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なぜ今、トヨタが「足踏み式消毒スタンド」を販売するのか

TOYOTA NEWS 2021.01.20 UPDATE

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トヨタは新型コロナウイルスの感染が拡大する中、マスクやフェイスシールドの生産、医療用防護ガウンの生産向上支援などを行ってきた。

今回新たにトヨタが販売したのは「しょうどく大使」という足踏み式の消毒スタンド。

12月から、国内のトヨタ車両販売店・トヨタレンタリース店で販売されているこの商品。完成に至るには、トヨタ社内で、どのような経緯があったのか取材してみた。

しょうどく大使

仲間や家族を守りたい、その想いが生み出した消毒スタンド

2020年春。新型コロナウイルスが本格的に感染拡大する前から、トヨタの各工場では、現場社員によって足踏み式の消毒スタンドが作られていた。

取材をすると、驚きの言葉が出てきた。「誰がはじめに作ったのか分からない」という。

上司から指示されたわけではなく、各工場で競い合ったわけでもない。仲間や家族を守りたいという強い想いが自然発生し、社内のいたる所で作られていたそうだ。

コロナ禍で工場の生産ラインを止めざるを得ない中、「自分たちには何ができるのか」と考えたトヨタの現場社員たち。それぞれが独自のアイデアで、あらゆる形の消毒スタンドを生み出していた。

その後、トヨタ生産方式(TPS)のプロが改善を重ね、今回の商品の完成に至った。

誰もが感染リスクがある。だから、誰もが使いやすく

コロナの感染を防ぐために重要なのは、すべての人が使いやすく、どこにでも設置しやすいこと。そのために高さや重さ、安定性など徹底して改善を重ね、試作品は30にも及んだ。

高さ調整が可能でお子様でも使いやすく、かつ手の甲で押せるレバーも付け、車椅子利用者でも簡単に消毒できる設計に。


重さも当初の6kgから安定性を保てる範囲で3.2kgまで軽量化。カラーバリエーションも工夫を重ね、どんな場所にでも設置しやすいように仕上げたという。

しょうどく大使の塗装工程

そこには、病院や商業施設など64カ所もの場所で実証実験を行い、医師や利用者のリアルな声を聞いて改善を重ねるトヨタの「現地現物」の精神が活かされた。

病院も商業施設も、患者さんやお客様、さらには職場の仲間や家族など、大切な人をコロナから守りたいと切に願っていた。だからこそ一緒になって取り組み、いくつもの改善要望を出してくれた。

作り手と使い手がともに知恵を出し合い、改善を重ねることで国難に立ち向かっていたのだ。

当然、製造工程にもトヨタ生産方式(TPS)が活かされている。

工場にある材料を流用し、部品の加工も切断と塗装のみ。新たな設備を作らず量産できる設計にした。

これは、単なるコスト削減ではない。いつか、消毒スタンドの需要が落ちてきた時に不要になる設備は入れない、という効果もある。

さらに、作業効率も徹底改善。作業台は、縦横どこからでも作業しやすく、部品の置き場所も作業に適した配置に。また目線の高さに解説ボードを設置するなどムダな動きを極限まで抑えた。

編集部も実際に体験してみたが、こんな小さな差が大きな違いになるのだと実感させられた。

1台当たり2030分かかっていた作業が、12月に入る頃には6分に。

12月1日に国内のトヨタ車両販売店やトヨタレンタリース店で販売が開始されてからは、オーダーの増加にあわせて作り方にもさらなる工夫を織り込み、1台当たり2.5分にまで短縮。

複数ラインにも横展開することで、今では日当たり800台以上の製造が可能になっている。

しょうどく大使の製造ライン

世の中に役立つ、というモノづくりの原点

トヨタ生産方式(TPS)を活かすことで、安価に製造できるようになった足踏み式消毒スタンド。社長の豊田章男は「安く提供できるのなら、市販化してみてはどうか」と現場に話した。

普及させることで感染予防の一助にする。これはエコカーの「普及してこそ環境への貢献」と同じ考えである。

足踏み式の消毒スタンドは、すでに多くの種類が販売されていたが、すべての人が使いやすく、安価なものは少なかった。

開発を担当したサービスパーツ物流部の磯部主幹は「安価で多機能を目標に作り込んだ。消毒の習慣を広げたい」と話す。

改善工程を紹介するサービスパーツ物流部 磯部主幹

このような想いに賛同するトヨタの販売店も多い。

トヨタカローラ名古屋の豊川店では、店長が「しょうどく大使」が作られた意義をスタッフに説明。地元での感染拡大をなんとか食い止めたいと、店舗全体で販売活動に取り組んでいる。

地元のスーパーや病院では、「手押しの消毒液は触れるのが怖い」「電池交換も不要で、足踏み式はアナログの便利さがある」などの声もあり、購入いただけるお客様も増えているという。

また、増加するオーダーに対応しようと、仕入先各社にも協力の輪が広がっている。

例えば、物流サービスを手掛けるキムラユニティーでは、部品の切断や前加工、組付けを。自動車の内外装部品の生産を行う小島プレスでは、樹脂部品の生産・供給で協力を行う。

また、工場や建築向け部材の製造・販売を行うSUSは、国内外の工場をフル稼働させて、骨格材の生産・供給をサポート。

「一日でも早く、一台でも多く、より使いやすい品物をお客様に届ける」という想いのもと、各社が総力を結集し、現場の知恵と工夫で日々生産性の向上を図っている。

しょうどく大使の生産にかかわる人たち

「トヨタの現場は強い」と言われることがあるが、強さがあるとしたら、どんなものを作る際もトヨタ生産方式(TPS)を織り込むから。

「ムダ・ムリ・ムラ」を抑え、作業時間の短縮を考えること。それは自分たちの仕事をラクにするだけでなく、お客様に必要なものを素早く、リーズナブルにお届けすることにもつながる。

いつもと違うことが求められる有事の際にこそ活きる、現場の強さ。今回の足踏み式消毒スタンドの製作も、その一例と思える。

誰一人取り残さないSDGsの考えにもつながる、すべての人が使いやすい消毒スタンド。

トヨタのSDGsは、会社の方針として型にはめて取り組んでいるものではなく、一人一人の社員の心に培われた「人を想う気持ち」によって進んでいくのかもしれない。

指示されたものではなく、世の中の役に立つものを作る。そんなモノづくりの原点を決して忘れることなく、トヨタはこれからもあらゆる領域で幸せの量産に取り組んでいきたい。

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