社長の豊田が登場する初の中間決算。なぜ出たのか? 何を語ったのか? 異例の会見で伝えたメッセージをノーカットでお届けする。
11月6日、2021年3月期 第2四半期 決算説明会(いわゆる中間決算)に社長の豊田章男の姿があった。
実はこの“中間決算”に豊田が出るのは初めてのことだ。毎年トヨタイムズでは、決算説明会での社長メッセージを記事や動画で紹介してきたが、いずれも年間の総まとめである期末の“本決算”のものだった。
トヨタの社長が年度の途中で決算説明会に出るのも2002年以来。これまでは、経理担当の役員が会見に臨んできており、今回の社長出席は“異例”とも言えるものだった。
会見では、早々に「中間決算に初めて出席した理由を教えてほしい」という質問がなされ、豊田はこう答えた。
豊田社長
コロナ危機という「有事」であるということで出席しております。特に有事の際は、「仕事」で貢献することが大切だと思っております。
皆が仕事をすることによって、雇用を守り、利益をあげ、そして、税金を納める。これが国家を支える基幹産業としての役割・責任だと考えています。
また自動車産業は非常に波及効果の大きな産業で、私たちが仕事をし続けることが、関係の産業を元気にすることにつながると考えております。
当初、通期で見通しを出した時の想いにも通ずるのですが、基準となる計画に対して、本当に、仕入先、販売店、従業員が頑張って、「何かもっといい方法はないか」「もっと皆を元気にできないか」「我々ができることはまだあるのではないか」と前を向いて頑張ってくれている人たちに、この決算発表で感謝を伝えたかったと思います。
今もコロナ危機と闘い、苦しみに耐えながら、懸命に生き抜こうと努力されている方がたくさんいることは存じ上げております。まだまだ中間、折り返し地点ではありますが、何とか皆でこの後、第3、4クォーターも頑張っていくという決意をこの場でお伝えしたかったということもございます。
豊田は有事に何を考えたのか? どんな言葉で感謝と決意を伝えたのか? 会見で語られたメッセージを全文掲載する。
<決算説明会 豊田社長メッセージ>
「成り行きではない」第2四半期決算
本日は、第2四半期決算の発表内容を踏まえ、トヨタの経営をあずかる私の想いをお話しさせていただきたいと思います。
コロナ危機という先が見えない時だからこそ、トヨタの見通しが自動車産業に関わる方々にとって、ひとつの道しるべになるのではないかと考え、本年5月の本決算では、全世界販売800万台、今期の営業利益5,000億円という見通しを発表させていただきました。
基準をつくったことにより、異常管理ができるようになり、各現場は、変化に、柔軟に対応することができました。
今回の見通しの上方修正は、この6カ月の頑張りもさることながら、これまでの11年間の取り組みにより、トヨタという企業が少しずつ強くなってきたからだと思います。
資金面や収益構造が強くなったということもございますが、一番は、トヨタで働く人たちが強くなったことだと思います。
工場では、世の中が必要とするマスクやフェイスシールドの生産を自主的に行いました。非稼働日には、全員でカイゼンに取り組み、生産性が大きく向上いたしました。
販売現場では、オンライン販売など、お客様との関係づくりを続けてくれました。
お客様の1台が私たちの工場を、日本経済を動かす。その1台1台を積み上げるために生産も販売も必死になって自分たちの「仕事」をしたと思います。それが急速な販売回復につながりました。
リーマン・ショックの時のトヨタ販売は、市場を4%下回っておりましたが、今回のコロナ危機では、市場を3%上回るペースで回復しております。これは、みんなで生み出した「もっといいクルマ」とそれをお客様にお届けする努力の結果だと思います。
こうして、コロナで止まった工場が動き出しました。工場が動き、人が働く姿は地域の人たちに元気を与えたと思います。
「自動車が日本経済のけん引役になろう」
私は方向性を示しただけですが、すべては、その方向に向かい動き続けた現場の力だと思っております。
この動きは、トヨタにとどまらず、日本自動車工業会をはじめとする5つの業界団体へと広がりました。
自動車は波及効果が非常に大きい産業です。雇用は550万人。納税額は約15兆円。経済波及効果は2.5倍になります。
まだ、第2四半期が終わったばかりですが、自動車産業の回復のスピードは速く、日本経済によい影響を与えられているのではないかと思っております。
本日発表いたしましたトヨタの数字はこうした多くの方々の頑張りに支えられた結果です。決して、成り行きのものではございません。すべての関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます。
フィロソフィーとSDGs
「自動車で日本をけん引する」。この想いは、コロナ危機だから生まれたものではありません。豊田喜一郎がトヨタを創業した時の「自動車で日本の人々を豊かにする」という想いそのものであります。
CASE革命によって、自動車産業は「100年に一度の大変革の時代」を迎えております。先が見えない、正解のわからない時代です。
「私たちはどこに行くのか」。それを知るためには、「私たちはどこから来たのか」を知らなければならないと思いました。
この円錐形をご覧ください。
これは、60年以上前に、創業者の豊田喜一郎が亡くなった後、タスキを受けた経営陣によってまとめられたものでございます。
当時のトヨタが心をひとつにして、さらに前に進んでいくために、時の経営陣は「トヨタとは何か」、その原点を忘れてはならないと考えたのだと思います。
日本で生まれたトヨタは世界に広がりました。そして、今の私たちもまた「大変革の時代」を生きております。
グローバル37万人とその家族のために、そして、これからのトヨタを支えていく次世代のために、トヨタフィロソフィーでは、私たちの使命を「幸せの量産」と定義させていただきました。
佐吉は織機を、喜一郎は自動車をつくったわけですが、本当につくりたかったものは、商品を使うお客様の幸せであり、その仕事に関わるすべての人の幸せだったと思います。たとえ、私たちがつくるモノが変わったとしても、「幸せ」を追求することは決して変わらないと考えました。
そして、ビジョンは「可動性を社会の可能性に変える」といたしました。やはり私たちはクルマ屋です。モビリティにはこだわっていきたいと思っております。
そして、「可動性」という言葉には、もうひとつの意味を込めました。それは一人ひとりが行動を起こすということです。
今の私たちに求められていることは、トヨタに働く一人ひとりが、地球環境も含めた人類の幸せにつながる行動を起こすことだと思っております。
私は、豊田綱領から続くトヨタのフィロソフィーはSDGsの精神そのものだと思っております。そして、このフィロソフィーに基づいた経営をすることこそが、SDGs、国際社会が目指す「より良い世界づくり」に持続的に取り組むことにつながると考えております。
現在もコロナ危機の中で、世界中の多くの人々が、苦しみに耐えながら、懸命に生き抜こうとしておられます。
私たちは、「幸せを量産する」という使命のもと、有事の時こそ、自分以外の誰かのために、世の中のために、未来のために、仕事をしてまいりたいと思います。
私たちが本当に「幸せ」を「量産」できているのか。ステークホルダーの皆様方には、厳しくも、あたたかい目でご指導とご支援をいただければ幸いでございます。ありがとうございました。