トヨタイムズスポーツ
2023.03.22

競泳人生の再出発。川本武史と渡辺一平が誓うパリでのリベンジ

2023.03.22

バタフライの川本武史選手と平泳ぎの渡辺一平選手は、ともに東京2020オリンピックで悔しさを味わった。パリ2024でのリベンジに燃える彼らの、現在の心境と練習風景を探った。

3月17日に配信されたトヨタイムズスポーツは、競泳を特集した。トヨタが誇るトップスイマー、バタフライの川本武史選手と平泳ぎの渡辺一平選手。東京2020オリンピックの選考会や本番で悔しい経験を味わった2人が、挫折を乗り越えてパリ2024オリンピックにかける想いを直撃した。渡辺選手はスタジオゲストとして出演。水泳の本質に迫る深いトークと、明るいキャラクターとのギャップも見ていただきたい。

両選手の筋肉や柔らかさにも注目

パリ2024オリンピックの開幕まで500日を切り、各競技で戦いが本格化している。競泳界では、まずは7月に福岡で行われる世界水泳に向けて、選考の場となる日本選手権が4月初めに開催される。川本選手と渡辺選手は、実戦を前に練習も仕上げの時期を迎えている。

渡辺選手は、競泳選手では初となるスタジオゲスト。身長が193cmのため、立ち上がると番組の通常画角から頭がはみ出してしまうほど。今回の放送では、両選手の手の大きさや、川本選手の筋肉や柔軟な足首、渡辺選手の肩の柔らかさなど、水泳選手ならではの身体にも注目だ。

川本選手は、渡辺選手の2つ上の先輩。チームメイトとして仲が良いだけでなく、川本選手が「彼がいるからこそ、僕も頑張れる。お互いが結果を出すことよって高め合っていける存在」と話すように、互いに良い刺激を与えている。

渡辺一平選手(写真左)と川本武史選手(写真右)。

水泳界随一、川本武史の鍛え抜かれた身体

川本選手は東京2020オリンピックにバタフライ100mで出場。ターンからのドルフィンキックが得意で、100mは短水路(25mプール)の日本記録、50mにいたっては長水路(50mプール)でも短水路でも日本記録を持つ。

トヨタスポーツセンターで練習中の川本選手を、森田京之介キャスターが取材した。泳ぐ姿をプールサイドから撮影しただけではなく、今回は水中カメラを使って撮影しており、トップ選手の美しいフォームも見ることができる。

プールから上がった川本選手。まず目が行くのが、鍛え抜かれた逆三角形の肉体だ。渡辺選手が「日本水泳界で一番の身体」と評するほど。森田キャスターは、川本選手の筋肉を触らせてもらうだけでなく、大胸筋を交互に動かしてもらっていた。視聴者からは「筋肉ルーレット」「どっちなんだいっ!w」というコメントも。

ドレッセルにも勝利、1日1日悔いなき泳ぎを

2年前のオリンピックでは、ターンで普段はやらないようなミスをしてしまい、まさかの予選敗退となった川本選手。頭の中が真っ白になり、直後のインタビューで何を話したかも覚えていないという。

「冷静になって考えると、実際実力があったのかというと、足りなかったのは現実。パリに向けてしっかりと実力を上げて、メダルを取れるところまでは確実に仕上げなければいけない」と、気持ちは前向きになっている。短水路の国際プロリーグに参加して経験を積み、金メダリストのケーレブ・ドレッセル選手(米国)にも勝てたことが自信につながった。

弱点だった後半50mの泳ぎも、手ごたえを感じつつある。「ゆっくり泳ぐ時のテクニックや脈拍を管理するのが大事だなと感じられて。ゆっくりだからこそ、いい泳ぎが維持できれば、ラスト15mとかしんどい時に、減速につながらないと考えることができている」と説明した。

パリに向けて川本選手は「世界水泳は世界の選手と戦うために絶対に外せない一つの大きな試合。パリで僕は水泳の集大成を出すと決めているので、1日1日を絶対に悔いのないようトレーニングしています」と語る。

「力を使わずして速く泳ぐ」が重要

「速さだけじゃないんです。努力感(なく泳げること)プラス、タイムがすごく大事」という川本選手の言葉を、不思議に思ったのが森田キャスター。スタジオで渡辺選手に「一生懸命泳いだら泳ぐほど速くなるように思うのですが」と、素朴な疑問を投げかけた。

渡辺選手は「そうじゃないですね。いかに力を使わずして速く泳ぐかという種目です」と回答。力を使わずに速く泳ぐ時間が長ければ、体力を温存することができ、後半での伸びにも直結する。「それが水泳の理(ことわり)的な部分ですかね」と、競技の意外な本質について明らかにした。

