トヨタのコラム
2022.01.11

トヨタは電気自動車にどこまで本気なのか?豊田社長インタビュー

2022.01.11

トヨタは電気自動車にどこまで本気なのか?その答えを確かめるために、香川編集長は2021年12月14日にトヨタがメディア関係者向けに開催した「電気自動車(BEV)戦略についての説明会」にやってきた。

場所はお台場にあるクルマのテーマパーク、「メガウェブ」だ。実はこのメガウェブ、2021年12月31日をもって22年の歴史に幕を下ろすことが、すでに決まっている。

「久しぶりだね、この感じ」と何だか楽しそうな香川編集長。どうやら、久々に生で見る豊田社長のプレゼンテーションが待ちきれないようだ。

香川
社長はいつも驚かせてくるところがあるから、何があっても驚かない準備はしています。社長が水着で出てきても驚かない!

2030年までに30車種。BEVもフルラインナップに

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

いよいよステージの幕が切って落とされた。5台の電気自動車らしきクルマを背に、豊田社長は「カーボンニュートラル。それは、この地球上に生きるすべての人たちが、幸せに暮らし続ける世界を実現することだと思います」と切り出した。「そのお役に立つこと」が、トヨタの願いであり、グローバル企業としての使命である、と豊田社長は言葉をつなぐ。

ただし、「1つの選択肢だけですべての人を幸せにするのは難しい」(豊田社長)。だからこそトヨタは、未来に向けてできるだけ多くの選択肢を準備しようとしている。

そして豊田社長は「具体的には、2030年までに30車種のBEVを展開し、グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルラインナップでBEVをそろえてまいります」と力強く宣言した。

「30 !?」と突然の具体的な数字の発表に驚く香川編集長に追い打ちをかけるように、壁だと思われた豊田社長の背後の幕が落とされる。するとそこには、さらに11台ものBEVが用意されていた。

これには香川編集長も「すごいことになったぞ」と驚いた様子。会場の熱気に、「1970年代みたいだよ、クルマの発表が」と興奮を隠しきれない。

豊田
今日発表した未来は、決してそんな先の未来ではありません。ご紹介したトヨタのBEV、そのほとんどがここ数年で出てくるモデルです。

私たちは2030年にBEVのグローバル販売台数で年間350万台を目指します。

多様な選択肢を残す理由

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

そして豊田社長はトヨタのこれまでのBEVに向けた取り組みを振り返る。

1997年、トヨタは世界初の量産HEVプリウスを発売する。だが、それ以前からBEVの開発は始まっていた。電池についても、トヨタは研究開発から生産まですべて内製してきた歴史がある。さらに豊田通商が2006年から電池の安定的な資源確保を進めている。加えて90年代にBEVと同じタイミングで、水素を動力源とする燃料電池車の開発もスタートしている。

現時点で世界を見渡すと、地域によってエネルギー事情は大きく異なっている。「だからこそ、各国・各地のニーズに合ったカーボンニュートラルの多様な選択肢をご提供したい」と豊田社長は強調する。あくまで決めるのはトヨタではなく、各市場とお客様だというスタンスだ。

どうしてトヨタはそこまでして選択肢を残そうとするのだろうか。「未来を予測するより、変化にすぐ対応できることが大切だから」と豊田社長は説明する。技術革新によって変化のスピードはどんどん速くなり、将来の予測はますます難しくなっている。だからこそ、トヨタは「正解への道筋がはっきりするまで、お客様の選択肢を残し続けたい」と考えているのだ。

地球環境や人々の幸せを願い、寄り添うことで、トヨタは人と社会の「幸せを量産する会社」になりたい、と願っている。

さらに豊田社長は自動車産業にも言及した。日本には「日本のモノづくり」と「移動」を支えてきた550万人の仲間がおり、世界にはもっと多くの仲間がいる。最後にこんな力強い宣言でスピーチを締めくくった。

豊田
みんなが、心を一つにして、意思と情熱を持って行動すれば、次の世代に美しい地球とたくさんの笑顔を残すことができる。私はそう信じております。

そして、必ず、実現してまいります。

社長は、BEVは好きですか?

