【NewsPicks緊急寄稿】NewsPicksがトヨタのトップと従業員の決起集会に潜入!?彼らはそこで何を見たか。
技術部は「会話が通じない」
- 豊田社長
-
今日は皆さんの質問を受けて、我々このメンバーでお答えをしていこうかなという風に思っています。
これだけのメンバーを前に手を挙げて質問をするのは、さぞや大変でしょうけど、是非、勇気をもって、質問をしてみてください。 - ――(技術部社員)
-
豊田社長は最近ラジオなどでも情報発信をしていて、普通の人の感覚でものを言ってくださったり、共感できることもすごく、まあ、ありました。
- 豊田社長
-
僕のこと、普通の人じゃないと思ってるわけ?(笑)
- ――(技術部社員)
-
いえ、そんなことは(笑)。ただ、ものすごい殿上人のような、違うところにいる人のような感覚で……。
- 豊田社長
-
その割には、けっこう気楽に話してない?(笑)
- ――(技術部社員)
-
心臓はドキドキしています(笑)。ただ、直接お話を聞く機会がなかなかないので、遠い存在です。1つ、お聞きしていいのか、これを聞いてクビになるかどうかわからないのですが、社長は技術部のことが、あまり好きではないという噂を、ときどき間接的に聞きます。ぜひ、本当のお考えのほどを……。
(会場笑い)
- 豊田社長
-
いや、こういうことをオープンに話ができるのがいいね。 好きとか嫌いではなくて、技術部は「会話が通じない」とは思っています。 例えばつい先日も「商品化決定会議」の前に、たくさんの色見本を見せられたとき、「なんでトヨタの車の色って、いつもこんなにくすんだ色ばかりなの?」と聞きました。 すると、「くすんでいるカラーは、若者に人気があります」という答えなんです。 会話、成り立ってないでしょ? なんでくすんでいるの?という質問に対して、「若者がみんな、これを支持しています」。 だからおじさんは黙ってろ、みたいなね。そこで会話が終わっちゃう。
あるいはスポーツカー「86」の初号車に試乗したときに、ドライバーの感覚としては「片思いの男性みたいな気持ちだ」と感想を述べたんです。 ここで曲がりたいと思っても、車が「いやだ、ここは曲がるところではない、曲がりたくない」とか。ここでブレーキを踏んで、あの辺で止まってほしいと思っても、「ここじゃないんだ、こうやって踏んで!」といったように、なんとなく車との会話が成り立たない。 おそらく私が感性で物事を言っているのに対して、技術部は普段、理屈で詰めて仕事をしているんだと思います。でも、本当にいい車を作りたいんだったら、理屈を超えてほしいし、私はユーザー目線で意見を言っているわけだから。 そういう意味で、技術部のことが「好きとか嫌い」ではなくて、会話が通じない。そう思っているというのが、本当のところですね。
「白い巨塔」と呼ばれて
- 豊田社長
-
他に、何か言いたいことはあります? (技術畑の)寺師副社長。「白い巨塔」の代表者。
- 寺師副社長
-
あの…笑。ずっと技術部は、言われてきたんですよね、「白い巨塔」と。 でも最近はそんなことはないのに、なんで未だに言われるんだろう。と、正直、半分くらい思っていました。
ただ、その商品化決定会議以降、(同じく技術畑の)吉田(副社長)さんと二人で会議に出たときに、社長が言われるようにユーザー目線で説明を聞くと、”確かに“、と同じ問題意識を感じました。 要は技術部は、「私たちはプロです」というスタンスなんです。だから説明しても一方通行で、理解を強いようとする。 しかし本来、プロというのは、わかりやすく説明する、ちゃんと一般の人と同じ目線で説明をすることができないといけない。それが技術部に欠けているというのは、反省しています。
- 豊田社長
-
寺師さんは、心の底では、私のことをバカにしているでしょ?
