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2022.07.27

「認知症のおばあちゃんの記憶を、デザインで呼び起こしたい」レクサスデザインアワードの意義

2022.07.27

今年、11年目のLEXUS DESIGN AWARD。なぜ、レクサスが「モビリティ以外」のデザインアワードを開催するのか、真相に迫る。

2022年6月上旬、イタリア・ミラノで開催された世界最大のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」。そのレクサスブースで、「LEXUS DESIGN AWARD 2022」のファイナリスト6組のプロトタイプ作品が展示された。

2013年に創設されたこのアワード。昨年は世界57の国と地域から1726もの作品が応募された国際的なデザインコンペティションだ。

しかしなぜ、レクサスがモビリティ以外のデザインアワードを開催するのか。そして、認知症を患ったおばあちゃんと、いつまでもコミュニケーションを取りたいという願いが生んだ作品とは。

新しいデザインで、新しい幸せを

クルマの進化で、移動の可能性は大きく広がり、スマホが発明されたことで、世界中の暮らしが一気に革新された。プロダクトデザインの進化は、幸せにつながる暮らしの進化といっても過言ではない。

LEXUS DESIGN AWARDの審査基準も「そのアイデアがいかに人々に幸せをもたらすか」という点である。より良い未来への作品をつくるデザイナーを支援し、社会に貢献するアイデアを増やしていくことも目指している

また、新進気鋭のデザイナーに、世界で活躍するキッカケを提供することは、社会に役立つ“人づくり”の側面もある。「幸せの量産」を使命とするからこそ、誰かの幸せを願い、よりよい暮らしを創造するデザイナーの支援を惜しまない。

そんなLEXUS DESIGN AWARDだが、グランプリが決まるまでに、他にはないユニークなプロセスがあるという。

審査会の前に行われることとは

審査基準は、先ほど記載した「アイデアがいかに人々に幸せをもたらすか」という観点に加え、レクサスが重視する3つの基本原則「Anticipate(予見する)」「Innovate(革新をもたらす)」「Captivate(魅了する)」をいかに具現化しているかが問われる。

その観点で、世界中から寄せられる毎年2000点近くの応募作品から、まず、6組のファイナリストが選出される。

ファイナリストは、世界の第一線で活躍する4名のメンターから直接指導を受け、対話を重ねながら、約3カ月かけてアイデアをブラッシュアップするという。そして最大300万円の制作費の支援を受け、プロトタイプ(試作品)へと昇華されていく。

LEXUS DESIGN AWARD 2022のメンター(左から)サム・バロン氏 © Cyrille Jerusalmi、ジョー・ドーセット氏、早野 洋介氏、サビーヌ・マルセリス氏 © ANNETIMMER

最終審査では、そのプロトタイプを4名の審査員にプレゼンテーションし、グランプリが決定。作品は、グローバルメディアを通じて広く世界に発信されるのだ。

LEXUS DESIGN AWARD 2022の審査員(左から)パオラ・アントネッリ氏 © 2016 Marton Perlaki、アナパマ・クンドゥ氏 © Andreas Deffner、ブルース・マウ氏、サイモン・ハンフリーズ

このアワードの大きな特徴が、世界的に活躍するクリエイターから直接指導を受けられるメンターシップ制度である。メンターとの継続的なセッションを通じ、アイデアの新たな可能性が引き出され、プロトタイプ完成へと導かれていく。

過去の受賞者も「自分でも気づかなかった作品の魅力を見つけ出してくれる。それがこのアワードの魅力だと思う」と話す。

作品によっては、プロダクトとして売れるようにするため、コストにまで踏み込む。そこには、単なるアイデアに終わらせず、デザインのチカラで本当により良い社会を実現していくという熱量がある。

