「実現したいイノベーションはたくさんある」Woven Cityが目指すもの

2022.08.04

豊田社長がWoven Cityの構想を発表したのは、2020年の1月。香川編集長もラスベガスに飛び、発表の様子をその目で確かめた。Woven Cityの開発はどこまで進んでいるのだろうか。香川編集長がWoven Planetを訪れ、その最新状況を確かめた。

日常生活に役立つ水素エネルギーの形とは

「香川さん、Woven Planetにお帰りなさい!」
そう出迎えてくれたのは、Woven Planet Holdingsのジェームス・カフナーCEOだ。目下のところ、Woven Cityのビジョン実現に向けて忙しい日々を送っているようだ。

「今日は水素エネルギーをより便利で実用的なものにするための新技術をご紹介します」という。

その取り組みを見せてくれるのは、Woven City Management Sub-Function Lead H2 supply & utilizationの中村匡氏だ。「今日は、日々の生活の中で水素エネルギーをどう使っていくのか」を見せてくれるという。中村氏が取り組んでいるのは、水素をより身近で愛されるエネルギーにするために開発した「ポータブル水素カートリッジ」だ。

水素は燃料電池と組み合わせて発電することもできるし、エンジンの燃料にもなる。そんな水素を生活の中で、より手軽に利用する手段として開発しているのがこのカートリッジだ。MIRAIに搭載している水素タンクが重さ30kgもあるのに対し、ポータブル水素カートリッジの重さはわずか5kg。MIRAIのタンクは、万が一の事故などどんなことがあっても壊れないような頑丈さを実現している。その技術を生かし、ポータブル水素カートリッジもより軽量ながら、生活の中で安心して使えるよう設計されているのだ。

「いわゆる電池みたいなものじゃないですか。未来の電池みたいな」と香川編集長。実際に持ってみると、見た目より軽い。中村氏は、「人が持ち運べることを想定してこのサイズにした」と語る。持ち運べるようにすることで、生活に身近なエネルギーとして感じられるようにするためだ。

実際に水素カートリッジの活用例として見せてくれたのが、コーヒースタンド。側面に水素カートリッジを差し込むことで電力を使用できる。3本の水素カートリッジがあれば、一般家庭の1日分のエネルギーをまかなえるという。

香川
この子(コーヒースタンド)が量産されて、いたるところにあれば、いろいろなものが水素によって稼働できるようになりますね。

中村
はい、そう考えています。水素が空になったら、もう一回(カートリッジを)詰め替えて、入れると。

香川
そういうことですね。そこがまた大変そうだけど。

中村
そうですね。この小さいタンクにどうやって効率的に水素を入れるか。こういうところも一緒に開発をしています。

香川
これ、将来的にどんくらいのスパンで実現していくんですか。

中村
2024年から2025年の間に開所するWoven City。ここでまず実証をはじめます。そこから数年がかりになりますが、改良を重ねて一般の方一人ひとりに使っていただく、そんなスケジュールを考えています。

具体的に、どんな場面でこの水素カートリッジを使うことを考えているのだろうか。中村氏は、「身近なもの」に使っていきたいとし、自転車やバイクを挙げた。さらにキャンプ場のように電力が届かない場所にも有効だろう。

水素は発電もでき、燃料としても使えるということで電力およびガスの代替となる可能性を秘めている。「将来、このエネルギーを使えるようになれば、カーボンニュートラルに向けて一人ひとりが行動できるようになるんじゃないか、こういう思いでやっております」と静かに決意を語る中村氏。その姿に頼もしさを覚える香川編集長であった。

実現したいイノベーションはたくさんある

Woven Cityの現状はどうなっているのか、改めて香川編集長はカフナーCEOに聞いた。

香川
Woven Cityは実証実験の街、未来の街、未完成の街といろいろな言い方をされていますが、改めてどのような街なのでしょう。

カフナー
Woven Cityはモビリティのテストコースです。そして「未来の当たり前」を発明する場所です。さらに、すべての人にモビリティを広げていきます。

私たちは人間の、幸せで健康な生活を支える新しい技術に投資し、この裾野のテストコースを通じてモビリティの定義を拡張させるイノベーションに挑戦し、創造しようとしているのです。

成功させるためには、地域だけでなく多くの人々やステークホルダーの支援が必要です。トヨタはグループとして日本だけでなく世界の未来のために投資しており、私自身もプロジェクトに参加できることに本当に感謝し、ワクワクしています。

富士モータースポーツフォレスト、東富士研究所、そしてWoven City。富士山のふもとには、トヨタにとって重要な開発拠点が3つ集まっている。それぞれの役割はどうなっているのか、カフナーCEOに聞いてみた。

