いま富士がアツい! トヨタの未来をつくる3拠点を直撃取材(後編)

2022.07.22

前編では富士にあるトヨタの3拠点のひとつ、富士モータースポーツフォレスト(富士スピードウェイホテル、ルーキーレーシングガレージ)を取材した香川編集長。後編では、いよいよ50年以上トヨタの開発を支えてきた東富士研究所と、建設中のWoven Cityを取材する。

トヨタは未来に向け、一体どんなことを研究し、何を実現しようとしているのか。香川編集長がその全貌に迫る。

トヨタの研究開発を支える東富士研究所に潜入!

トヨタの富士3拠点を巡る取材。次に香川編集長が訪れたのは、東富士研究所だ。出迎えてくれたのは所長の山中章弘氏。まず見せてくれたのは、研究所設立から約50年の出来事を記した年表だ。

研究所ができた1960年代は、大気汚染が社会問題化していたタイミング。研究所はクリーンなエンジンの開発を手がけた。その後のオイルショックで燃費のいいエンジンにも研究の幅を広げるなど、「早くから環境技術に力を入れて取り組んできた」と山中氏。なんとハイブリッドの種となる技術も50年前から研究していたというから驚きだ。

年表をしばらく眺めていた香川編集長が、あることに気付く。

香川
モータースポーツ活動もあるんですね。そういえば。

山中
実は環境技術というのは、モータースポーツとも深く関わっているのです。今日はモータースポーツで使われているハイブリッド技術の開発現場を見ていただきたいと思っています。

香川
おおっ!

現場の案内をしてくれるのはGRパワトレ開発部の小川輝氏。トヨタのモータースポーツ開発拠点となる建物を見せてくれた。壁に貼られていたのは、創業者である豊田喜一郎の言葉。「オートレースは唯単なる興味本位ではなく、日本の乗用車製造事業の発達に必要欠くべからざるものである」と、創業時からモータースポーツ起点のクルマづくりを提唱していた。モータースポーツへの挑戦は、まさにトヨタのDNAに刻まれているのだ。

モータースポーツで使うのは究極まで突き詰めたエンジンだから、市販車に応用できる点は見つからないのでは、と素人考えだと思ってしまうのですが、と香川編集長は疑問をぶつける。そんな編集長に小川氏が見せてくれたのが、ル・マン24時間レースに挑戦したときのハイブリッドシステム。

小川
当然レースなので、速く走ることが大事です。でもそれだけでなく、例えば与えられた燃料でいかに長く走るかも大切です。

香川
ピットインの回数を減らすということですね。

小川
そうです。結局、(レースでは)究極の高効率を目指すのです。その結果が、市販車の燃費向上につながるわけです。

香川
なるほど。

そして香川編集長は、いよいよ開発拠点の心臓部に足を踏み入れた。GRパワトレ開発部の小早川智志氏が見せてくれたのは、パワートレーンのシミュレーション。クルマが耐久レースでサーキットを走っている状態を丸ごと再現し、パワートレーンに不具合が出ないかを確認していく。

レーシングドライバーはたくさんのスイッチをきめ細かく操作してクルマの性能を引き出して走る。そしてレースを通じて検証・蓄積したさまざまな知識やノウハウが、市販車の制御に生かされていくというわけだ。

「すでに我々は自動運転車に乗っているようなものじゃないですか!」と驚く香川編集長だった。

クルマの外まで活用が広がる燃料電池

次に香川編集長が案内されたのは、燃料電池の開発現場。商用ZEV基盤開発部の真鍋晃太氏が見せてくれたのは、MIRAIのカットモデルだ。足元や後席下に黄色のタンクが埋め込まれているのが見える。

約700気圧の水素をためるタンクは、万が一の衝突時でも破損しないよう、なんと700気圧の2.25倍の圧力が加わっても壊れない設計になっているという。MIRAIをはじめとする燃料電池車は、タンクにためた水素と空気中の酸素を使って発電し、その電気で走るしくみだ。

香川
この東富士研究所で燃料電池を研究している意義って何でしょう。

真鍋
パワーコントロールユニットやリアのモーター、バッテリーといったものはハイブリッドカーのプリウスで開発したものをそのまま使っています。ボデーも、(研究所の)他の部署の方々が開発したものです。

香川
先ほどのハイブリッドパワートレーンの研究がなければ、これ(MIRAI)もできていないということですか?