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

「新車が何台も並ぶってのはいいね(中略)。目に見える、具体的なモノが眼前にあるってのは、やっぱり説得力あるよ」と目を輝かせる香川編集長。

初めて目にするBEVがずらりと並び、会場全体も熱気に包まれている。やがて豊田社長に加え、レクサスカンパニーのプレジデントでもある佐藤恒治Chief Branding Officer(CBO)、技術担当の前田昌彦Chief Technology Officer(CTO)、デザイン担当のサイモン・ハンフリーズ統括部長が出席して質疑応答が始まった。

やはり、メディアからはBEVに対するトヨタの本気度を探るような質問が飛ぶ。「これからはEVの開発を優先するのか、それとも他の技術も並行して開発するのか」という質問に対し、豊田社長は「すべての選択肢に一生懸命取り組む」と明言。フルラインナップで、グローバルで戦う以上、どれかひとつに賭けて他は切り捨てる、というわけにはいかないのだ。

「社長は、BEVは好きですか?」という直球の質問も飛びだした。これには豊田社長も思わず「すばらしい質問ですね」と苦笑い。だがすぐに真剣な表情に戻り「あえていうなら、今までのトヨタのEVは興味がなかった。そしてこれからつくるBEVには興味がある」と回答した。電気モーターは、ガソリン車と比べてはるかに効率が高い。さらにエンジンより緻密な制御が可能なモーターをうまく使えば、FF車にもFR車にも自在に変身させられる。豊田社長はBEVの特性を生かせば、「もっといいクルマ」をつくれる可能性を見いだしているようだ。

豊田
いろんな道を安全に速く走れるFun to Driveなクルマが、このプラットフォームによりつくれる可能性が出てきた。これが大きな変化点だと思います。

説明会後の豊田社長を直撃インタビュー

説明会の終了後、香川編集長はさっそく豊田社長のインタビューに向かった。

「これまでトヨタはBEVに積極的でなかったと世間ではいわれていますが、本当のところはどうだったのか、お聞きしたい」と切り出した。

これに対し「多様化した世の中に対して多様なソリューションで我々は望みたい」とずっと言ってきた、と答える豊田社長。カーボンニュートラルに対するソリューションがBEVしかないメーカーもたくさんある中、トヨタはグローバルかつフルラインナップだからこそ、どの選択肢も真剣に取り組んでいると強調した。

さらにBEVに関しては、トヨタはエネルギーを「つくる」「はこぶ」「つかう」、つまり資源の調達から製品まで、総合的に長く取り組んできた歴史がある。つまり決してトヨタは「BEVに消極的」ではなかったのだ。

香川
選択肢のひとつとして、BEVも本気だということを訴える、と。そして他も本気だ、と。ガソリンも本気。FCEVも本気、PHEV(プラグインハイブリッド)も本気、と。

豊田
全部本気です。どの選択肢であろうと、我々は一生懸命やっています。

なぜトヨタが多様な選択肢にこだわるのか。そこには乗用車から商用車まで、都会に適したコンパクトカーから悪路を走るための大型SUVまでを幅広く手がけるフルラインナップメーカーだからこその譲れない理由がある。

豊田
トヨタは世界中で、お客さまにフルラインナップの商品を提供している会社です。ひとつの選択肢では、すべての方の解決策にはならないんですね。

香川
そうですね。これは本当に、なるほどと思いました。

豊田
今、正解が分かっていない段階で「こっちだよ」ということ自体、無謀な経営判断になるんじゃないのかな、と。

未来を、自分たちの会社の意志で決められるなんて傲慢な意識は持っておりません。どれが選ばれるかは、各地域とお客さまの決断になる。でも決められたときは、そちらの方向にすばやく動けるようにしよう。そんな会社にトヨタがなっていくといいと思っています。

そして「一生懸命つくった商品だけが、お客さまの笑顔につながる」と信じているからこそ、トヨタはすべての選択肢に全力で取り組んでいると豊田社長は言い切った。

自動車産業550万人への想い

さらに豊田社長はカーボンニュートラルについてのよくある誤解についても指摘する。エネルギーには「つくる」「はこぶ」「つかう」という3つの面があり、すべてを総合的に考えないとカーボンニュートラルは達成できない。

ところが「BEVかどうか」というのは「つかう」部分だけの議論だ。ヨーロッパのように、「つくる」部分で再生可能エネルギーへのシフトを進めている地域であれば、BEVはカーボンニュートラルな乗りものになる。

ところが、残念ながら今の日本は火力発電の割合が高く、エネルギーを「つくる」部分で多くのCO2を排出してしまう。このため単純にBEVを増やすだけでは、CO2排出を削減するのは難しい。世界を見ても各地でエネルギー事情は異なり、やみくもにBEVに置き換えていくことがCO2排出削減への最適解とはいえない。だからこそ、トヨタのBEVへの取り組みは「パーセンテージでなく台数で見てほしい」と豊田社長は訴えるのだ。

今回トヨタが発表した「350万台」という数字は、トヨタ全体の年間販売台数の3割程度。だが台数で考えれば、自動車メーカーの中で10位前後に位置するほどの大きな数字であり、トヨタがどれだけ高い目標にコミットしているのかが分かる。