- 寺師副社長
-
いやいやいや(笑)。
- 豊田社長
-
どうせ何を言ったって、技術のことはわからないでしょと。
- 寺師副社長
-
豊田社長とはここ5年くらい、実に様々なお話をさせていただいています。正直、そのうち3分の1くらいのテーマでは、「僕のほうがよく知っているから、ここのところは説得できるかもしれない」という気持ちで臨むんです。
しかし、社長と副社長以上で話すテーマの場合、1つの項目というよりは、複数のテーマが包含されるような案件を決めていくことになる。
だから技術部だけの目線で「こういうアイデアでいこうと思います」と言うと、必ずそれに+アルファされた、一つ上のアイデアを社長から出されてしまいますね。
僕の目標はそれ以来、社長にあっと言わせてやろうという、そういう気概でいつも提案を持っていくんです。まあ、具体的には、なかなか言えないことばかりなんですが。
つまり、自分の領域だけで優れていることがプロではない、と思うんですね。 - 小林副社長
-
我々トヨタの人間は、例えば「業務改善」といった目標を、金科玉条のごとく退職するまで一点追求するんです。
だから「右に曲がれ」と言われたら、それがルールだから、左に曲がってはいけないと思っちゃう。しかし今は、「どうしてダメなのか」「左に曲がってみればいいじゃないか」と考えてみる。 既成概念にとらわれてばかりでは、今の時代、本当にダメなんだと思いますね。
経営会議に「紙」は要らない
- ――(エンジン設計部社員)
-
そういう意味では、役員級の会議で普段どんな話がされているか、聞いてみたいです。
- 豊田社長
-
ここは菅原さん。唯一、社外の方ですから、一番フェアな答えが出そうだと思いますので一言、ご意見を。
- 菅原社外取
-
まず、私が誰かほとんどの人知らないんじゃないかと思います。
2018年6月から社外取締役として入り、トヨタの中で意見を申し上げています。去年の6月までは、永田町・霞が関の世界で何とか生き残ってきました。 トヨタに来てからは安心かと思いきや、それもつかの間。意外とここも、一筋縄ではいかないな、と(笑)。
- 豊田社長
-
菅原さんは、経済産業省で、事務次官をやっておられました。
- 菅原社外取
-
私が来る前はどうだったかわかりませんが、少なくとも私がかかわらせていただいてからびっくりしたのは、取締役会を含め、会議が形式ばっていないこと。
素人の私が、「これはなぜですか?」「世間一般の常識からみると違うんじゃないでしょうか?」「消費者はこれで満足しますか?」「世間はトヨタをこう見ていますよ」などという当たり前の疑問をぶつけても、担当の副社長さんなり役員さんが、きちっと答えてくれる。
誰かが「あれはどうなっている?」「あれは、こう思いますよ」と話し始めると、途端に議論がスタートします。
副社長、役員レベルでの意思統一の仕方が、形式にこだわらず、かなり本音をぶつけ合える、そういう場だなと。社外からくると、新鮮な驚きで参加させてもらっていますね。 - 豊田社長
-
じゃあ、一番「形式」にこだわっている、吉田さん。どうですか?
- 吉田副社長
-
振っていただき、ありがとうございます(笑)。
会議では正直、資料もありません。皆さんが私に報告するときには、膨大な資料を、色んな会議を通じて調整して、提出してくるんですけど。
- 豊田社長
-
それを吉田さんが要求しているんでしょ?
- 吉田副社長
-
してません(笑)。
で、場合によっては、その場でA4の紙に手書きで書いて、「こういうことをやっていこう」「やっていきたい」と。
社長とここにいるメンバー間で、「これについては方向性はこちらだ」と。これで行きましょう、という感じで進めていますね。 - 豊田社長
-
要はトヨタの規模の会社になると、一人のリーダーが、全て決めていくというのは不可能です。 トヨタの良さは、より現場に近いところ、より商品に近いところ、より物事が起こっているところで決断をしたほうが、もっといいクルマ作り、もっといい会社作りにつながる。 そう考えていること。少なくとも私は、そう信じています。
これまでは、社員が社長室に来る場合、「社長に了解をとる」「社長決裁をとる」という場になっていました。 ですから、社長室に持っていく前までに、私にどんな質問をされても答えられるような準備をする。そして、おそらく私のところに決裁を取りに来る人が、その起案をしたかというと違うでしょう。その資料を書いたのも違う人だと思います。 あくまでも決裁を取りにくる上位の肩書を持った人が、私のところに来る。というのが、私が社長になった最初の頃でした。 しかし私が望んでいるのは、「この件に関する目的は何なんだ」「そして私の想いはどうだ」という話を社員から直接聞くこと。そして、もっと前工程で相談に来てもらうことなんです。 前工程で相談にくるから、吉田さんが言ったように、資料も何もないはず。 私がその段階で「これは右のほうに行こうとしているんだな」と理解できていれば、その後は私に毎回、相談がなくても、現場のリーダーたちが即断即決できる。より市場に近い、現場に近い、そして商品に近いところで判断できる。
-
「何を青いことを」と思われる社員もいるかもしれません。しかし、この規模の会社は、そうやって皆さんの力を借りていかない限りは、正常に運転していくことはできないんですよ。
ただし、トヨタの責任者は、今は私一人です。私の覚悟は、社長就任直後にリコール問題で米公聴会に呼ばれ、世の中から叩かれた時に、決まっています。 ですから、逆にみなさんは、ある程度の失敗はしていい。失敗なくして、プロなんかになれません。「失敗しちゃいけない、絶対にこの決裁を取るんだ」というようなことは、少なくとも我々副社長以上のレベルでは、やっていません。 失敗のないゲームは、まだ本気じゃないんですよ。失敗していい、なんてことを年始から社長が言っていいのかわかりませんが(笑)、そう意識してもらえたらと思います。
原価低減は「予算削減」じゃない
- ――(別のエンジン設計部社員)
-
この1年で、トヨタとして変わってきたこと、変わってないことは何ですか?