山中
そうですね。いろんな開発が集まることで、よりいいものができるということです。

香川
さすが東富士。近いところに全部あるというのがメリットになっているのですね。

さらに真鍋氏が紹介してくれたのは、MIRAIの燃料電池部分だけを取り出して、さまざまな場面で発電機として使えるようにした「FCシステムモジュール」だ。汎用的なシステムとすることで、フォークリフト、バス、トラック、船、電車など、トヨタ社外も含めていろいろな目的で利用できる。すでに世界中の顧客に試してもらいながら、用途の拡大に挑戦しているという。

香川編集長がMIRAIに乗り込んで移動した先にあったのは、トヨタのマイクロバス、コースター。燃料電池車(FCEV)になっている。給電機能を搭載しており、災害時には電源としても利用できる。

隣にあった大型バスも、FCEVだ。商用ZEV基盤開発部の種藤和也氏によると、こちらも災害時に停電した被災地に出向き、電気を配ることを想定した車両だ。バスの側面をよく見ると、トヨタのロゴの隣にホンダのロゴが入っている。バス自体はトヨタ製だが、電気を配るためのバッテリーはホンダ製なのだ。

「(ガレージにあったマツダに続いて)今日2社目ですよ、これ!」と香川編集長も驚き顔。大きな室内にたくさんの小型バッテリーを積み、充電した状態で被災地に届けることができる。また避難所などにバス本体から直接電源を供給することも可能だ。

未来のモビリティを支えるインフラの実験場

次に香川編集長が訪れたのは、テストコースのような場所。モビリティ用の新しい実験場だという。「馬車からクルマになったとき、道路もクルマが走りやすいように変わりました」と説明してくれたのはR-フロンティア部の北浜謙一氏。乗りものの進化に伴い、インフラも進化するもの。つまり、この場所はインフラの実験場なのだ。

北浜氏が指さす電柱の上を見ると、カメラやセンサーがところ狭しと設置されている。一体なにに使うのだろうか。自動運転車は、物かげや死角から飛び出してくる歩行者や自転車を検知するのは困難だ。だがインフラ側のカメラが検知して自動運転車に伝えれば、事故は回避できる。

道路のセンターラインには、センサーとライトが一体となった装置が埋め込まれていた。人や自転車が近づくとそれを検知し、色でドライバーに伝えるのだという。

香川
山道で、シカとかイノシシも覚えるかもしれませんね。私たちが通っても光るから大丈夫よ。クルマに跳ねられることはないわよ、と。

山中
我々はインフラ側からも安心安全、快適につなげたい、と。

香川
ここにも安心・安全ですか。

ロボットがクルマを充電してくれる!?

第1電動先行開発部の上田広一氏と佐藤正明氏が紹介してくれたのは、「街のパワートレーン」の開発。クルマ単体ではなく、街全体、あるいは社会全体でエネルギーのマネジメントを最適化しようという挑戦だ。

その実現に向けて重要な要素となるのが、クルマの充電の自動化。最適なタイミングと場所で充電できるようにする技術だ。香川編集長の目の前で、ロボットアームを備えた充電ロボットが充電器を持ってクルマに近づき、自動で充電する様子を見せてくれた。

佐藤
今日みたいな雨の日でも、クルマに乗ったまま外に出ずに充電できます。

香川
そういうことですね。なるほど。

さらに第2電動先行開発部の吉住啓氏と第1電動先行開発部の橋本俊哉氏が、駐車場に置くだけで自動充電可能になる据え置きタイプや、スマートフォンのワイヤレス充電のように無線で充電するタイプなどの試作品も見せてくれた。「これを日本中の道路に敷けば、(充電ステーションなどで)充電しなくてもいいってことでしょ!」と香川編集長も興奮気味。

山中
モビリティとか環境によって、充電方法はどれが一番いいのかを、今私たちは探っている状況です。

香川
なるほどね。充電にも選択肢!

次々と登場!未来の多彩なモビリティ

先進プロジェクト推進部で渡邉紀尚氏が見せてくれたのは、「Bridge-Palette」という新しいモビリティ。コンパクトな自動運転のモビリティで、様々な体験を届けたり、荷物を運んだり、多くの用途で使えるという。

先進モビリティシステム開発部の福留秀樹氏が見せてくれたのは、クルマをけん引するデモンストレーション。シェアカーやレンタカーを、お客さまの元へ届けるような用途を考えているという。

香川
昭和の世代からすると、まさしく自分のクルマがレッカーされていった瞬間ですね。

福留
(笑)

さらにBridge-Paletteのけん引ユニットとクルマを機械的に連結することなく誘導する技術も開発が進められていた。

先進デザイン開発室の渡部卓也氏が見せてくれたのは「Round-Palette」という乗りもの。人が歩く速度と同じスピードで走行する多目的モビリティだ。人が乗って移動したり、荷物を載せたりと、さまざまな用途が考えられる。実際に香川編集長を乗せて走行しているシーンは、ぜひ映像で確かめてほしい。

