「おやじ」たち再集結!~トヨタグループ 現場の絆

2019.11.13

トヨタグループの現場の「おやじ」たち33人が集結。人材育成や「おやじ」の継承-。本音の議論は尽きない。

927日に再び「おやじの会」が開催される―。そう聞きつけた編集部は取材に向かった。

トヨタでは、主に製造などの現場で働く人たちのことを「技能系」と呼んでいる。組立、塗装、プレス、金属加工、保全、デザイン、走行試験、生産技術、実験、保安…。それぞれの現場に必要とされる「技能」があり、培った技能を発揮してトヨタのモノづくりを支えている人たちである。その現場を束ねるリーダーは、長い年月をかけて磨き上げてきた熟練の「技能」と「人間力」を あわせ持つプロ中のプロであり、親しみと尊敬の念を込めて「おやじ」と呼ばれている。

豊田が信頼を置く「おやじ」たち

「おやじの会」と聞いて、思い出した方もきっといるだろう。116日のトヨタイムズに掲載した動画「豊田章男からのメッセージ~“自分”のためにプロになれ!~」 (INSIDE TOYOTA #1)の中で、社長の豊田自らが紹介した会合のことだ。201811月、副社長の河合満の音頭で、トヨタグループの技能系のトップを務める「おやじ」たちが初めて一堂に会した。この「おやじ」たちの決起集会について、年頭挨拶の中で、豊田はこう語っている。

豊田:
「ただの飲み会だと、思った方もいるかもしれません。確かに飲み会です。それでも、経営を預かるトップとして、『こんなにありがたいことはない』と感じました。100年に一度の大変革期。これまで以上にグループの連携が必要です。そんな中、『おやじ』たちが、会社を超えて、お互いの血と血を通わせてくれているのです。会社や組織を超えて困った時には助け合う。『おれたちに任せろ』と言い合える。トヨタという会社全体が、こんな雰囲気だったらいいなと正直思いました。」

豊田がここまで信頼する「おやじ」たちが再び集結する。「今度はどんな会になるのだろうか」と期待に胸をふくらませながら、愛知県蒲郡市にあるトヨタグループの研修所「KIZUNA」に向かった。そこで渡された式次第には「第2回オールトヨタおやじの会」と書かれていた。

発起人であるトヨタ副社長の河合は、本社工場で鍛造を極めた技能系出身の言わば「おやじの中のおやじ」だ。トヨタに加えて、豊田自動織機、愛知製鋼、ジェイテクト、トヨタ車体、アイシン精機、デンソー、トヨタ自動車東日本、豊田合成、トヨタ紡織、日野自動車、ダイハツ工業、トヨタ自動車九州、トヨタ自動車北海道の14社の33人の「おやじ」が集まった。「情報共有ディスカッション」から始まり、懇親会、二次会、翌朝の食事後に解散となっている。昨年は懇親会のみだったが、今回は「情報共有ディスカッション」があるという。何が話されるのか。その様子をのぞいてみた。

変わる 「おやじ」たちへの視線

河合の挨拶から会合はスタートした。

発起人のトヨタ自動車副社長 河合満

次に、各社の「おやじ」たちが「昨年11月の決起集会以降の変化」について報告した。トヨタグループの技能系トップの交流が活発化したことによって、社内の技能系幹部や工場の連携強化を改めて意識する会社が多く、愛知製鋼は技能系基幹職の会「ASKA(あすか)」を、ダイハツ工業は「ダイハツ巧会」をそれぞれ発足した。

トヨタ車体では、技能系社員に求められる資質を見直し、各層の昇格教育やアセスメント(査定)についても、技能系独自のものに変更するなど新たな動きが出てきた。さらに人事担当者から技能系の採用面接で行う質問の内容についても相談されるようになった。トヨタ車体の吉原工場副工場長の宮本伸行は「会社の技能系に対する考え方が変わってきた」と手応えを説明。「現場から求められる人は度胸があって瞬間的に判断できる頭の良さがある人」と力を込める。

保全に光を 若者に機会を

休憩を挟み、議題は「技能系職場における課題や困りごと」に移っていく。トヨタグループの共通の悩みとして浮き彫りになったのが、設備保全担当者の人材育成や確保、「おやじ」の継承などである。

トヨタグループ保全研究会の今年の幹事会社であるトヨタ自動車九州の宮田工場工務部主査の津村等は「保全担当者は急に育たない。製造現場のほうが早く仕事を覚え、一人前と見られる。保全はいろいろ勉強をして資格をとらないといけないし、休日出勤も多く、自由な時間も少なくなるので、定着率が良くない」と指摘。ロボットの導入や自動化などで設備が複雑に進化する中、縁の下で生産ラインを支える「保全マン」の待遇改善やモチベーションの向上にグループを挙げて取り組む必要性を強調した。

「おやじ」たちのディスカッション

「おやじ」の継承について問題提起をしたのはアイシン精機の生産人材育成部長を務める服部ためよだ。「若いころ、上司に『おやじってどんな人ですか』と聞いたことがある。そうしたら、『顔が良い、声が大きい、腕っぷしが強い人間だ』と言われた。要はいろいろなところに人脈があって、みんなから信頼が厚いから『顔が良い』。現地現物を実践しているから、自信があって『声が大きい』。みんなを引っ張っていく力があって『腕っぷしが強い』ということ。これが『おやじ』のイメージだが、現場に行くとそういうイメージに合う人がいなくなっている。書き物に書いて知識として教えたら『おやじ』かというと違う。そういう『おやじ』を育てるのが課題だが、どんなことをすればそういう人材が育つのか」。これに対する河合の答えはこうだ。

