トヨタのコラム
2020.05.23

"あえての今期見通し"に込めた豊田章男の気概 香川編集長決算発表リモート取材

2020.05.23

2020年5月12日(火)、トヨタの決算が発表された。新型コロナウイルスの影響で、今年はWeb配信となった決算説明会。香川編集長も、その様子をパソコンの前でじっと見守った。

最初に発表されたのは2019年度の実績。最終四半期(2020年1−3月)にコロナの影響を受けながらも前年度と同水準を確保している。そして、その後に“2020年度の決算見通し”が発表された。

2020年度はコロナの影響が大きくなってきた4月から始まった年度である。そんな“先の見通せない1年”であるにもかかわらず出てきた予測値。そして、その数値は2019年度から大きく減少させているものの、営業利益はマイナス(赤字)とはしていない。

先行きが見えない中で、あえて収益見通しを出した理由を「いろんな方の生活を取り戻すための一助」と説明した豊田社長。

覚悟を持って出した2020年度見通しには、どんな想いがあったのか? 決算発表直後のリモート取材で香川編集長は豊田社長を直撃した。

香川

オン!はい、ついた。次、3つ目のカメラ。4台目。4台あったっけ。はい、ついた。もうすっかり、この労力も慣れてまいりました。

トヨタイムズ編集長、香川照之です。はい、完全にひとりです。そして、窓も全開!今回で3度目のテレ取材になりますが、今日はですね、トヨタの決算発表、これをリモート取材していきたいと思います。

さみしいなあ。いつものように。決算発表をひとりで聞くっていう。あ、始まりました。

何より驚いたのが今期の見通しを出したこと

近健太(トヨタ自動車 執行役員 Chief Financial Officer)
それでは、2020年3月期の決算につきましてご説明いたします。当期の連結販売台数は、895万8000台となりました。売上高29兆9299億円。

香川

あまり減っていないな。


営業利益2兆4428億円。株主還元についてご説明いたします。当期の普通株式の期末配当金は1株あたり120円とさせていただきました。続きまして、2021年3月期の見通しについてご説明いたします。

香川

え、今期の見通し発表できるの?発表するの、今。見通しって言ったよな、これ。


新型コロナウイルスの感染拡大により先々を見通すことは非常に難しく、全体としては販売が4月を底に徐々に回復して、年末から来年にかけて前年並みに戻ることを前提としております。

次に連結決算の見通しです。営業利益5000億円を見込んでおります。

香川

黒字だね、これ。これ黒字だよね。

黒字なんだ、今期見通し。すげーな、リーマンのとき赤字でしょ、だって。
見通し出しましたよ!(トヨタ以外は)どの会社も見通し出してないよ。


私どもは自動車産業のOEMということもありまして、何らかの拠りどころと、基準を示すことも必要じゃないかということで今回公表させていただきました。

香川

はい、今第1部の決算発表が終わりました。まず2020年の3月期の決算が、これコロナの影響は受けていたんですけども、ほぼ前年並みと。

そして何より驚いたのが、2021年の3月、つまり今期の見通し、今後1年どうなるかという今期の見通しを出したことだ。これよく出したね。もう一つ驚いたのが、これね、見通しが黒字だったことですよ!やっぱりこれ、元気出ますよね。コロナでも黒字なんだと。普通はまあ、赤字ですよね。

いずれにしても、大事なのは数字ではなくて、これは本質的なこと。トヨタがそういう数字を通して、どういう方向に進んでいくのか。そして、今どういうことが起きているのか、このビジョンだと思うんですよ。

この後、第2部の社長の決算発表、ここをしっかりと、このあたりを聞きながら伺ってみたいと思います。

過去に時間を使うのは、私の代で最後にしたい

香川

あ、始まりました。

豊田章男(トヨタ自動車 社長)
豊田でございます。本日は決算内容を踏まえ、トヨタとしてコロナ危機にどのように立ち向かっていくのかについて、私の思いをお話しいたします。

香川

メガネが今日はフレームがないですね。

豊田
まず、リーマン・ショックの直前から現在に至るまでの収益構造の変化をご覧いただきたいと思います。


リーマン・ショック直前の3年間は営業利益を増やしていたものの、固定費は大幅に増加しており、事業の収益構造は決して良くはありませんでした。この時期に規模拡大のスピードが人材育成のスピードを上回り、後のリコール問題にもつながっていったのだと思います。

