「みんなで考え、みんなで動く」目指すはチーム経営

2023.02.16

トヨタの新たな布陣が示す方向性に注目が集まった2月13日の記者会見。報道陣を前にメンバーがそれぞれの決意を語った。

「もっといいクルマをつくろうよ」「世界一よりも町いちばん」「持続的な成長を」「自分以外の誰かのために」――。

豊田章男社長が就任以来、記者会見やスピーチで、繰り返し繰り返し発信してきた言葉は、外に向けられたようで、社内に向けられていることが少なくない。

言葉だけでなく、時には現場におり、自らの行動でトヨタの「思想」「技」「所作」を伝承してきた。在任13年間は、人財育成の13年間であり、トヨタらしい価値観の浸透に腐心してきた歴史でもあった。

今回「チーム経営」を掲げ、新体制に臨む5人の役員は、それぞれの現場で、豊田社長の想いに直接触れながら業務に当たってきた経験を持つ。

異なる経歴や立場からそれぞれの個性を磨いてきた5人だが、一人ひとりの受け答えには、いくつもの共通する価値観がうかがえた。冒頭の言葉もその一例だ。

トヨタイムズでは、「新体制の狙い」、「BEV戦略」、「これからのトヨタのクルマづくり」の観点に分けて、質疑応答の様子をレポートする。

新体制に込めた想い

――2人の副社長が昇格する体制の狙いについて詳しく教えてほしい。

トヨタのトップ交代を伝えたトヨタイムズニュースで佐藤恒治(さとう・こうじ)次期社長が豊田社長から受け継いでいくと語ったのが、「商品と地域を軸にした経営」だった。

中嶋裕樹次期副社長はチーフエンジニアとして、小型車から商用車まで、幅広い車種を手掛け、「もっといいクルマづくり」に励んできた当事者。

宮崎洋一次期副社長は海外事業などの領域で経験を重ね、地域に愛される「町いちばん」の会社を目指して、アジアを中心とする地域での事業をリードしてきた。

佐藤次期社長が新体制の意図を説明し、両次期副社長から、抱負が語られた。

佐藤次期社長

「チーム経営」で臨んでいく姿勢を表明した佐藤恒治次期社長

新体制の副社長の役割ですが、今のトヨタは、サッカーチームのように、役割で柔軟にフォーメーションチェンジをしながら取り組んでいくべき経営環境にあると理解しています。

これからトヨタが取り組むべき重要な3つの事業については、トヨタらしく、リーダーが現地現物をしっかりやりながら、具体的な取り組みを引っ張っていくことが大変重要。

この取り組み自体は、豊田社長直下でずっと整えられてきた「畑を耕してきたテーマ」になります。

間近で、豊田社長の想いをしっかり受け止めている3人が、それぞれの事業責任者として、現場で率いていくフォーメーションチェンジを行う。それが現3副社長の役割の変更です。

それから、中嶋・宮崎 両新副社長については、今の経営の基軸である「商品と地域を軸とした経営」をさらに推し進めていくことを念頭に置いています。

どうしても、役員体制というと「機能代表」になりがちで、「部門担当」という意識を持たれてしまうことが過去あったと思います。

現在のトヨタは、自分の役割を限定的に考えるのではありません。特に今回の経営陣は「チーム経営」を目指しています。

「みんなで考えてみんなで行動していく」体制を目指して、さまざまなことを全体的な視点で、考えて動きたいと思っています。

宮崎次期副社長

これまでアジア圏を中心に海外事業をけん引してきた宮崎洋一次期副社長。4月からはCFO(Chief Financial Officer)の役割も担う

我々はこれまで、事業を成長・発展させていく源泉は「トヨタ頑張れ! 応援しているよ」と言っていただけるお客様の笑顔だったと思っています。

その考えのもとで、各地域・本部がマーケットの声を聞き、販売店と一緒になって、お客様の信頼を一つずつ積み上げてきた。それが「町いちばん」の理念・考え方であり価値観でした。

これからは、モビリティ・カンパニーへの変革に向けた取り組みを進めるとともに、カーボンニュートラルに向けて、各国のエネルギー事情、インフラ状況に合わせ、取り組みを進めていくことが必要になってきます。

その際には、今まで以上に地域とグローバルヘッドクォーターが密に意思疎通をしながら、現場での実行力を高めていく連携が、ますます必要になってくると思っています。

中嶋次期副社長

中嶋裕樹次期副社長。現在、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)の社長も務めている。新年度からはCTO(Chief Technology Officer)の役割も担う

「もっといいクルマ」を継承・進化させていくことが我々の責務です。

豊田社長のもとで、たくさんの失敗を経験し、そこから生まれた新しい見え方を学ばせてもらいました。

私としては、もっといいクルマづくりに勤しむ若い開発陣を一人でも多くつくっていくことに尽力していきたいと思います。

――レクサス・GRブランドの課題と期待値は? どんなバトンを2人の次期プレジデントに渡したいか?

佐藤次期社長は2020年からLexus International Co.GAZOO Racing Companyのプレジデントとして、ブランドを引っ張ってきた。

社長就任に合わせて、そのバトンを渡すのは、LEXUS International Co.でブランド初のBEV専用車LEXUS RZのチーフエンジニアを務める渡辺剛(現 LE開発部部長)と、GRブランドの車両、レーシングカー開発に携わってきた高橋智也(現 GR車両開発部部長)。

それぞれ50歳と45歳。若い2人を選んだ理由を次のように説明した。

佐藤次期社長

今度、新たにプレジデント着任する渡辺、高橋の両名は、私とともにこれまでずっとレクサス、GRのあり方を現場で模索しながら一緒に汗を流してきたリーダーです。

私と彼らの間でも価値観の共有は十分にできていると思います。GRが目指すべきこと、レクサスが目指すべきこと。

その価値観の根っこにある想いは変わらずに、実践的、具体的な行動の加速度を増していく体制変更、バトンタッチができればと思っています。

トヨタの中には3つのブランドがあります。レクサス、トヨタ、GRでそれぞれのブランドポートフォリオを考えた事業戦略を立てていくべきだと考えています。

両方のプレジデントも非常に若く、特にGRの高橋は40代。26日の発表以降、私自身も若いと報道いただきましたが、そんなに若いつもりはありませんでした。

世の中には50代で経営をしておられる方もたくさんいらっしゃいます。

トヨタの使命や役割を考えると、大役に身も震える思いではありますが、経営の交代、若返りは、おそらくこれまでのトヨタではできなかったんだろうと思います。

ただ、この13年、豊田社長が人材育成にこれだけ邁進してこられたからこそ、バトンを引き継げるメンバーが私以外にもたくさんいます。

私自身が社長に任命いただいたのは、たまたま今の事業として、我々が取り組むべき課題、なすべきことに対して、私がリーダー役をやるのが適任だという判断であると理解しています。

役割やフォーメーションは取り組む課題によって、柔軟に変えていくべきで、こういった経営スタイルが、豊田章男社長の13年で実現できる会社になってきたということだと思います。

そういった継承も、レクサス、GRのプレジデント交代の想いとして込めて、彼らにバトンを託したいと思っております。

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