豊田社長がサプライズ ディーラーを愛し、ディーラーに愛された友へ

2022.11.04

豊田章男社長にとって、3年ぶりの出席となった全米ディーラー大会。米国で販売事業を率いてきた功労者を招待し、盛大なサプライズを送った。

9月、米西部ネバダ州ラスベガスで全米ディーラー大会が開かれた。国内でも、全国の販売店の社長らを集めて行う販売店代表者会議というイベントがあるが、その米国版である。

年に一度、トヨタ・レクサスブランドそれぞれで行う。ディーラーの代表者に日ごろの感謝を伝え、トヨタの販売事業の方向性を伝える。市場に送り出す商品を一足先に披露し、トヨタ・レクサスへの期待感を高めてもらったりもする。

社長就任以来、できる限り予定をつけて現地に向かい、直接メッセージを届けてきた豊田章男社長も、今回は3年ぶりの出席。

部品不足で思うように在庫も持てず、納期も長期化する中、お客様に寄り添うディーラーの人たちに、感謝を伝えるのが第一の目的だった。

もう一つ、豊田社長には、やりたいことがあった。

今年6月、北米トヨタのボブ・カーター元副社長が多くの人に惜しまれつつ、勇退した。40年以上にわたって、ディーラーと信頼関係を築き、トヨタのセールスを支えてくれた功労者にとびっきりのサプライズを用意していた。

全米から集まった約4000人を前に行われた、豊田社長の一連のスピーチを紹介する。

「Playing to win」(チームで戦い、勝ち残ろう)

Akio Toyoda!」

北米トヨタのジャック・ホリス副社長が高らかに言うと、会場は総立ちで、万雷の拍手を送った。まだ、本人が姿を現す前。出席者たちは登場を待ちわびていたかのように、豊田社長を迎え入れた。

何度も笑顔で手を挙げ、なかなか鳴りやまない拍手と歓声に応えながら、話し始めた。

It has been too long! I am so HAPPY to finally be back here with you, feeling your energy in person! It’s like a shot in the arm! And I don’t mean the covid vaccine!
本当に久しぶりになってしまいました。この場に戻ってくることができて、本当にうれしいです。ワクチンの注射じゃないですが、なんだか熱気が突き刺さってくるような感覚です!()

By the way, none of you look a day older, you all look fantastic! Me, on the other hand... maybe you guys can back that camera up a bit?
3年ぶりですが、皆さん変わらず若々しい! それに引き換え私は…(スクリーンに映し出された自身の顔を見て)。すみません…カメラさん、もう少し“引いて”もらえませんでしょうか…()

So how are you? Feeling good? I know your pockets are full, which is great, but your lots are empty, which is not.
皆さん、お元気だったでしょうか。(販売好調で)皆さんの懐は温かそう…。ですが(供給不足で)店先に並べるクルマはなくなっちゃっていますね…。これは本当に申し訳ないこと…。

So please let me offer my own apology for the inventory issue. I know it can’t be easy when you have waiting lists as long as your arm, or in this case, your leg.
在庫不足で本当にご迷惑をおかけしております。申し訳ございません。多くのお客様をお待たせしていることは皆さんにとっても難しい状況だと理解しております。

But thank you for your patience and understanding, and for taking care of our customers during these difficult times. We’re truly doing everything we can, and if it means I have to build the cars myself, I will!
こうした困難の中でも、ご理解いただき、辛抱強く待っていただていること。そして、お客様と向き合ってくださっていること、心より感謝申し上げます。私たちにできることは、何でもやるつもりです。私自身が現場でクルマをつくって役に立つなら、そうしたいと思っているほどです!

ユーモアを交え、客席と対話しているかのように進んでいくスピーチ。参加者の反応を受け止め、一つひとつ、間をとって話を続ける。

ここから話題はトヨタの電動化戦略やカーボンニュートラル対応へと移っていく。

So, when they told me the theme of this year’s meeting was “playing to win,” my immediate response was, well… you know at Toyota we like to keep our head down and not talk about our success, but when I heard you became number one in the U.S. last year, I actually did a little “happy dance” in my office. Thankfully nobody saw it!
今年の全米ディーラー大会のテーマは「Playing to win」(チームで戦い、勝ち残ろう)だと聞きました。トヨタは、基本的には謙虚さを大切にし、自分たちの成功を自慢げには語りません。ただ、昨年、米国で販売No.1になったと聞き、私は執務室で「ハッピーダンス」をちょっと踊ってしまいました。幸い、誰にも見られませんでした!