「富士山は、日本の歴史と文化を象徴する美しい自然のシンボルです」とカフナーCEO。日本は新たなテクノロジーと伝統、そして古来から持つものを上手に社会に取り入れてきた、とカフナーCEOは考える。

カフナー
未来を創っていく3つの施設が富士モータースポーツフォレストに集い、モビリティの更なる技術革新のためにWoven Cityで実証実験が行われます。その背景に富士山があるというのは過去を失うことなく、未来を結び付けるためのすばらしいインスピレーションを与えてくれると思います。それが私たちWoven CityとWoven Planetのミッションの一部だと思います。そして、持続可能な生活を支え、モビリティの定義を拡大していきたいと思っています。

香川
(Woven Cityを)つくる段階をフェーズで表していましたが、どのくらいまで進んでいるのでしょう。

カフナー
昨年正式に着工し、順調に進んでいます。今年フェーズ1の建築工事を開始します。フェーズ2は設計中で、より良くするためにフェーズ1からの学びについても確認しながら進めています。

並行して「デジタル・ツイン」という街全体のバーチャル・バージョンを作成し、より便利にシミュレーションや改善ができることに大きな期待を寄せています。

そして豊田社長が「未完成の街」と言ったように、真に進化し続ける街のためにも新しい方法と新しいアイデアを開発し続け、未来に向けたモビリティの拡張をしなければなりません。

このWoven Cityのビジョンを実現するために、多様な才能を持った人々がWoven Planetに集い、一生懸命働いています。今日はお忙しいと思いますが、お時間のあるときにでも、ぜひのぞいてみてください。

香川
具体的に、いま更地でものが無い状態ですが、その上にものが建ってくると「ああ、進んでいるな」と僕たちは分かりやすく感じます。トヨタイムズとしては、早く具体的にアップデートしたものをみたいなと思います。

カフナー
それはトヨタの「現地現物」の精神にも通ずるもので、私たちにとっても、人が来てフィードバックしてくれることは常にモチベーションにつながることだと思います。

一部の人たちだけでなく、世界中のさまざまな人たちがモビリティを拡大し、未来を持続可能にしていくための特別な場所をつくりたいと考えています。ですから、皆さんから直接ご意見をいただけると、とてもありがたいです。

今日は革新的な水素カートリッジを見せてもらったが、他にもこのようなプロジェクトが動いているのか、と香川編集長は質問。それに対し、「私たちが実現したいイノベーションはたくさんある」とカフナーCEO。目に見える物理的なイノベーションに加え、Woven Cityではヒト、モノ、情報のモビリティに挑戦しているという。

そのためには、高速無線通信やソフトウエアのAPI(Application Programming Interface:ソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に向けて公開することで、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにするもの)、サービスなど、目には見えない情報技術の革新も必要となる。それらを物理的なデバイスと一緒に開発することで、新たな価値が生まれるとカフナーCEOは言い切る。

カフナー
働き方、学び方、勉強の仕方、楽しみ方など世界が変化していく中で、私たちは物理的なモノと目に見えないモノが織りなす新しい生活の形をつくりたいと考えています。布の一本一本の糸が単体では弱いものであっても、それをまとめて織り上げると強いものになるように、私たちはコミュニティを強化し、モビリティを拡大することで人の幸せとよりよい生活のための強い基盤をつくることができると信じています。

さらに香川編集長は、Woven Cityがどのように未来をつくっていくのかを聞いた。

香川
水素カートリッジを見たときに、これはどんどん小さくなっていくだろうなと思ったんですよ。携帯電話を例に出すと、40年くらい前の携帯電話は大きく、肩にかけて「もしもし」とやっていたのに対し、今は手のひらサイズです。当たり前の未来になってしまった。

水素カートリッジももしかしたら小さくなって、当たり前の未来になるのかな、と。そういった当たり前の未来を、Woven Cityでは今後たくさん見ることになるのでしょうか。

カフナー
将来的には、コンパクトで小さくなり、より使いやすく実用的なものになると信じています。私たちはたくさんの新しいアイデアを持っていますが、課題はそれをどうやって実現し、開発を加速させるかです。世界中からアイデアをもつ発明家たちが集まり、実験場としてWoven Cityでテストし、開発できる特別な場所になればと願っています。

香川
言いましたよ、今。

カフナー
成功するとは約束できませんが、我々のチームは、すばらしいものを提供するためにできる限り努力することを約束します。香川さんからのフィードバックも楽しみにしています(笑)。

香川
がんばってね、ジェームス。楽しみにしてるよ!

カフナー
がんばります!

RECOMMEND