トヨタイムズ

僕らが応援する理由。トヨタ自動車応援団 ―アスリートを支える人々―

スポーツ 2021.10.05 UPDATE

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トヨタの応援団はメンバー全員が社員

土曜日の朝、愛知県豊田市に位置するトヨタ自動車の社員向け屋内体育施設。「おはようございます!」と元気よく、スポーツウェアに身を包んだ男女が三々五々集まってくる。本日は応援団の練習日、間もなく開幕する都市対抗野球の東海地区予選に向けて、夕方まで入念にリハーサルが行われるのだ(註:その後、コロナ禍を受けて地区予選の応援は自粛となった)。

応援団団長、副団長から本日のスケジュールの説明があり、めいめいがウォーミングアップを終えたところでいよいよ練習がスタート、録音されていた音楽が室内に鳴り響く。アドバイザー役を務める応援団OBの男性が、「攻撃するイニングに切り替わる場面の演技です」と耳打ちしてくれる。

男性陣はいかにも応援団といった力強い動きを見せ、そこにチアリーダーたちの華やかなダンスが加わる。昔ながらの蛮カラな応援スタイルと、きらびやかなチアリーダーの動き。言葉にすると対極にあるように感じるけれど、間近で見ると違和感がないどころか、見事なハーモニーを奏でている。

音楽のリズムが激しくなる。「トヨタのバッターがヒットを打った、という設定です」とのこと。その後も得点シーン、選手ひとりひとりの応援歌、攻撃するイニングから守備のイニングへの切り替えなど、場面ごとの応援が繰り広げられた。

すぐ近くで見る迫力と、見事に統制がとれたチームワークに感心していると、前出のOBの方が「トヨタの応援団のこだわりは全員が社員だということです」と説明してくれた。応援団が13名、チアが19名の計32名で構成されるトヨタ自動車応援団は、助っ人の力を借りることなく、こうして自主的に練習を積んで運動部の応援を行っているのだそうだ。

忙しい業務の合間を縫って練習に励み、運動部を応援するために遠征までするのはどのような人物なのだろうか。午前の部の練習を終えた応援団団長の白坂幸一と、副団長の奥田浩祐に話を聞くことができた。

トヨタ自動車応援団に入団したきっかけ

トヨタ自動車の応援団が誕生したのは1969年。もともとは野球部の応援をするために組織されたが、その後、サッカーの日本リーグやバスケットボール部の試合にも駆けつけるようになる。現在は主に、強化部と呼ばれる7つの運動部の中で、硬式野球部、女子ソフトボール部、ラグビー部、女子バスケットボール部の4競技の試合を盛り上げている。

応援団に入って10年目の白坂団長と8年目の奥田副団長は、ともにトヨタ自動車の元町工場に勤務する。ただし団長が機械部、副団長が車体生技部の所属で、業務内容はまったく異なるとのことだ。まずは白坂団長に、応援団に入ったきっかけを尋ねた。

2012年の都市対抗野球の本大会が東京ドームであったときに、応援のサポートをしてくれないかという連絡が各工場にあったんですね。それで行ってみたら、その年は応援団コンクールというのがありまして、現役の応援団だけだと踊る人数が足りないというので一緒に踊ったんです。何万人という方が僕のアクションに対して共感してくれたり、声を出してくれて、すごいなと思って、そのまま入団しました

トヨタ自動車応援団 団長の白坂幸一。

奥田副団長は、「僕は、そもそもすごい目立ちたがり屋なんです」と、入団の動機を振り返る。

僕が通っていた高校の校長先生は野球が好きで、即席でいいから応援団を作りたいと言い出したんです。僕は剣道部を引退したばかりで、目立ちたいと思って手を挙げました。トヨタに入社する時にいろいろと資料を見ていたら、応援団があって応援団コンクールで賞も獲っていることを知って、縁があったらやってみようと思っていました

トヨタ自動車応援団 副団長の奥田浩祐。

応援団を続ける理由とそのモチベーションとは?