リーマン・ショック直後の1年間は、販売台数が前年比で約15%も減少し、4,610億円の赤字に転落いたしました。

私が社長に就任した直後の4年間はリーマン・ショック、大規模リコール問題、東日本大震災、タイの洪水、超円高をはじめとする6重苦など、数々の危機への対応に追われながらも、全社一丸となって乗り越えた時期であったと思います。

この4年間で販売台数をリーマン・ショック前のレベルまで挽回できました。同時に研究開発費、設備投資を急激に低減することで固定費を圧縮し、2013年3月期は1兆3,208億円の営業利益を確保いたしました。

しかし出血を止めるために、将来の投資も含め、すべてをやめたことで、本当の意味での体質強化にはまだしばらく時間が必要となりました。足元の7年間はもっといいクルマづくりを加速するための投資や、CASE対応に向けた投資によって、固定費は増加いたしました。しかし、原価改善などによりそれを吸収しながら体質を強化した期間でした。

香川

すげぇな。

豊田
最初の3年間で痛感したことがございます。それは平時における改革の難しさでした。昨年の決算発表の場で「トヨタの課題は何か」というご質問をいただき、私は「トヨタは大丈夫、という気持ちが社内にあることだ」とお答えいたしました。

そこに100年に一度の大変革が重なってきたものですから、この数年間はトヨタらしさを取り戻す戦いと、未来に向けたトヨタのフルモデルチェンジの両方に、がむしゃらに取り組むことなったわけでございます。

七人の侍体制、副社長の廃止など、役員・組織の体制を抜本的に見直してまいりました。

従業員とのコミュニケーションについても、本気で本音で向き合ってまいりました。

香川

なるほど。

豊田
こうした改革を行うたびに社内外から、「そこまでしなくても」という声が私の耳にも届きました。それでもやり続けてまいりましたのは、自分が思い描く理想の形で次世代にたすきを渡したい、この一念に尽きると思います。

「トヨタらしさを取り戻す」というのは、過去に時間を使うことだと思います。過去に時間を使うのは私の代で最後にしたい。次の世代には、未来に時間を使わせてあげたい。だからこそ、未来に向けた種まきだけはしておきたい。これが私の考える理想のたすき渡しです。

この数年間の取り組みをまとめますと、これまでの古いセオリーから脱却し、新しい時代の新しいトヨタのセオリーを構築していくということではないかと思います。

そして、2021年3月期の見通しです。今回のコロナ危機ではリーマン・ショック以上の販売台数195万台、前年比約20%の減少が見込まれるものの、営業利益は5,000億円の黒字確保を見込んでおります。何とかこの収益レベルを達成できたとすれば、これまで企業体質を強化してきた成果といえるのではないかと思っております。

香川

リーマンときは赤字。しかもリーマンのときは、4600超ですよ。4600億、5000億近くの赤字を出していたのに、今期の見通しでは5000億の黒字。これ1兆円違うわけだから。よく、この10年の間に企業体質を強くしたと、強化したというのが、この決算からも見て取れるんじゃないかと思います。

豊田
ここからはトヨタが長年にわたってずっとこだわり、ずっとやり続けてきたことをお話しさせていただきます。それは国内生産300万台体制の死守です。超円高をはじめ、これまでどんなに経営環境が厳しくなっても、日本にはものづくりが必要であり、グローバル生産をけん引するために、競争力を磨く現場が必要だという信念のもと、私たちが石にかじりついて守り続けてきたものは、300万台という台数ではありません。守り続けてきたものは、世の中が困ったときに必要なものをつくることができる、そんな技術と技能を習得した人材です。こうした人材が働き、育つことができる場所を、この日本という国で守り続けてきたと自負しております。この信念に一点の曇りも揺らぎもございません。

ただ、皆さまにご理解いただきたいことがございます。それは守り続けること、やり続けることは決して簡単なことではないということです。今の世の中、V字回復ということが持てはやされる傾向があるような気がしております。

雇用を犠牲にして、国内でのものづくりを犠牲にして、いろいろなことをやめることによって個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されることが往々にしてあるような気がしてなりません。