But for me “playing to win” also means doing things differently. Doing things that others may question but that we believe will put us in the winner’s circle the longest.
ただ、私にとっては「Playing to win」とは他と違うことをやるという意味でもあります。他の人は疑問に思うようなことであっても、私たちとして、長期視点で「勝ち」につながると信じることであれば、やるということです。

I introduced an entire line-up of Toyota and Lexus BEVs in Japan last December. And last year, we also opened a multi-billion-dollar battery plant in North Carolina well ahead of the recent U.S. government mandates, as part of our global investment in BEV.
昨年12月、日本においてトヨタとレクサスのBEVフルラインナップをご紹介しました。また、昨年、ノースカロライナ州に10数億ドルの投資をして電池工場を建設することを発表しました。グローバルな電池投資戦略の一環です。先日、発表された米国政府のルールが出るもっと前から動いていた話です。

So, trust me, we’re on it! But just like the fully autonomous cars that we were all supposed to be driving by now, BEVs are just going to take longer to become mainstream than the media would like us to believe.
心配は無用です。私たちはBEVもしっかり進めています! 自動運転もそうでしたよね?今ごろ“完全自動運転車”が街中にあふれていたはず…。BEVが主流になるには、メディアが言うよりも時間がかかるんです。

In the meantime, we have many options for our customers, like performance-oriented hybrids, and plug-ins which, by the way, are really the best bridge to an all-electric future. So, our goal remains the same: pleasing the widest possible range of customers with the widest possible range of powertrains.
だから、お客様が選びやすい“さまざまな選択肢を用意しているということです。例えば、パフォーマンス重視型のハイブリッド、電動化の未来に向けて最適な架け橋になるプラグイン…。私たちが目指していることは変わりません。なるべく幅広いパワートレーンを通じて可能な限り多くのお客様にご満足いただくことです。

Personally, I’m planning to get myself the new Crown that you’ll see tomorrow. It will be the fastest and most powerful Toyota sedan we’ve ever sold in the United States.
私自身は、皆さんに明日見ていただくクラウンを買うつもりです。米国トヨタ史上、最も速くパワフルなセダンになると思っています。

We revealed the car to the press in Japan a couple months ago and since it’s the car I grew up with as a little kid, it’s near and dear to my heart.
数カ月前、クラウンを日本でお披露目しました。クラウンは、私が子どものときからずっと私のそばにあった特別なクルマです。

Actually, one of my very first memories is watching my dad’s driver wash our Crown. And as soon as he was done, I would grab the hose and spray it with water. I was a naughty boy, a troublemaker even then!
一番古い記憶は父のドライバーがクラウンを洗車していたときのことです。洗車が終わった途端、私はホースでクルマに水をかけたのです。とんだいたずらっ子でした。当時から私はトラブルメーカーだったんですね()

Maybe that’s why I like to talk about other ideas like synthetic fuels and hydrogen.
だから、私は合成燃料や水素といったアイデアを大事にするのかもしれません。

脱炭素への戦略とこだわり

話題が水素へと移ったところで、豊田社長は8月の世界ラリー選手権(WRC)第9戦でのエピソードを紹介した。

In fact, I was recently in Belgium for the WRC race and I drove our new hydrogen-powered Yaris for the press and public. This was my first time driving it and I was blown away by its performance. And you know how hard I am to please!
先日、私はWRCベルギー戦に行き、開発中の水素エンジンヤリスで走ってきました。初めて公道で運転したわけですが、その性能の高さに驚かされました。私がなかなか満足しないタチであることは皆さんよくご存じだと思います!

そう言うと、会場では、水素エンジンヤリスによるデモランと、ドライバー・モリゾウの試乗直後のインタビュー映像が流れた。

モリゾウこと、豊田社長自らハンドルを握り、未来の選択肢の一つがすぐそこにまで来ているような期待を持たせる水素エンジン車の走りに、会場は再び沸いた。

By the way, guess who has a double-digit lead right now in WRC? TOYOTA GAZOO Racing!
ところで、WRCのマニュファクチャラーズランキングでどのチームが今トップにいるかご存じですか? TOYOTA GAZOO Racingです!

Bottom line, when it comes to powertrains and carbon neutrality, I believe “playing to win” means playing with all the cards in the deck, not just a select few. So that’s our strategy and we’re sticking to it.
要するに、パワートレーンのあり方やカーボンニュートラルについて言えば、「Playing to win」とは、いくつかに絞るのではなく、すべての手札を使って勝負することだと思っています。それが私たちの戦略であり、その点にはこだわっていきます。

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