川本選手も、ドルフィンキックを生かして努力感なく泳ぐことができれば、後半のタイムを上げて世界の表彰台を狙える位置にある。パリまでの約500日の間に、新たな進化をどこまで見せるのかに期待したい。

元世界記録保持者、渡辺一平のリスタート

特集の後半は渡辺選手本人のパート。200mの平泳ぎを得意とし、北島康介氏の後継者と目されてリオデジャネイロ2016オリンピックでは6位。翌年に当時の世界記録である2分6秒67をマークしたことなどが紹介された。

東京2020オリンピックでも金メダルが期待されたが、日本選手権で3位となり出場は叶わず。「今までの自分の努力を全て否定され、失敗だったんだと結果として示されたときが1番しんどかった」と言い、しばらくは悔しさを引きずった。

「(2年前の)選考会前は、きついこと、苦しいことをするのが、結果を出すために必要だと思っていました。そこから楽しいことをしたいと思うまでにすごく時間がかかりました」と語る渡辺選手。第2の水泳人生を歩むような感覚でリスタートしたという。

「苦しいことをいかに楽しむか」という気持ちの切り替え

森田キャスターは、東京・豊洲のプールで練習中の渡辺選手も取材。日本選手権が迫る時期で、「ハードワークをするのではなく、効率の良い泳ぎをするのがコンセプト」と話す通り、渡辺選手は力の抜けたスムーズな泳ぎを披露していた。

水泳とは「苦しいスポーツ」と渡辺選手は語る。2年前の選考会の挫折を経て、「プールの底を見ながらずっと泳いでいて、ただ酸素がなくなっていく」という苦しい練習を、楽しんでやる気持ちに切り替えた。チームメイトとコミュニケーションを取りながら、良い雰囲気で練習に取り組んでいる。

「スポーツというのは苦しいことを我慢してするんじゃなくて、苦しいことをいかに苦しいと思わず楽しむかっていうのが根源なんじゃないかなって。努力が報われないなと思うのは、努力と思っているから」と語る。努力だと思わずに、自分からやりたいと思ってできる人が報われる。そんな考えに変わったそうだ。

超えるべき目標も課題も明確に

200mで元世界記録を持っていた渡辺選手だが、50mや100mは苦手な種目だという。「素人が見れば、200が泳げるんだったら、50も100も勝てると思っちゃう」と疑問をぶつける森田キャスターに、渡辺選手は「100m平泳ぎと200m平泳ぎは別競技です」と答えた。

その理由を「僕は200mの泳ぎから100mの泳ぎに変えようとすると、全部に力を入れてテンポアップしようと思っている。100mをプロフェッショナルでやっている人から聞くと、距離を短くすれば力を抜かなきゃいけないんだと。力を入れる瞬間を、短く強くしなきゃいけない。僕はずっと高い力を出し続けちゃってるから、バテるのは当たり前」と説明する。課題は残るが、短い距離での泳ぎを身につけることは、渡辺選手にとって大きな伸びしろだと言える。

現在の世界記録保持者アイザック・スタブルティクック選手(オーストラリア)とは0.72秒の差。速いペースでずっと泳ぎ続けることができる驚異的な選手だが、その能力は渡辺選手も得意とするところでもある。100mが苦手な点も共通している。自分と似た強敵に対して「それ以上の選手が出てきたから、僕は自分の好きなところを磨き、そこすらも超えていかなきゃいけない」と言い切る。課題も目標も明確だ。

日本選手権から福岡の世界水泳、そしてパリへ

競泳の日本選手権は4月に東京アクアティクスセンターで開かれ、川本選手は8日、渡辺選手は7日に得意種目で出場する。7月の世界水泳や9月のアジア大会の代表選考を兼ねており、パリに向けて負けられない試合となる。

「大分県出身なので、地元九州で行われる世界水泳にはやっぱり出場したい。そこで会場を沸かせたいです」と渡辺選手。視聴者からも「世界水泳応援に行きます」というコメントが寄せられていた。

「平泳ぎ一番の“一平”ですから」と笑顔で話す渡辺選手が、川本選手と共に2年前のリベンジを果たし、パリで一番に輝くのを楽しみにしよう!

毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2023年3月24日)は、スーパー耐久を特集する。3月18・19日に鈴鹿で行われた開幕戦を総力取材。ゲストには、ルーキーレーシングでともに監督兼ドライバーの大嶋和也選手、石浦宏明選手を迎える。水素エンジンカローラの動向やメルセデス、第2戦の富士24時間への展望など、見どころが盛りだくさん。ぜひ、お見逃しなく!

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