それは違う、と私は思います。企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しいときでも、いや、苦しいときこそ歯を食いしばって、技術と技能を有した人材を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあると思います。そういう企業を応援できる社会が今こそ必要だと思います。ぜひ、ものづくりで日本を、日本経済を支えてきた企業を応援していただきますよう、お願い申し上げます。

香川

うん。

豊田
最後に、今、私が最も大切だと考えていることを申し上げます。これまで多くの危機を乗り越える中で、トヨタの企業体質が強くなってきたというお話をさせていただきました。

しかし、この11年間、私はトヨタを「強い企業にしたい」と思ったことは一度もございません。トヨタを「世界中の人々から頼りにされる企業」「必要とされる企業にしたい」という一心で経営のかじ取りをしてきたつもりでございます。大切なことは、何のために強くなるのか、どのようにして強くなるのか、ということだと思います。私は世の中の役に立つために、世界中の仲間と「ともに」強くならなければいけないと思っております。

少し話はそれますが、ゴールデンウィーク中にある方からお手紙をいただきました。池の周りを散歩していると、鳥や、カメや、魚が忙しそうに動き回っている様子を目にします。

香川

虫もだよ。

豊田
人間以外の生き物はこれまでどおりに暮らしている。

香川

そうだよ。

豊田
人間だけが右往左往している。

香川

うん、そのとおりだ。

豊田
人間が主人公だと思っている地球という劇場の見方を変える、いい機会かもしれません。

香川

これは素晴らしいですね。

豊田
私も全く同感です。

香川

昆虫が主人公なんだよ。

豊田
今回の危機で、地球環境も含め、企業も人間もどう生きるかを真剣に考え、行動を変えていく。人類がお互いに「ありがとう」と言い合える関係をつくっていく。私たちは今、大きなチャンスを与えられているのかもしれません。そして、それはラストチャンスかもしれません。トヨタは日本で生まれ、世界で育ったグローバルなものづくり企業です。私たちの使命は、世界中の人たちが幸せになるモノやサービスを提供すること。幸せを量産すること、だと思っております。

人類に乗り越えられない危機はありません。コロナ危機を共に乗り越えていくためには、私たちがお役に立てることは何でもする覚悟でございます。今度ともご支援をたまわりたく、よろしくお願い申し上げます。本日はご清聴ありがとうございました。

香川

うん、わかりやすい。

だからこそ、ひとつの基準を示すことが必要

司会者
ただ今より、質疑応答を開始いたします。

[質問:今回の決算に対する評価]

豊田
今年はですね、コロナ禍においては、この当たり前のことが当たり前にできない状況の中で、当初予定をしていたスケジュールでできたこと。これがまずですね、関係各社および従業員のみんなにも感謝したいなというふうに思っております。

今回の決算を総括しますと、今回のコロナショックというのは、リーマンのショックよりもインパクトははるかに大きいというふうに思っております。しかしながら、来期の予想でリーマンのときよりも販売台数が落ち込むマグニチュードは大きいものの、今回は何とか黒字を確保できたという点が、終息後の経済復興のけん引役ということを表明しておりますので、その辺の準備は整ったんじゃないのかなというふうに思います。

そういう意味をもってしますと、今回の決算は「新しいトヨタに生まれ変われるスタートポイントに立った決算」といえるのではないかなというふうに思っております。

[質問:来期の見通しを出したことに関して]

豊田
あとですね、需要動向を見せたということでございますが、これはですね、社内でも実はいろいろ議論がありました。われわれ自身もメーカーでありますので、お客さまにクルマを買っていただいて、はじめてクルマをつくることができる。それがわれわれ製造業だと思っております。

そういう中で、われわれがクルマをつくることで、仕入先の工場も動きだし、また地域社会も動きだす。自動車産業というのは経済に対する波及効果が、自動車が1だとしますと、他産業に及ぼす影響は2.5という数字も出てるように、いろんな方の生活を取り戻す一助になるんじゃないかというふうに思っております。

だからこそ、今置かれている状況、今分かっている状況を正直にお話しし、ひとつの基準を示すことが必要だと思いました。この基準があることによって、すそ野の広い自動車産業の関係各社が、皆さん、何かしらの計画、何かしらの準備ができるのではないかなと思います。

[質問:WOVEN CITYなどの構想に変化はあるか?]

