、トヨタは仕入先と一体となって原価改善に取組み、その効果を双方でシェアすることで競争力強化を目指している。

そのほか、価格改定にあたっては、全社一律で改定率を示すことはせず、個社ごとに競争力や経営状況などを考慮し、丁寧に実施。

コストカットと言われる「原価を無視した値引き」は行わず、あくまでWin-Winの関係を築くことに主眼を置いている。

質問3:原価改善の効果と収益体質の強化

トヨタの“お家芸”とも言われ、年間3,000億円にもおよぶ原価改善。しかし、前半期の実績を見ると、昨年に比べ、△300億円と公表されている。

これは、鉄、アルミ、銅、触媒に使われる貴金属など資材価格の高騰分が折り込まれているためだが、記者からは、資料上見えなくなっている原価改善の実質的な効果と、それを打ち消してしまう状況への対応について質問が投げかけられた。

――原価改善の努力「△300億円」の内訳は? さらなる収益体質の強化の余地は?

CFO

市況を除いた純粋な原価改善として、年間3,000億円ぐらいを目標としています。半期だと1,500億円になりますが、若干そこに届きませんでした。逆に言うと、それ以外の部分は市況変動でした。

下期については、前半期よりもやや影響が大きくなっており、通期の原価改善の努力は△3,450億円です。

こちらも年間の原価改善目標の3,000億円に若干届かない見通しをしています。2千数百億円が純粋な原価改善で、それ以外が市況の部分。差し引くと下期は前半以上に厳しい状況です。

収益強化の具体的な取り組みですが、為替の影響がないところで、極力この(原価改善の努力の)数字をポジティブにしたいというのが短期的にはあります。

ただ、一気に1,000億円も改善ができるようなネタはないので、部品で数千円、数円、固定費で数千円、数万円のものの積み重ねになりますが、ずっとやっていることを後半期もしっかりやっていきます。

あとはバリューチェーン。新車収益以外の部分である補給部品、用品、中古車、コネクティッドビジネスやソフトウェアなどで収益改善をもっと進める。

そうやって(営業利益見通し)28,000億円を少しでも上回るよう努力していきたいと思います。

質問4:電動化への対応

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、業界で加速する電動化の動き。トヨタは、9月に電池開発に関する説明会を行い、翌10月には、米国に電池生産工場を建設することを発表した。

今後は、現在グローバルで55車種の電動車(HEVPHEVFCEVBEV)のラインナップを2025年までに約70車種へと拡大。

うち、15車種をBEVとし、2030年までにグローバルで年間200万台、米国においては年間150180万台のZEVを含む電動車を販売する計画だ。

未来に向け、投資がかさむ中で進められるトヨタの電動化対応を問われ、長田CCOが回答した。

――電動化にどう対応していくのか?

長田CCO

基本的にはCO2をどう足元から低減していくかだと思っています。ずっと申し上げているのは「電動車のデパートメントストア」。すなわち、電動車をフルラインナップでそろえ、各国・地域のお客様に選択いただくということです。

地域によって、供給されるエネルギーや燃料の事情がまったく異なるので、欧州は再生可能エネルギーが多いからBEV、そうじゃない地域は違う選択肢ということをずっと推進しているつもりです。

BEVは再生可能エネルギーの量が増え、コストも下がれば、電動車の主流の一つになるのは間違いないと思います。

2カ月前にBEVのベースになっていく電池に1.5兆円を投資する、その先兵として米国では2030年までに約3800億円で工場をつくると発表しましたし、2025年までにBEVのラインナップも15車種にすると申し上げました。

今回、BEVの専用車・bZ4Xを出しました。電池やBEVについても、他のOEMに我々は決して劣っていません。十分に勝っていける品ぞろえを構えていきたいと思います。

BEVはクリーンエネルギーがある前提だと非常に効果的だと思いますが、まだ残念ながら足元の日本のエネルギー事情でいくと、PHEVなどの方がCO2を抑えられるでしょうし、HEVの方が買いやすく、CO2を大きく削減できる可能性があることも申し上げてきました。

そして、もう一つ。電動車のフルラインナップをやっていくために、私達は技術革新を通して日本の550万人の雇用を守っていくと申し上げてきました。

ところが、大変残念なことに「トヨタはHEVの擁護派だ」「BEVの反対派だ」と言われていますが、決してそうではありません

なかなか伝わらず、つらくなることがあるのも事実です。どうやったらトヨタもBEVを真剣にやっているということが伝わっていくか、考えていきたいと思います。

ステークホルダーとともに

減産については一時の深刻な危機を脱し、平時に戻りつつある状況だが、依然、資材価格の高騰や部品供給の課題もあり、先行きを厳しく見通すトヨタ。

そんな中でも、通期の利益を上向きに見通すまでに持ってくることができたのは、仕入先、販売店と一体になって努力を積み上げてきたからに他ならない。

日本自動車工業会の会長も務める豊田社長はさまざまな場面で「雇用は全就業者の約1割にあたる550万人、納税額は約15兆円、経済波及効果は約2.5倍」と自動車産業の日本経済に与える影響の大きさを口にしている。

そこには、自動車産業の頑張り次第で日本経済は活性化もするし、停滞もするという基幹産業としての強い責任感がある。

仕入先や販売店をはじめとする自動車産業の550万人と地域社会も含めたあらゆるステークホルダーとともに持続的に発展する。

そのために、一日でも早く、一台でも多くのクルマを届ける努力を積み重ねていく。

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