- 豊田社長
-
私はこの2〜3年くらい、「トヨタはリアルの会社である」と言い続けてきました。何でもかんでも変わればいい、というものではありません。 トヨタには、「トヨタ生産方式」(TPS)と、長年培ってきた「原価低減」というお家芸があります。今後、どんなものを作っていくにしてもこだわっていくことであり、この考え方に則った形で、トヨタは変化をしていくべきではないか。
ただし、原価低減のことで、ちょっと気になることが一つあります。 みなさんも色んな部署で、予算を取ることに普段、大変ご苦労をされていると思います。そのとき、予算をちょっとカットすれば褒められる世界があるんですよ、この会社には。 しかし、予算をカットして決裁をもらったプロジェクトが赤字になっても、それに対しては、だれも何も言わない。 逆に予算をちょっと引き上げてでも、黒字化が早まりました、という方が企業は強くなる。とにかく予算をカットすると褒められるという風土は、「原価低減」の本来の考え方なのか、疑問に思いますね。 原価低減の意味を、もう一度考えてほしい。
「じゃじゃ馬」がリーダーになる
- 豊田社長
-
一方、もう1つのお家芸である「トヨタ生産方式」についてはどうでしょうか。これは、じゃあ友山さん。
- 友山副社長
-
トヨタ生産方式を体系化した大野耐一さんの、28年前の講演ビデオを先日、見せてもらう機会がありました。
その中で大野さんは、管理者(マネジメント)と監督者(職場・現場のリーダー)の役割を、「馬」に例えてお話していたんです。
-
管理が生まれたのは馬で戦うようになってからであり、管理者は騎手であると。そして、監督者は調教師であると。
管理者という騎手は当然、馬に乗れて、あっちに行け、こっちに行けと指揮出来なければならない。少なくとも、馬に乗れなきゃ、話にならない。
監督者という調教師は騎手が「右へ行け」といったら、すぐに右に行くように馬を、つまり“現場”を調教出来なければならない。
「調教」というと言葉が悪いかもしれませんが、あくまで「馬」に例えた話として、目くじらを立てずに聞いてください。
この騎手(マネジメント)と調教師(職場・現場のリーダー)と馬(現場)が、それぞれ必要な能力を有して、かつ、同じベクトルを向いて進むことで、強い現場・会社になる。
ということを、大野さんは38年前におっしゃっていました。つまり逆に言えば、そういう話をしなければならないほど、トップマネジメントとミドルの間、あるいはミドルと現場との間にも「壁」が、38年前にもあったんだな、と。 - 豊田社長
-
みなさんは、おそらくトヨタに入社してきたときは、誰もがサラブレッドですよ。しかし、調教師がしっかりしていなければ、嵐の中でも動ける部隊にはならない。まずはどの学校から入ってきたとか、そういうことは忘れてください。
- 吉田副社長
-
技能や技術には、肩書も上下もありません。あるのは図面の数値であり、原理原則であり、ものを作って評価した、その結果だけです。
若手のエンジニアには図面を書かせる、ものに触らせる。今日昇格した人も、偉そうにふんぞり返るのではなく、現場に行って、ものを触って一緒に相談する。
そういう風にすれば、エンジニアの“人財”育成も進み、技術部が「白い巨塔」といわれることもなくなるのではないか。そこは寺師さんと一緒に、有言実行していきたいですね。 - 河合副社長
-
戦う馬の話が出ましたけれど、じゃじゃ馬、暴れ馬を調教して戦ったほうが、企業として強いと思うんです。
うちの技能系のリーダーのやつらは、みんな昔はじゃじゃ馬だった者ばかり。先輩たちからどつかれながら、調教されたんですよ。 暴れ将軍みたいな人たちが調教されて、基礎が育っていった。 いきのいい若い人たちにこそ、どんどん色んなことをやらせたほうが、トヨタの将来のリーダーになっていくでしょうねえ。