#06「意志ある情熱と行動」

2021.06.28

およそ動かし難い現実が、しばしば立ちはだかるものだ。それを受け容れるか、抗うか。志ある未来を共に切り拓くために、同志に向けた言葉。

世界初の水素エンジンによる24時間耐久レースの最後の一周。最終コーナーを立ち上がる豊田章男の32号車を仲間たちがそれぞれの感情を爆発させて迎えた。最初のテストは5分で壊れたエンジンで1634kmを完走。はたから見れば無謀とも思えたトライを終え、「未来のカーボンニュートラル社会に向けた選択肢を広げる第一歩を示せた」と手応えを口にした。

2021年6月の株主総会前日、株価は創業以来はじめて、1万円を超えた。いまだ、コロナの出口は見えない。それでも、総会の質疑応答では、株主と経営陣が過去や目先の話題にとらわれず、これからトヨタがどう進むか、ともに未来を見据えたやりとりに時間を割くことができた。12年前に赤字で会社を引き継いだ豊田が初めて議長席に立った総会を振り返ると、その意味は大きい。

総会の締めくくりのスピーチ、今年も議長を務めた豊田は、「未来をもっとよくしたい、という意志をもち、情熱をもって行動して迎える20年後、30年後では必ず見える景色は変わってくると信じております」と語っている。「意志ある情熱と行動」。この言葉を24時間耐久レースを水素エンジンで走り抜いた“同志”にも投げかけている。「カ―ボンニュートラルで未来をつくるのは、意志ある情熱と行動だと思います」。

多くにとって、現実は受け容れるものであり、その延長線上に未来があるものだ。ところが豊田にとっての現実は、改善余地で溢れており、未来は変えるために存在するものなのかもしれない。ただし、それは「現場に一番近い社長でありたい」との言葉のとおりに「現場」に立ち続け、仲間とともに失敗をし、改善を重ねながら前に進み続け、動き続ける覚悟を伴う。

12年前に、今年の総会の光景を誰も想像できなかったように、カーボンニュートラル時代の解答は、誰も知る由もない。「意志ある情熱と行動」で未来を拓くことができるか。その言葉を突きつけれられているのはわたしたちだ。

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