さらに話題は、自動車産業にも及んだ。どの選択肢に決めるのかは、我々ではなく市場でありお客様だ、と豊田社長はいう。もしお客様がBEVを選び続けたら、国内の自動車産業で働く550万人の仲間はどうなってしまうのか。

香川
国内のサプライヤーさんたち、部品をつくっているメーカーの方々は、雇用の問題も発生すると。この方々への想いをお聞かせいただきたい。

豊田

クルマ会社というのは、仕入先さんをはじめとした皆さまと一緒につくらない限り、成り立たないんですよ。ですから、過去から現在にわたって一緒にクルマをつくってきた以上、これからも一緒にやっていきたいと思っています。

今までは「2050年にカーボンニュートラルに持っていく」という目標ばかりがひとり歩きして、「あとは民間企業さん、よしなに」という状況でした。でもリアルな仕事をしている我々としては、「そんなに簡単なモノじゃない」というところはあります。

香川

そうですよね。

豊田
例えば日本にはモノを運ぶ方々まで含めて、550万人くらいの方が自動車関連の仕事に従事されています。すべてがBEVに変わったら、100万人の雇用が失われるという試算も出ています。そんなことにしていいのかなあ、と私は思っているんですね。

ともに未来を歩んでいきたい

実は、サプライヤーの方々に対する影響、そして自動車産業の雇用問題については、説明会の質疑応答でも豊田社長の考えを問う質問が出ていた。それに対して豊田社長はこのように答えている。

豊田
完成車に使われる部品の約75%は外注部品であり、自動車産業は2次、3次と多くの関係会社によって支えられている。いくら多くの選択肢を残すとしても、例えばエンジンの部品を供給する会社にしてみれば、内燃機関の減少は死活問題になってくる。「そのとき、市場が選ぶからこっちへいくんだ」とはしたくない。

どんなお仕事であれ、どんな規模の会社であれ、そこでずっと長い間やってこられた方々、やってこられた会社が「今までの人生、何だったの?」と思わないような自動車産業にしていきたいと思っています。

今までやってきたことが意味あるものとして、それでも市場がそちら(電動化)を選ぶならば、「ではどうやりましょうか」と、もう少し近場で具体的に話し合う形にもっていきたいと思います。

プレゼンの中でも申し上げました。「未来は、リーダーの目標値で決まるものではなく、意志ある情熱と行動で決まるものだ」と。いくら2050年のカーボンニュートラルの目標を掲げたところで、やはりここ数年、もしくはここ5年10年の行動によって、2050年の未来の景色は変わるのではないでしょうか。

(中略)

過去、現在とそういうこと(自動車産業の仕事)をやってこられた方の人生に対して「意味あるものだ」と(思っていただきたい)。そういうことを、ともにやっていく会社でありたい、と思っています。

これまでがんばってきた自動車産業の仲間たちの人生を、絶対に無駄に思ってほしくない。まっすぐ質問者の目を見ながら答える豊田社長の姿からは、そんな強い決意が伝わってきた。

豊田
サプライヤーの方々に「こっち(の技術に未来)はもうありませんよ、残念でしたね」なんてことは絶対に言ってはいけないし、そんなことを言ったらそれぞれの会社で働いてきた人たちは「今までの人生返してくれよ」となりますよね。

香川
そうですね。

豊田
だから、今までの人生を意味あるものにしていくために、我々としては選択肢の幅をできるだけ広げています。

さらに「いつ、どういう影響が来る」ということをできるだけ具体的に提示しながら関連各社とコミュニケーションを取り、変化に対応していきたいという。「ともに未来をつくっていきたい、ともに未来を歩んでいきたいという意志は一切変わっていません」と豊田社長はきっぱりと言い切った。

香川
(後ろのBEVを見ながら)本当に魅力ある外観ですよ。

豊田
トヨタ自動車は最近、ショーモデルとほぼ同じ姿で(市販車が)出てきますから。これ、もう技術検討は全部終わっているクルマです。

香川
へえ、もう終わってるんですか!でもこれで半分でしょ。まだこの倍出てくるわけだから。350万台、本当に達成されるんですか。

豊田
トヨタっていう会社はね、何か言ったらやりますから。

香川
なんで、できちゃうんですか?

豊田
意志が強いからですよ。意志だと思いますよ、これは。

香川
その意志の強さはどこからくるんですか?

豊田
現場がしっかりしているからじゃないですか。私には仲間がいますから、ぜひともご期待いただきたい。

香川
まだまだ、やることはいっぱいありますから。お願いしますよ。楽しみにしております。

「どれがほしいですか?」「レクサスですねー。SUVのやつですよ!」「僕はあの後ろですね…」。インタビュー終了後、すっかりクルマ好きの顔に戻った豊田社長と香川編集長は、ずらりと並ぶBEVを前に、話に花を咲かせた。

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