つまり、「過去の功績を称える」アワードではなく、「未来の幸せと実践的に向き合う」類い稀なアワードであり、社会に貢献したいというブレない信念があるのだ。

認知症のおばあちゃんの記憶を、デザインで呼び起こしたい

今年の5月に発表された最新のグランプリは、シンガポールで活動するポー・ユン・ルー氏が獲得。作品のテーマは「認知症」。

現在、世界中で5500万人以上の方が認知症を抱えながら暮らしており、毎年1000万人近くが新たに発症しているという世界規模の社会課題だ。

グランプリ作品の「Rewind」は、日常の慣れ親しんだ動作を再現することで、認知症高齢者の記憶を呼び起こすためのリハビリテーション支援ツール。

手に持ったデバイスによる動作が、ペアリングされたモニター上に視覚的・聴覚的なフィードバックとして反映される。それが記憶を呼び起こすきっかけになるという。

作品について彼女はこう話す。

ポー・ユン・ルー

幼い頃、私は祖母と一緒に過ごすことが多く、おばあちゃんっ子でした。

この作品は、その祖母が認知症を患った後、どうしたらコミュニケーションを取り続けることができるかを考える中で生まれました。記憶を呼び起こしてコミュニケーションを図ることで、認知症高齢者とその家族、介護者が感情的なつながりを感じる一助になることを目指したアイデアなのです。

実際の開発にあたっては、私の祖母を含めた複数の認知症高齢者の方に試作品を試してもらいました。

メンターの方々のアドバイスも、刺激的で多くの学びがありました。見た目の美しさや機能性だけではなく、この提案を誰にどのように伝えるのが最も効果的なのか、また、その重要性を改めて気づかせてくれたのです。

私が大切だと考える感情的なつながりに少しでも役に立つのなら、このアイデアは、より良い未来のためのデザイン(Design for a Better Tomorrow) と言えるのではないかと思っています。

世界的な社会課題に対するリハビリ支援ツールのアイデアは当初から秀逸だった。

しかしそこに留まらず、メンターとのセッションを通じ「いかに身近で取り入れやすいものにするか」という視点でブラッシュアップされ、実践的なプロダクトへと発展したという。

選考会終了後には、4名の審査員と6組のファイナリストたちが、1対1で個別に交流する機会を持った。そこでは作品に対するフィードバックだけでなく、若きデザイナー・クリエイターたちのその後のキャリアやビジョンについても語られるなど、ファイナリストにとって非常に有意義な時間になったという。

ファイナリストの6作品(LEXUS DESIGN AWARD 2022)

今後、デザインの可能性が広がる理由とは

審査員のパオラ・アントネッリ氏は審査を振り返り、「すべてのファイナリストのアイデアに共通したのは、誰かを、もしくは何かを気にかける(Care)ということでした。地球環境、高齢者や障がい者、家族やコミュニティなど、どれも相手に寄り添った内容でした」と話す。

誰かを取り残して進む未来は、決して豊かな未来とはいえない。各作品にはしっかりと、困りごとに寄り添う視点が入っていたのだ。

同じく審査委員のサイモン・ハンフリーズ氏(トヨタ自動車・デザイン統括部長)は、今後のデザインの可能性についてこう話す。

サイモン・ハンフリーズ

前例のない環境変化が起きている現在は、デザイナーの果たすべき役割がさらに重要になってきている。人々はより良いライフスタイルのための答えを求めており、このような状況を乗り越えていくためには、さまざまな領域でクリエイティビティが発揮されることが必要です。

デザインは 人々を幸せにする力を持っています。それはさまざまなかたちで人や社会、そして世界へと拡がっていくものです。私たちデザイナーの役割は、問題を解決するための答えを提示し、新しいアイデアを創出することではないでしょうか。

そして、例に挙げたのが、おじいちゃん、おばあちゃん。

サイモン・ハンフリーズ

例えば、コロナ禍で街がロックダウンされ、おじいちゃん、おばあちゃんが、生まれたばかりのかわいい孫のもとに行ってもガラス越しにしか会うことができない、という状況もあります。

そんなときに、会いに行けなくても、あたかも実際に頬に触れたような感触を再現できる方法が開発されるといいなと思いました。そのような、人の欲求を満たす新しいアイデアの創出にこそ、デザイナーが必要です。

デザインを考えることは、誰かの幸せを考えること。そしてLEXUS DESIGN AWARDは、そんなデザイナーたちの活躍を後押しするステージ。その活躍を見たさらに若いメンバーがデザイナーを目指していく。

このアワードは、未来の幸せを増やす“持続的な仕組み”なのかもしれない。明日の暮らしをすこしでも良くしたいと懸命に取り組む人をサポートする、そんなアワードが持つ意義は大きい。

今年も727日から10月16日にかけて新たな作品募集が始まる。トヨタ、そしてレクサスは、これからも自分以外の誰かの幸せを願い、行動する人財をサポートしていく。

※スキームはLEXUS DESIGN AWARD 2022時点のものです

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