いま富士がアツい! トヨタの未来をつくる3拠点を直撃取材(前編)

2022.07.22

「トヨタイムズ編集長、香川照之です。今、富士山がアツい!」

香川編集長が今回取材するのは、富士にあるトヨタの3拠点。富士モータースポーツフォレスト、東富士研究所、Woven Cityの3カ所だ。前編では、約60年の歴史を持つ富士スピードウェイを核として着々と建設が進むレジャーエリア、富士モータースポーツフォレストを取材する。

「なぜ今レジャー施設なのか、それを取材したいと思います!」と意気込む香川編集長。

富士3拠点はトヨタの未来をつくる場所

香川編集長を迎えてくれたのは、トヨタ自動車GAZOO Racing Company Presidentの佐藤恒治氏。

富士山周辺には、トヨタ自動車の東富士研究所、Woven City、そして富士スピードウェイという3つの拠点がある。そして2022年6月に富士スピードウェイで行われた24時間耐久レースの際、豊田章男社長はこんなことを言っていた。

豊田
この3つの施設というのは、トヨタ自動車の開発拠点の現在・過去・未来と捉えられがちですが、私にとってはどれも未来をつくっていく場所として、自分の中ではつながっています。

佐藤プレジデントによると、富士モータースポーツフォレストは国際サーキットである富士スピードウェイを中心に、ホテル、ミュージアム、レーシングチームが集うガレージエリア、カフェやレストラン、さらにさまざまなモビリティの体験エリアなど、多数の施設が複合的に集まる施設だという

24時間レースを夜通し観戦できる部屋

まず案内してくれたのが、まだ建設中だという富士スピードウェイホテル。中にミュージアムやレストランを併設する、滞在型のホテルだ。総支配人の吉川源太氏が、富士モータースポーツミュージアムを見せてくれた。

香川
(ミュージアムには)どういったものが並ぶんですかね。

佐藤
自動車会社各社にご協力いただいて…。

香川
各社!? トヨタだけではなく。

佐藤
トヨタだけではなく。

まだ撮影許可は出なかったが、1階、2階合わせて約40台ものクルマが置かれる予定だという。チェックインまでに1時間以上かかってしまいそう、とうれしそうな香川編集長。

続いて吉川支配人が案内してくれたのは、自慢のスイートルーム。その名も「グランプリスイート」だ。なんとこの部屋、バルコニーからサーキットが見ることができる。間近で聞こえるエンジン音に、香川編集長も大興奮。佐藤プレジデントの声もかき消され、耳に入らないようだ。

ホテルだから、もちろん夜でも部屋にいながらにして観戦できる。24時間レースも夜通し楽しめるわけだ。

香川
24時間見ていいわけでしょ?

吉川
むしろ寝られない、と。

香川
寝られないですよね。「寝かせないホテル」ですか(笑)

スイートルーム内のバスルームにも、外を見渡せる窓があり、湯船につかりながらレースを観戦できてしまう。モータースポーツファンにとっては感涙ものの部屋だ。さらにホテル内には温泉浴場もあるからご満足いただけるはず、と吉川支配人は胸を張る。そんな富士スピードウェイホテルは、2022年10月に開業予定だ。

作業を間近で見学できるレーシングチームのガレージ

続いて佐藤プレジデントとともに訪れたのは、レーシングチームの「ガレージ」だ。レーシングカーを見たり触れたり、レーシングチームの人たちと出会えたりといった体験を提供する。ルーキーレーシング工場長の武田敏明氏と統括メカニックの関谷利之氏が案内してくれた。

豊田章男氏がチームオーナーのルーキーレーシングのガレージ内には、SUPER GTの参戦車両のほか、見慣れない車両が。なんとマツダの参戦車両が置いてあった。これは「みんなで手をつないでモータースポーツを盛り上げなきゃいけない時代なんだ」というチームオーナー(豊田章男)の想いによるものだとか。「また太っ腹ですね」と驚く香川編集長。

ガレージの2階には一般のお客様がガレージ作業を見学できるエリアも設置。ガラスの柵を採用し、子どもにも見やすいように配慮されている。2階の奥には、タイヤ交換の練習などをするための「整備訓練場」がある。ここもまた壁がガラス張りで、練習風景を一般のお客様が楽しめる設計となっている。

香川
こういう風に一般に開放することによって、メカニックに向いている天才を引き寄せることもあるわけじゃないですか。

武田
はい。

香川
子どものうちから「やりたい」と思うのと、大人になってから「いいかも」と思うのでは、スタートも変わるでしょ。それを見せるいい機会になるということですね。

武田
そうなんです。

香川
集え、メカニック!

