2019.07.26

「未来のクルマをつくる現場へ」

7月某日、豊田は会議の合間を縫って社内の技術開発エリアにある車両整備場に向かった。そこに待っていたのはe-Paletteの試作車とその開発メンバー達であった。

今回、初めて試乗が出来る“動くe-Palette”ができたという報告があり、豊田はさっそく現場に行く予定を入れたということである。

e-Paletteは2018年1月アメリカのCESで豊田から紹介された。
e-Paletteは2018年1月アメリカのCESで豊田から紹介された。

現場に到着した豊田が最初に誘導されたのはe-Paletteの前ではなく その横にあったモニターのところだった。すぐに現車に乗りたそうな豊田は少し不満げなようにも見えたが担当者からの開発進捗説明は、そのままはじめられた。

「今、このチャレンジをさせて頂けていることに感謝しています」

パワーポイントの最初のページで説明されたのは、すぐには商売にならない未来のモビリティ開発にチャレンジさせてもらえている事に開発メンバー全員で感謝しているという話だった。

次のページで語られたのは、様々な協力者の存在があってこの開発が進んでいるということ。 そして、その協力者への感謝が述べられた。

例えば長身の社員、車いすの社員など、色々な特性を持った社員が集められ、実際に乗りやすいかどうかを確認しながら開発が進められているらしい。

実際に乗るお客様の視点に立って日々開発が進められている事、そして感謝の気持ちを持ってこの開発が進められている事を聞き、豊田も少しホッとしたような表情に変わっていた。

冒頭紹介されたパワポの一部
冒頭紹介されたパワポの一部

その後、先ずは“動かないe-Palette”の確認がはじまった。外観をグルっと一周見て、豊田は、さっそく中に乗りこんでみる。乗りこむや否や、すぐに車椅子の社員に声を掛け一緒に乗りこんでもらった。

“動かないe-Palette”の確認がはじまった

「どう?乗りにくいところない?」

しゃがみながら一緒に入り口の段差を確認をしていた。その後も座ったり、立ったり、各所の手すりを掴んでみたり、しばし車内に留まっていた。

「動かないe-Palette」から出てきて、いよいよ「動くe-Palette」へ。e-Paletteは絶賛開発中である。 将来は自動運転になる予定だが、 今回の「動くe-Palette」は、「自動で動くe-Palette」ではなく、 まだ「運転手が運転するe-Palette」であった。といっても…従来のクルマとは違い「ハンドル、アクセル、ブレーキ」はなく 操縦のためには一本のジョイスティックだけが装備されている。

トヨタ会館に動かないe-paletteのモック(展示用模型)が展示されている
開発中のe-paletteはまだWEBで紹介できないが、愛知県豊田市のトヨタ会館では動かないe-paletteのモック(展示用模型)が展示されている

開発担当者が運転席に乗りこみ、ジョイスティック操作で、 e-paletteは整備場から構内路へ出ていった。その姿を写真でお見せできないので申し訳ないが、 e-paletteが道を走る姿は新鮮な景色であった。

テストコース内の広場のようなところまで走っていった

e-paletteは、そのままテストコース内の広場のようなところまで走っていった。広場内を数周まわりe-paletteが停車すると、なにやら運転手が席を替わろうとしていた。

次にジョイスティックを握ったのは豊田であった。どうやら予定外のことだったようで、周りにいた開発者たちはザワついていた。

「おお!社長が運転する!」

予定外ではあったようだが、皆、嬉しそうだった。開発担当者の運転は広場を大きく周っていただけだったが 豊田は8の字を描いてみたりと、少し“攻めた”運転をしていた。時速20キロが実用時の想定速度だそうだ。さすがにドーナツターンは無理である。

しかしその後、e-paletteは更にスピードが上がっていく。 同時に周りにいた開発者たちは更にザワついていった。

「おお!今のは“今までの最高速”だな!(笑)」予定外の記録更新に開発陣は、更に沸いた。

トヨタが世に出すクルマの乗り味はマスタードライバーが確認している。e-paletteの運転席にいた豊田は、「マスタードライバーとして開発担当ではやったことのない走りをしてみよう...」と話しながら、ジョイスティックを握っていたそうだ。

無事にe-Paletteは整備場に戻ってきた

そして、無事にe-Paletteは整備場に戻ってきた。 最後に、豊田は開発メンバー全員を集めて話をした。

この音声は、開発現場で豊田が実際に話した際の一部である。

昨年のはじめ、トヨタはモビリティカンパニーになると宣言しました。モビリティカンパニーになるとは言ったけど、言った本人も具体的に未来のモビリティ社会の絵が頭の中に出来ている訳じゃない。

ただ、今言えることはe-Paletteとか、先日お披露目した電動化車両とか、 ウィングレットとか、色んなモビリティが出来つつあるという事。来年の東京オリンピックの場を、そうしたモビリティのショーケースにしていきたいと思ってる。

モビリティカンパニーになると宣言して、それを多くの方に分かってもらうためには、やはり商品を見てもらうしかない。そのイメージリーダーというか、いわばスターになるのが、このe-Paletteだ と思っている。スターである以上は注目されます。注目されるという事は批判もされます。だからスターを背負う…それから先頭を走るという事はそういう事です。

だから…批判が来るでしょう…新しいものをやると必ず批判が来ます。でも、そのために私がいるんだと思う。だから、とにかくモビリティカンパニーになる先頭を走ってる仕事に関わっているという認識をここにいる皆さんは持ってください。

それで願わくば今現在、そして過去の仕事で頑張ってくれてるトヨタマンがいるから皆さんは未来の仕事ができる…だから、お互いにありがとうと言い合える関係が大事だと思うので…今日もね、プレゼンの時にいろんな人が協力してくれてますと言ってくれた事(この事)は大事です。ああいう時に色んな、既存の現在過去の仕事をやっている人に感謝を示しながら、彼らからも「トヨタの未来をつくってくれてありがとう」と言われるようなメンバーになるように...そういう自覚をもってぜひともやっていってください。

来年のオリンピックが当面のゴールという説明でしたが、それはゴールではなく、ほんのスタートにすぎません。でも、このスタートがとっても大事ですから! と、これは半分プレッシャーかけるように言ってるけどね...(笑)

こういう仕事に関われることを素直に喜んで、そして、後ろには過去現在の 仕事をしている人や、多くの協力者がいるということを絶えず忘れないでください。その人たちを喜ばせるのもこのメンバーの仕事ですので、がんばって!

この話を聞いて、笑顔だった開発メンバーの表情は、グッと引き締まったよ うに見えた。

そして、最後に、豊田は、e-Paletteを運転してくれた担当者の方を向いた。

ドライバーをしてくれていたのは君だっけ? ジョイスティックの運転うまかったね。僕がマスタードライバーとして君をe-Paletteのテストドライバーに認定するからジョイスティックの運転をしっかり極めてよ。それが、今後の自動運転のために役に立っていくから!

でも、あの時運転席を僕に譲ってマズイとおもったでしょ? 25キロ出した時のみんなの焦った感じ...(笑)あれね、俺もぶつかるかと思ってあせってたんだよ。ほんと、ブレーキ効いてよかった...