未来のための開発は、積み重ねてきた歴史の上にある

一通り研究所を取材した香川編集長は、「東富士研究所がここまでいろいろな選択肢を広げているとは思いませんでした」と驚いた様子。山中所長によると、4年前に豊田社長が「モビリティカンパニーにモデルチェンジする」と宣言して以来、東富士研究所も生まれ変わらなければいけない、と考えたという。これまでのようにクルマ単体の開発だけではなく、世の中や社会とつながり、社会の課題を考えながら開発を進める方向にかじを切った。

今日は「柔軟な未来を拝見した」という香川編集長だが、一方でひとりのクルマ好きとしてはエンジンの開発がどうなるのかも気になるようだ。「(未来のための開発と従来のエンジン開発の)2つの矢印は、同じように残されていくんですよね?」という質問を山中所長に投げかけた。

「カーボンニュートラルの観点からすると、ガソリンだけで動くエンジンは減っていく」と山中所長。一方で、水素のようなカーボンニュートラルな燃料で動くエンジンは残っていく、と見ている。モータースポーツやFun To Driveの世界では、ワクワクするエンジンを求めるお客様もたくさんいるからだ。だから、選択肢を狭めることなく両方の開発を進める、と山中所長は力強く語った。

そして、どちらの開発もこれまで長い間積み重ねてきた技術の蓄積を土台として進められていく。

香川
これからカーボンニュートラルに向けて、燃料電池車、電気自動車、ハイブリッド車といろいろな技術がありますが、ガソリン時代の研究開発、そのとき一生懸命にやってきた人々の上に、全部乗っかっている気がします。

山中
その通りだと思います。トヨタでこれまで開発してきた人たちは、「世のため、人のため」と時代に合わせて必死に考え、求められるものを世に送り出してきました。その思想が変わらなければ、今後もいいものを出し続けられるだろうと考えています。常に必要とされるものに全力で取り組むという姿勢でやっていきます。

香川
だからこそ、前の時代に研究したものが次の時代に受け継がれ、ヒントになっていくのですね。それを今日は具体的に見られました。受け継いで行くことがモビリティカンパニーなんだな、と。全力をこれからも続けてください。東富士にしかできないことがあるので。

山中
はい。全力でがんばっていきます。

Woven Cityでの実証を目指す「水素カートリッジ」とは?

富士3拠点取材の最後は、Woven Cityだ。その最新状況を知るべく、香川編集長は日本橋にあるWoven Planetを訪れた。出迎えてくれたのは、ジェームス・カフナーCEOだ。今回は、水素のサステイナブルな利用方法を見せてくれるという。

Woven AlphaのWoven City Management Sub-Function Lead H2 supply & Utilization、中村匡氏が「日々の生活の中で水素エネルギーをどう使っていくか」を解説してくれた。「水素をもっと身近で愛されるエネルギーにしたい」。そんな思いで開発しているのがポータブル水素カートリッジだ。

両手で簡単に持ち上げられるほどのサイズのカートリッジに、水素が貯蔵されている。手に持ってみた香川編集長、「うわ、軽いですね!」と予想外の軽さにびっくり。中村氏は、生活に身近に使ってもらうために人が持ち運べるサイズにしたという。

近くに置いてあるカフェのようなスタンドに水素カートリッジを装着してみた香川編集長、「なんか未来の人になった感じしますね」とうれしそう。このカートリッジ3本で、二人家族の一般的な家庭の1日分のエネルギーがまかなえるという。

この小さなタンクにいかに効率的に水素を入れるか、といった部分も含めて開発を進めているという中村氏。今後の展望について、このように語った。

香川
これ将来的にどのくらいのスパンで実現していくつもりなんですか。

中村
まずは2024年から25年に開所するWoven Cityで実証をはじめ、そこから数年がかりになりますが、改良を重ねて一般の方々にも使っていただけるようにしたいと考えています。

香川
一歩一歩具体的になっているな、という実感があるなあ。水素カートリッジ、注目ですよ!