佐藤プレジデントによるとタイヤ交換を一発で決めるには相当の筋力がいるのだとか。整備訓練場で練習していたのは、メカニックの蓑島氏(メカニック歴8年)と黒宮氏(メカニック歴1年半)。蓑島氏がタイヤ交換のお手本を見せてもらうと、交換にかかった時間は4秒67。「ぜひ香川さんも」と促されてチャレンジした香川編集長のタイムは11秒71。

香川
ここからすべての人はスタートするんだよね。

蓑島
僕も8年前は1輪あたり約10秒くらいかかっていました。4秒台になったのは、5年目くらいです。

香川
いやー、レースってこれに支えられているんだね。やってみなきゃ分からないね。こういうちょっとしかスキマがないところは奥が深いんですよ。

ガレージ内にはトレーニングルームも用意されている。黙々とトレーニングしていたメカニックの前田氏は、トレーニングをすることで「(タイヤ交換のときに)タイヤがブレなくなる」という。モータースポーツに携わる人々もまた、アスリートなのだ。

男性ロッカー室は、まるでメジャーリーグのドレッシングルームのよう。ドライバーだけでなく、メカニックやエンジニア用のスペースもある。チームオーナー(豊田章男)の「とにかく壁をつくるな」という考えによってつくられたそうだ。

香川
ドライバー、メカニック、エンジニア。この3つのポジションが全部一緒の部屋にあるということは、やっぱりメカニックもアスリート、モーター「スポーツ」ってことですよね。

武田
それと「ワンチーム」、と。

すべては「もっといいクルマづくり」のため

モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」の中で、ルーキーレーシングをはじめとするプライベートレーシングチームは、クルマを鍛える役割を担う。ドライバーやチームのメンバーも、単に「レースに勝つ」ことだけを目標にしているのではなく、その先にある「レースの技術やノウハウを量販車につなげたい」という共通の思いでやっていると佐藤プレジデントは語る。だからこそ、チーム内に共通の「絆」のようなものがあるのだ。

そして佐藤プレジデントは、サーキットの変革を進める理由を、次のように語った。

佐藤
そもそも、カーボンニュートラルな社会をつくる前に、「もっといいクルマづくり」の畑となるモータースポーツをサステイナブルにしていかないといけないと思っています。自分たちだけでなく、関わる多くの人たちと一緒になって、笑顔が生まれる場所をつくっていく。そこで技術が磨かれて、未来のクルマにつながっていく。そんなプラットフォームをサーキットにつくったらどうだろうという発想が原点にあります。

では、なぜ富士スピードウェイに人を集め、ホテルをつくり、子どもたちに開放するのだろうか。「そこまで広げる意義は何なのでしょう」という香川編集長の質問に、佐藤プレジデントは豊田社長の「原体験」のエピソードを教えてくれた。

佐藤
1966年富士スピードウェイ開業の年に開催された第3回日本グランプリがあります。本当に多くの方の目の前で、自動車メーカー同士のしのぎを削る戦いが繰り広げられました。それが豊田社長のモータースポーツの原体験です。

そこで見たクルマは本当にカッコよかったし、レーシングドライバーは輝いていたし、働いているメカニックやエンジニア、皆がキラキラして見えたそうです。

そんな原体験こそが、今の豊田社長の根っこにある「クルマが大好きなんだ」という思いにつながっているのだと佐藤プレジデントは言う。

何かに挑戦するとき「大好きなんだ」「楽しいんだ」という思いは大きな推進力になる。だからこそ豊田社長は、サーキットを楽しめる場所にしようとしているのかもしれない。

ここにある「ガレージ」の最大の特長は、お客さまが見学できること。見られることでチームの仕事の質も上がり、同時にお客さまに夢を与えられる場所にもなる。

佐藤
(子どもたちが)将来の職業を考えたとき、自分が見てきたことはイメージがわきますよね。レーシングドライバーのイメージはわきやすい。

香川
ゲームセンターにもありますからね。

佐藤
ではエンジニアやメカニックはどうでしょうか。モータースポーツを支えるすごく大事な職業ですが、実際になにをやっているのかは分からないですよね。それに触れ、感じることができる。そんな距離感を持つ場所をつくることで、多くの人に未来のモータースポーツに関心を持ってもらいたい、と。

香川
だってタイヤ1本付ける時間を数秒減らすのに5年かけてるわけですよ、彼は。それだけでもすごいスポーツだなと思いますよ。やっぱり、レースも間違いなくスポーツなんだと今日実感しましたね。

ガレージの周りは、今はまだ空き地。だが将来的に、他のチームのガレージができ、さらにカフェやレストラン、温浴施設などをつくる構想もあるという。「夢が広がる」と香川編集長も期待を寄せた。

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