豊田
新しいトヨタの未来の種まきに関しては、アクセルを踏み続けたいということでありますが、番頭であります、小林はちょっとどう思ってるか分かりませんので、この回答はですね、ちょっと小林のほうから。

小林
実はですね、この決算発表の前に、社長を含めてですね、経営陣で何度も議論をしました。

21年の3月期は5000億、リーマンのときの状態ですと赤字ですね。それをこの11年、いろいろありましたけれども、社長の指揮の下にここまできたなと。要するに、それは逆に損益分岐台数が明らかに良くなってるわけですね。

前回の反省、経験者が社長しかいませんので。(前回の)反省は、全部止めちゃったことなんですね。会社というのは、いつも申し上げてますように、持続的成長、ゴーイング・コンサーンといいますね。そういう意味では、止めてはいけないものというのは、やっぱり未来に対する開発費でありますね。それから投資であり、そういったものは普遍的にすべきであるし、するような資金を持つべきだと。

そのためにですね、リーマンのときは3兆円ぐらいしか手持ち現金がありませんでしたけれども、今は8兆円ぐらいまで上がりました。まだまだ私としてはですね、番頭としては少ないと思っております。

ですから、やっぱり企業というのは、将来に向けて、未来に向けて持続的成長をしていくことによって、世の中が、もっと豊かになるのではないのかと。これは社長の持論でございましてですね、われわれはそれに対して、今、必死になって付いていこうという中で、今ご質問にありました、スマートシティに対する投資とか試験研究費については、いささかも変えるところはございません。

[質問:昨年、トヨタの脅威のお話がありましたが今期のトヨタにとっての脅威とは?]

豊田
昨年はですね、本当に、トヨタは大丈夫だという社内意識をやりましたけれども。新しい脅威というのはですね、脅威というよりも、今、私自身は非常に落ち着いておりますし、いろんな頑張ってくださってる方、そして事技員も含めていろんな人に「ありがとう」という機会が増えたんですね。ですから、脅威というよりは、私自身の発言、行動の中で「ありがとう」と言える機会がこれからより増えていくことを期待したい。

香川

さあ、決算説明会、以上で終了。いやー、まあ、あらためてですね、トヨタイムズ編集長として、トヨタが歩んできた豊田社長の11年、これをこの決算の発表を通して、実はその数字ではなくて、トヨタが何に向かっていたのか、そしてどこに向かっていくのか。その中身をですね、ほんとにあらためて詳しく見させてもらったすごい機会だったと思います。

11年間、やっぱり社長がとても苦しい思いをしてきたことだけは事実で、その経験が、やっぱり落ち着いていると、今。そして「ありがとう」という言葉が言える自分がいると。こういうようなですね、数字の発表をしているのに、最後は心の発表をしているという。

これによってね、株が動いたりするような公式の場ですから、非常に堅苦しい、まさにスーツを着た言葉でしゃべっていらっしゃいましたけど、会見が終わった後の社長とテレワークでつながりますので、ちょっとくだけた、より本音の豊田社長らしい言い方を取材で引き出したいと思います。

あえて見通しを出した理由を直撃

香川
えー、ではですね。社長とつながっておりますので、早速社長をお呼びしたいと思います。どうもお疲れさまでございました!

豊田社長
初めてのこういうネット会見でした。

香川
僕、2010年の発表の原稿からずっと去年まで読まさせていただいて、今年、生で初めて聞かせていただいたんですけど。で、リーマンショックの直後という、ほんとに不況のときからバトンを渡されて11年。

豊田
「11年かあ…」っていう感じですね。

香川
短く感じられます、それは?

豊田
いやあ、11年と思うと短いですよね。

香川
なるほど。

豊田
じゃあ、もう1回やりたいかって言うと、嫌です。

香川
いや、ちょっと驚いたのがですね、今期というか、21年の3月期までの見通しを出したじゃないですか。出しましたよね?