現在の練習スケジュールは、平日の午後6時半から9時までの練習が週2回。取材時のように大会が迫っているとそこに平日にもう1日、週末にも練習があてられる。

各競技のシーズンが始まると、週末は試合の応援となる。春先まで女子バスケットボールの試合があり、5月から都市対抗野球、女子ソフトボールが開幕する、それが終わり女子ソフトボール後節が始まる前の8月が1年で唯一、公式戦のない期間だ。

ここから都市対抗野球の本大会に向けた練習が始まり、秋には男女のバスケットボールとラグビーのシーズンが開幕、そしてまた春がやって来る。シーズンが重なっている競技もあり、たとえば硬式野球部と女子ソフトボール部の公式戦が同じ日に行われる場合は、応援団を2チームにわけてそれぞれの応援に駆けつけることもあるという。

応援団員は、業務をこなしながら練習に応援と、かなりのハードスケジュールをこなすことになる。休みの日に遊びに行きたいと思うことはありませんか、と尋ねると、奥田副団長は「僕の場合はないですね」と、きっぱり。

練習は応援団のみんなと楽しんでいるし、試合では応援に来てくださったみなさんから『応援団ががんばっているから私たちも応援します』と声をかけていただきます。暑い中で動き回ってきついことはきついですけれど、その感動があるので、遊びに行けなくてつまらないとか、練習が苦しいとは思いませんね

白坂団長は、試合会場で接するファンの方々との交流のほかに、アスリートに接することも応援のモチベーションになると語った。

試合後はなかなか話しかける時間がありませんが、各部の納会には僕らも呼ばれて、たくさんの選手からありがとうと言ってもらえます。感謝してもらうことが目的ではありませんが、やっぱりうれしいものですね。女子ソフトボールのアメリカ代表で、東京オリンピックで銀メダルを取った(モニカ・)アボット選手は普通だったら近寄りがたいと感じるかもしれませんが、僕らには気さくに話しかけてくれます

男子はほぼ全員が未経験者

いま、白坂団長と奥田副団長が頭を悩ませているのが、人材難だ。チアは安定した入団希望者がいる一方で、応援団はなかなか、なり手が見つからない。

若手を応援団に勧誘するために、奥田副団長は新しい取り組みをしてもいい時期ではないか、と考えているという。

応援団という言葉を聞くと、学ラン着て男臭い、というイメージがあると思うんです。だから、若い人たちが一緒に楽しめる要素を取り入れることも考えています。たとえばTikTokで流行っている振り付けをやってみてもいいと思うし、演技の中にアニメとかBTSみたいなものを盛り込んで雰囲気を変えるのはアリなのかな、と

ただし、白坂団長は新しい取り組みは大歓迎である一方で、トヨタらしさは守っていきたいと語る。

競技をしているのはトヨタの仲間ですから、家族ががんばっている試合を、やはり家族である応援団が応援しているのだと思っています。応援団と観客やファンの方とみんなで応援するのがいい応援なのかな、と思うので、その伝統は守っていきたいですね

トヨタらしい応援について、奥田副団長はこう付け加える。

チアはチアリーディングのほかにバトンやダンスの経験者もいますが、応援団はほぼ全員が未経験者。でも素人の社員が必死に練習して、社員だけでみなさんの前に立つのがトヨタらしい応援だと思います

大事にしているのはEnjoy Together

女子バスケットボール部の皇后杯(オールジャパン)での初優勝、硬式野球部の都市対抗野球初優勝、土砂降りのアウェイ戦で見たラグビー部の大逆転勝利……。ふたりにとって、思い出の試合は枚挙に暇がない。けれども、勝った負けたよりも、もっと大事なことがあるとふたりは口をそろえる。

白坂団長が大事にしているのは、「Enjoy Together」ということだ。

応援に来てくださったみなさんに楽しいと感じていただくには、僕らも応援を楽しんでいなければなりません。一緒に楽しめる応援にしたいし、最近は応援に行くというより、現地で応援するみなさんから力をもらう感覚になっているんですよね

白坂団長のこの発言に、奥田副団長もうなずく。

確かにファンのみなさんからの後押しは感じます。あと、僕の職場は土日の出勤も多いんですが、みんなが『仕事は任せておけ、応援がんばれ』と快く送り出してくれます。最近思うんですが、トヨタ自動車の応援団ってみなさんから一番応援されている存在で、その応援をアウトプットしているような気がしています

興味深いことに、応援団を牽引するふたりは、自分たちが応援を引っ張っているとは考えていない。ファンや社員から後押しを受け、そのパワーをアスリートに向けて放つ代弁者的な存在が応援団なのだ。

(文・サトータケシ、写真・長江星河)

トヨタイムズでは、高い目標を掲げ、日々努力を重ねるトヨタアスリートと、モータースポーツの仲間たちの挑戦をレポートすべく、2021106日(水)からトヨタイムズ放送部を再開する。

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