河合:
「昔の人は手作業で、全部自分で経験してきた。本当に知っているから声が大きく、上司に対しても物が言える。今トヨタでは『手作業ラインをつくれ』と言っていて、ロボットではなく、手でやらせて一番うまい人がロボットに教えるということをやっている。候補者育成で手応えを感じている。将来、そういう人たちが『おやじ』になってくれればなあと思う。」

トヨタ自動車東日本の理事で、ものづくり研鑽部の部長を兼務する桂畑健は「(長く)働けるようになった分だけ、若手のチャンスが少なくなってきているのも今の情勢。そこを少し直していくことをオールトヨタで考えていかないといけないのではないか」と投げかけた。

これまでの議論を踏まえて、デンソーが技能系の基幹職を束ねた組織「極の会」の活動について報告し、ディスカッションが終了した。「おやじ」たちの議論は、現場に根付いたことばかりなので、地に足がついている。それだけに尽きることがない。語り尽くせない部分は懇親会、二次会へと持ち越すことになった。

「トヨタの社長だけ」が持っているもの

いよいよ懇親会に突入した。懇親会では複数のテーブルに「おやじ」たちが別れて腰掛け、 河合の挨拶の後に今回初参加のメンバーが1人ずつ前に出て感想などを述べていった。酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打ち、席も立ちながら楽しそうに交流が続く。

親睦を深める「おやじ」たち

宴もたけなわとなった19時前ごろ、突如映し出された映像と音声に会場の耳目が集まった。そこには、「おやじの会」の開催を聞きつけた豊田からかかってきたテレビ電話の映像が大きく映し出されていた。

豊田:
「ひと言、私からメッセージを送らせていただきます。世界中に自動車会社が数ある中で、他の自動車会社のトップが持っていなくて、唯一トヨタの社長だけが持っているもの、何だか分かりますか?」

豊田からの問いかけに、すぐさま会場から「おやじ!」という答えが返ってくる。豊田が正解の代わりに「イエーイ」と盛り上げると一斉に拍手が湧き起こる。そして豊田は「『おやじ』です。とにかく私には『おやじ』がついていることによって、こんなに世界で闘えます」と続けた。再び会場から拍手が起き、「まかせえ、まかせえ」といった声も上がった。最後に豊田が「頼みますよ、現場!『おやじ』たちはいつも元気で、笑顔で、そして厳しく」と投げかけると、『おやじ』たちは「オー!」と呼応する。

豊田の掛け声に「おやじ」たちが一斉に応じる

興奮冷めやらぬ中、会場にはケーキが運ばれてきた。ケーキには参加会社すべての社章をあしらったクッキーが並べられている。河合がケーキ用のプレートにチョコレートで「絆」の文字を書き、そのケーキの上に飾りつけると、皆が前に出てきて即席の撮影会が始まった。

トヨタグループ各社の「絆」をデザインしたケーキ

会場で豊田自動織機の執行職の白浜政則に話を聞いた。「トヨタ自動車とはすごく連携していたが、他のグループ会社との連携はそんなにできていなかった。部品ひとつが途切れても車両はつくれないので、全体スルーでやれるようになることがこういう会をつくることの意義。このような場を次の世代につないでいくことも我々の責任だと思う。今は日本だけだが、グローバルではどうするのというのも大きな課題だ」と語った。

同じ匂いの「おやじ」

「おやじの会」に参加するメンバーを河合は「同じ匂いがする」と語る。豊田は年頭挨拶で「おやじ」についてこう語っている。

豊田:
「なぜ、『おやじ』の皆さんはすぐに『心ひとつ』になれるのでしょうか。技能という共通言語を持った正真正銘のプロ同士だからだと思います。技能は誰に対しても平等です。新人のころから、先輩の技能に憧れ、少しでも近づきたいと努力を重ねた分だけ自分の血となり肉となっていく。技能の前では誰もが謙虚になれます。会社や肩書も関係ありません。自分に技能がある人は、相手が技能を身に付けるのにどれだけ苦労したのかも分かる。だから、初対面であっても自然とリスペクトする関係になれるのだと思います。そして、『おやじ』の皆さんは、高技能者である前に、ひとりの人間です。部下や後輩に、日々、厳しく愛情を持って指導する。誰もできない時には、自ら手を動かしてやってみせる。これこそ人間力であり、『おやじが動けば、現場が動く』と言われるゆえんなのだと思います。」

秋の交渉で豊田は労使が「共通の基盤」に立つことの大切さを強調したが、現場を支える『おやじ』たちは「共通の基盤」に立っている。最後に、冒頭の文章を再掲して、今回の記事を締めくくりたい。

トヨタでは、主に製造などの現場で働く人たちのことを「技能系」と呼んでいる。組立、塗装、プレス、金属加工、保全、デザイン、走行試験、生産技術、実験、保安…。それぞれの現場に必要とされる「技能」があり、培った技能を発揮してトヨタのモノづくりを支えている人たちである。その現場を束ねるリーダーは、長い年月をかけて磨き上げてきた熟練の「技能」と「人間力」を あわせ持つプロ中のプロであり、親しみと尊敬の念を込めて「おやじ」と呼ばれている。

トヨタグループの絆を深める「おやじ」たち
「おやじの会」とのテレビ電話

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