豊田
はい、そうです。

香川
多くの企業が見送る中、なぜトヨタが今期の見通しを出したのか。

豊田
リーマンショックのときは、世界での販売台数が約15%下がって大赤字になりました。今回は、そのときよりも多い20%減を一応計画してます。

香川
なるほど。

豊田
なぜそういうことをしたかと言いますと、自動車は非常に裾野の広い産業で、仕入れ先さんとかいろんな方が一緒に動いていかないと無理なんですよ。そうなりますと、一番出発点であるわれわれ自動車会社が、ある程度の計画を立てない限り、すべてが動かないと思いました。計画を立てると、1次サプライヤー、2次サプライヤー、3次サプライヤーも何かしらの計画を立てられるんです。

あとは、そういう計画には、ひとつの前提条件というのがありますから、その前提条件が現実化した時点で、その計画とのギャップがはっきりしてきますよね。そこでわれわれ「異常管理」という言い方をしてますけど、異常を見つけ直していくということですね。正常な状態はこういう状態ですよ、というのをはっきりさせてあげないと異常管理はできないんです。

11年間なにもしてこなかったら赤字

豊田
「損益分岐台数」っていうのがあるんです。リーマンのときの、いわば損益分岐台数で、この11年間なにもしなかったとしたら、赤字決算になると思います。

香川
なるほどね。

豊田
それが黒字になったということは、この11年間一生懸命ですね、損益分岐台数を下げようと、ほんとに地道に努力を重ねてきてくれた結果なんです。

香川
でもね社長、普通は、黒字だけを優先するならば、例えば国内生産を減らしたり、いろんなことを下げることによって数字を守るということなら分かるんですけれども、国内生産は必ず守ると。国内生産300万台、ね。

豊田
それは300万台の台数にこだわっているわけじゃなくて。

香川
台数じゃない。なるほど。

豊田
300万台をつくりあげるための生産基盤を維持するためには、仕事の場があるということ。

香川
はい。

豊田
それぞれで働いてく人たちがそこで技能を学び、技能を習得し、自分自身が成長できるという場を与えられる、ということなんです。

今回「マスク化現象」と言われてるように、「マスクはより安くつくろうよ」ということばかりが最優先項目となり、日本で調達できないことになってました。でも、リアルなモノづくりの企業がいっぱいあったということで、すぐに設備と人を教育してマスクをつくり、マスク自給自足に取り組めたわけですよね。

何か必要とされたときに、それをつくる能力があるという点、そしてある程度の規模がないと働く場を提供できません。働く場が提供できなければ、人が学び、技能を手にプロになるチャンスもないわけです。

香川
300万台国内生産を死守すると。守り続けるもの、変えてはいけないものもあるのがトヨタだと。で、この何を変えて何を変えないかの判断、線引きが、ものすごいやっぱ感覚的に行われてるんだなというのを、はっきり分かったんですね。

イチローさんに教わったこと

豊田
私ね、あんまり熟慮に熟慮を重ねないんですよ。ただし、絶えず悩んでるんです。

香川
なるほど。

豊田
というのは当初申し上げましたように、私は基本負けず嫌いですから、いろんな人から「どうせ、あなたできないでしょ」と言われたくないんですよ。それと「あなた、どうせ決められないでしょ」とかいうことも言われたくないがゆえに、どんなに必要条件がそろってなくても何か物事を決めてあげなきゃいけない、というところに自分を追い込んできました。

つい直前にですね、副社長という職を廃止しました。

香川
はい。

豊田
それで何が起こったかというと、より正直に、より相談事が自由にできる環境ができたっていうことですよね。じゃあ、そこまで環境変化があると思って副社長職を廃止したかというと、してません。

香川
そうじゃない、なるほどね。

豊田
何か変えたからっていって、確実にいい結果が出るわけでもないんです。これはイチローさんに教えてもらいました。

香川
なるほど、なるほど。

豊田
イチローさんってね、毎年毎年バッティングフォーム変えるんですよ。

香川
うかがってます。

豊田
変えたからといって結果が出るわけではない。ただし、変えなければ確実に自分のバッティング技能は衰退するんだ、といわれてました。

香川
はい。

豊田
それを私はこのマネージメントの世界で、何でもチャレンジをしてみようと。今だと、チャレンジをして結果はうまくいかなくても、自分で責任取れるんです。だから「チャレンジしよう」ってことが言えるし、ついてきてくれる人が増えてきた結果、今「ありがとう」と言う機会が増えたんじゃないでしょうか。

強い会社ではなく、応援される会社になりたい

香川
ほんとに数字の話から始まって、結局最後は「ありがとう」という心の話になっていくわけですよ。

豊田
要は、決算発表というのは、世界中の従業員とか、販売店、仕入先も含めてみんなががんばってきた1年の結果なんですよ。だから、結果を数字で見てるというだけのことで、その数字をつくったプロセスというのは、人がつくってるわけです。

