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本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、トヨタの驚きだらけの学校!
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学校だが、授業料はいらない。
逆に、給料(毎月約16万円の生徒手当)をもらい年2回ボーナスまで支給される。さらに担任の先生は、各部署から異動してきたトヨタの社員。
愛知県豊田市に、一般的な高校とは大きく違った学校がある。一体なにがどうなっているのか。話を聞くとさらなる驚きが…
学生だけど、学生じゃない?
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トヨタの企業内訓練校、トヨタ工業学園。1938年にトヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎が設立した豊田工科青年学校にルーツをもつ、技能者を育成する学園だ。
生徒たちは「訓練生」と呼ばれ、学生ではなくトヨタの社員として扱われる。入学式では辞令の交付。青春の学園生活が勤務とみなされ、生徒手当という給料が支給されるのだ。
そして卒業と同時に高卒資格を取得、それぞれの職場に配属されていく。
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入学した若者たちは全員、親元を離れ寮生活を送る。
日中は知識教育だけでなく、溶接や板金などモノづくりの技能教育。
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さらには走り込みや声出しなど、強靭な体とたくましさを育む団体規律訓練にも励む。
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遠泳や、日をまたいでの長距離歩行訓練もあるという。
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時代に合わせて、一人ひとりの価値観に寄り添った教育を取り入れつつも、一見すると時代錯誤にさえ思える厳しい訓練の数々。そこには、技能者を育てるために「変えてはいけない」ものがあるという。
この時代、厳しい訓練を行う理由
自身も学園の卒業生であり、技能五輪の国際大会で金賞を獲得するなど板金の技術者としてキャリアを積んだ山下寿志学園長に話を聞いた。
トヨタ工業学園 山下学園長
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多くの人が協力してクルマをつくる現場では、身勝手な振る舞いが、仲間を巻き込んだ事故などの危険を招きます。みんなで行動を共にして訓練を重ねるのは、作業者の身を守ることが目的です。
また、クルマに乗るお客様の幸せを願い、苦しい場面でも品質にこだわる人を育てたい。自分以外の誰かのために頑張れる技能者になってほしい。
そのためにも、厳しさをもって向き合う姿勢。人づくりの精神は変えてはいけないと思います。
根底にあるのは、豊田喜一郎の「モノづくりは人づくり」という思想なのだ。
高度経済成長期には、いくつもの会社が企業内訓練校を設立。しかし運営コストなどを理由に多くが閉校。現在、卒業時に高卒資格が得られる企業内訓練校はトヨタ工業学園を含めた4校のみになった。
数百人の衣食住を保証して、給与も支給。想像するだけでもかなりのコストが発生しそうだ。
それでもトヨタは“人づくり”の場所として85年以上、学園を大切に守ってきている。
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人はコストではないという考えや、「モノづくりは人づくり」というトヨタの理念を体現する学園。その主役は訓練生だけではない。
学園では、現役のトヨタ社員が「指導員」としてクラスの担任や部活顧問を担当している。
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指導員はトヨタの各現場の技能者から選出され、3年間のローテーションで務めるのが通例。会社員がいきなり教壇に立つ。かなり珍しい異動先だがそこには理由がある。
現場で働く技能者の育成には、現場を知り尽くした人が指導すべき。モノづくりの心を備えた人間だからこそ、愛情と熱意をもった指導ができるのだ。
狙いはそれだけではない。ある日、学園生から「嘘つき」と呼ばれてしまった元指導員に話を聞くと…