パートナーとともにつくる未来のモビリティ

カフナー氏に改めてWoven Cityがどのような街なのかを聞いた。

Woven Cityはモビリティのテストコースであり、「未来の当たり前」を発明する場所だとカフナー氏は説明する。
モビリティの定義を、「自動車」やA地点からB地点への「移動」に加え、ヒトとヒトの心を動かすという意味の「モビリティ」に拡張していくことを目指している。そのためには、同じ志を持つ、多くの発明家や起業家たちと共に創っていく必要がある。

富士山のまわりには、富士モータースポーツフォレスト、東富士研究所、そしてWoven Cityという3つの拠点が集まっている。この3拠点の関係性はどうなっていくのか、香川編集長はカフナー氏にたずねた。

カフナー
未来をつくっていく3つの施設が富士モータースポーツフォレストに集い、Woven Cityで実証実験されるモビリティの技術革新のためにひとつになるのを目撃しました。また後ろから見守る富士山という存在が過去の伝統を失うことなく未来を作り上げるための多大なるインスピレーションを与えてくれるように思えます。

香川
地鎮祭で「本当にここが実証実験の街になるんだな」というのを見たときに、「具体的なものが見えない街」というイメージを持ちました。でも、そこにいろいろなものがひも付いてきたことで、宙に浮いていた球が地面に着き、根を張りだしたようなイメージになりました。

カフナー
未来のモビリティや幸せのための革新的なアイデアがすべて私たちのチームから出てくるとは限りません。だからこそ良きパートナーたちが必要です。このすばらしいプロジェクトと人々の持つ力を完全に引き出したいです。このことは私には大きなモチベーションとなっています。

私個人、皆さんのこのプロジェクトへの努力と支援に感謝しています。私には責任重大ですがこのプロジェクトを前進させ未来に挑戦することは純粋にすばらしい機会でもあります。

香川
がんばってね!応援してるよ!

カフナー
がんばります!

3拠点はいずれも未来をつくっていく場所

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

2022年6月3日、富士24時間レースの記者会見で、豊田社長は富士3拠点についての思いを語った。少し長いが、以下に引用する。

豊田
私にとってすれば、(富士3拠点は)どれも未来をつくっていく場所として自分の中ではつながってると思います。その中にこの富士スピードウェイがあり、そこに新設したルーキーレーシングのガレージもあります。

「ここにこういうものをつくろう」という思いは、約60年前に父親に連れてこられた富士スピードウェイでの第3回日本グランプリからはじまりました。幼少期にクルマに憧れた場所です。

そんな私が感じた原体験を、今の子どもたちにも感じてほしい。「クルマってかっこいいな」と思ってもらい、「ドライバーかっこいいな」「メカニックもかっこいいいよ」「エンジニアになってみたいな」と、60年前に私自身が少年として感じた原体験を、この富士の場所で感じていただきたいという思いで各施設をつくっています。

そういう意味で、ここ(富士スピードウェイ)は過去から変わらないクルマの魅力を未来につなげていく場所です。

東富士研究所は実証実験前の技術を開発していますし、ル・マン(24時間レース)のユニットも開発しています。それはレースの世界だけでなく、こうした開発が街を走るクルマを進化させている、いわば現在から未来につながっていく場所だと考えています。

Woven Cityも、未来の都市という形で、未来のモビリティの実証実験のテストコースということで、実際の生活の中で人を幸せにする未来の技術をつくる場所だと思っています。

すべてが未来をつくっていく場所ですので、この3つがうまいケミストリー(化学反応)を持ちながら、お互いに刺激を受けながら未来づくりに貢献できればいいなと思っています。

3拠点が集まったのは偶然であり、必然なのかもしれない

富士山周辺にあるトヨタの3拠点をじっくりと取材した香川編集長。モータースポーツの歴史を未来の子どもたちにつないでいく富士モータースポーツフォレスト。その近くで、モータースポーツの歴史を開発で支えている東富士研究所、そして未来の都市、Woven Cityの3つが、密接に関わり合ってトヨタの「すべての方向に全力で立ち向かう」姿勢を支えていることが分かった。

偶然にも3拠点が富士山のふもとに集まっているが、香川編集長は「偶然でありながら、おそらく必然である」という。東富士研究所では豊田章一郎氏の代から燃費や大気汚染といった環境問題に取り組んできた。その「人々の幸せのために、地球のために動くんだ」という姿勢が、今最先端にいる豊田章男社長を支えている気がする、と香川編集長は考える。

香川
あのときバラバラだったはずのものが、なぜひとつになっているのか。そこにはものすごい意志の強さを感じます。この意志の強さがあれば、何か成し遂げてくれるじゃないかという期待もできますし、今後この土地(Woven City)が少しずつでも前進していくこと、あるいは東富士研究所で見たこと、さらには富士モータースポーツフォレストの今後の発展、そこに見えてくるんじゃないかと思います。

今、富士がアツいぞ!トヨタイムズ!

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