それと景気というのは上がったり下がったりします。ただ上がったり下がったりしても、例え赤字であっても、やっぱりお世話になってるステークホルダー、シェアーホルダーも含めた方々には普段の感謝を示したい。

ステークホルダーというと株主も入りますけど、あとお客さま、従業員、地域社会も含まれるんですね。それで今日も、トヨタは強い会社にしようと思ってたわけじゃなくて、期待される会社になりたい、応援される会社ですね。

そうしたときに「誰から応援されたいの?」というと、そこで働く従業員、商品をご愛顧いただけるお客さま、働く場を提供いただいてる地域社会の方々から「ありがたいな、いいな」と思われていることが、最後はシェアーホルダー、株主の利益につながり企業の価値を生むんじゃないかな、と。これが、私が思ってる持続可能な世界ですし、SDGsの考え方と同じだし、これって「トヨタらしさ」を取り戻す戦いの中で、ずっと自分が言ってきたことじゃないか、と。

それがね、すべて言い表してるのが、トヨタ及びトヨタグループの創業の理念である「豊田綱領」なんですね。

香川
はい。

豊田
それで今日の会見でも一言だけ申し上げましたのは、それを一言で表現するとトヨタっていうのはどんな会社なのかなというのが、「幸せを量産する」だと。

やはりトヨタは1台の試作車をつくる会社ではなくて、やはりいろんな商品を量産すること。その商品によって幸せをお届けできること。そして皆さんが笑顔になること。

これがね、これからの時代でも変えてはいけない、今後のぶれない軸として持ってほしいビジョンなのかなというふうに思って、あの言葉を今日使わせてもらいました。

人間だけがオロオロしてる

香川
社長今日ね、ゴールデンウィーク中にいただいたお手紙の話をされたじゃないですか。「池の亀や魚はちゃんと普通にいるのに、人間だけがオロオロしてる」と。これね、ほんとに僕もずっと思ってたんですよ。あのね、昆虫は普通にやってます、今も。

彼らは文句のひとつも言わずに生命をつないでるんですよ。「昆虫が耐えているんだから、人間も耐えて当たり前だ!」ってずっと思ってたんですけど、これをまた社長が例に出していただけたので、これまた同感だなと。

豊田
さすが昆虫博士だ。

香川
社長、それには何よりも、ほら、まずは健康第一ですよ。

豊田
はい。結構健康です。

香川
結構健康。大丈夫ですか。

香川、豊田
健康第一!トヨタイムズ!

香川
ありがとうございました!

決算の裏に見えた“トヨタの気概”

香川

今回はですね、トヨタの決算発表というガチな取材だったわけですけれども。さっき、ちらっとネットニュースを見てみたら、「(今期の営業利益予想が)8割減」っていう見出しの決算報告(記事)がたくさんあった。でもね、ちゃんと中身を聞いたら、そういうことじゃないんだね。それは、聞いてみたら、もっと前向きで元気の出る内容なんですよ。

売り上げは、そりゃ減りますよ、多少は。しかし黒字だと。こういう状況でも黒字を確保したというすごさを、伝えなきゃいけない。

あとですね、今期の見通しを立てた。そしてですね、驚いたのが、トヨタが今期の見通しを出してきたのはどうしてかというと、さまざまな部品メーカーや関係会社が計画を立てるための道しるべ、そして基準を出すためだと。それを導くためだと。

こういうような、ほかの会社のために「まずトヨタが見通さずしてどうする!」という気概、おとこ気。これを感じましたね。このことによって、多くの会社が、救われるんだから。見通しを出す。出してもいい。出そうか。じゃあ、出してみよう、というふうに第一歩になるわけですよ。誰かが第一歩を踏まなきゃ、道はできないんだよ。

さらに黒字予想ですよね。リーマンよりもひどいことになっていると思ったのに、この黒字予想を出すことによって「日本を元気にしたい」「日本に元気を届けたい」という、そういう気持ち、気概がビシビシ伝わってきました。これはすごい。私も元気をもらいました。

健康第一、トヨタイムズ!

いやしかし、決算ってすごいね!数字だけじゃないんだね。

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