トヨタイムズ

元アスリート社員の奔走 ―アスリートを支える人々―

スポーツ 2021.10.01 UPDATE

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スポーツ強化・地域貢献部とは?

トヨタ自動車には、7つの強化部と26の一般部、あわせて33の運動部がある。そんな選手たちの華々しい活躍を裏方として支えるのが、スポーツ強化・地域貢献部という部署だ。今回は、同部の渡辺哲也と尾田賢典のふたりから、トヨタ自動車がどのような形でアスリートを支援しているのかを聞いた。

トヨタがクラブ活動をおこなう目的。

渡辺は日本代表にも選ばれた元ラグビー選手、尾田も男子マラソンの日本代表として世界陸上に出場した経験をもっている。トップアスリートとして活躍したふたりは、自身の経験を活かしながら現役選手をサポートしているのだ。ふたりの話は、アスリートのセカンドキャリアを考えるという視点からも興味深いものだった。

まず現在の業務内容を、同部のスポーツイベントグループ長を務める渡辺から説明してもらう。

トヨタ自動車には、ラグビー部、硬式野球部、陸上長距離部、女子バスケットボール部と女子ソフトボール部、スケート部、ビーチバレーボール部の、計7つの強化部があります。私が担当するのは強化部のファン層の拡大と応援していただく際の満足度向上、具体的には応援ツアーの企画や試合会場を盛り上げる施策、そして26の一般部などの活動サポートを担当しています

スポーツ強化・地域貢献部 スポーツイベントグループ長の渡辺哲也。

2021年2月にこの部署に異動したばかりだという尾田は、地域貢献グループ主任という肩書をもつ。

私のグループは、東京2020オリンピックのアーチェリー男子団体で銅メダルを獲得した武藤弘樹やパラリンピック競技の選手など、個人で活動するアスリートの活動支援を担当しています。そのほかにも、オリンピック・パラリンピックの盛上げや地域貢献活動なども担当しています。

スポーツ強化・地域貢献部 地域貢献グループ主任の尾田賢典。

かつてのトップアスリートはなぜトヨタに入社したのか?

現役時代にトップアスリートとして華々しい活躍を見せたふたりは、どんな思いでトヨタ自動車に入社し、現在に至るのか。まずは入社の経緯を尋ねてみた。大学生の頃からラグビー日本代表に選ばれていた渡辺は、いくつかの企業から誘いがあったという。

会社訪問をしながら、両親や高校時代の恩師に相談をしました。その時に、ラグビー選手としての現役生活はだいたい30歳ぐらいまでで、その後はしっかり仕事ができる企業を選びたいという結論に達したんです。会社見学をした時、トヨタはいろいろな部署で活躍しているラグビー部のOBを紹介してくれました。また、日本代表の合宿でトヨタの選手に話を聞くと、引退後も安心して仕事に取り組めるということがわかったので、トヨタへの入社を決めました

2002年アジア大会で日本代表としてプレーする渡辺哲也。2006年に現役を引退。

全国高校駅伝から大学時代の箱根駅伝まで、長距離の花形選手だった尾田にも、さまざまな実業団チームからの勧誘があったという。

僕も渡辺さんと同じで、競技人生よりも引退してからの人生のほうが長いので、しっかり仕事に打ち込める環境があると判断して、トヨタへの入社を決めました

2011年の世界陸上にて日本代表として走る尾田賢典。2014年に現役を引退。

職場の先輩や仲間たちのおかげで今がある

現役時代、渡辺は元町工場の工務部原価グループで、尾田は田原工場の組立部技術員室(引退後は工務部原価グループ)で働き、午後3時、4時から練習に打ち込む日々を送った。ただし、ふたりとも競技と業務の両立は難しかったと語る。まず渡辺は、現役時代をこう振り返る。

とにかく仕事が難しくて、製造部の原価会議で一所懸命に書いた原稿を棒読みしたら、乱雑でわかりにくいという旨の厳しい指導をされたり(苦笑)。でも職場の先輩が丁寧にフォローしてくださったし、あそこで逃げ出さずに頑張ったことがすごく役に立っています。職場では厳しい方が試合の時にはスタンドから大声で応援してくれていたのもいい思い出です

尾田も、日本を代表する長距離の選手であることと、納得できる仕事をすることの両立に悩んだ時期があるという。

現役時代は午前9時から午後2時までが勤務時間でしたが、すぐに合宿や試合でいなくなってしまう。だからなかなかまとまった仕事を任せてもらうことができず、引退後は苦労しました。でも正直に、わからないから教えてくださいとお願いすると、お前が言うなら仕方がないな、と現役時代に応援してくださった現場の方やグループのみなさんが親切に対応してくださいました。現役時代からもっと現場の勉強をしておけばよかったという思いもありますが、周囲の方が助けてくださる職場の雰囲気のおかげで今があると思っています

現役時代には気づかなかったアスリートへの手厚いサポート

2002年に入社した渡辺は大怪我もあって4年で引退、2012年まで元町工場で勤務した後に、2013年からスポーツ強化・地域貢献部の業務に就く。2003年入社の尾田は、2014年まで現役生活を続け、その後も田原工場に勤務、2021年にスポーツ強化・地域貢献部へ異動となった。

アスリートを裏方として支える立場になってみると、現役時代には気づかなかったことが見えてきたと、ふたりは口を揃えた。渡辺は言う。

現役時代もスタンドで試合を応援してくださることは感じていたし、さまざまなサポートに感謝もしていました。でも自分がサポートする立場になると、一回合宿に行くのにこんなにお金がかかるのかとか、応援バスを手配するのにこれほど手間がかかるのかというように、支援の規模の大きさに驚きました。あと、試合結果を報告した際、多くの人に励ましていただいたり、現役時代に感じていたよりも、たくさんの方に活動を気にしていただいていることを実感しています

元アスリートだからできること、やれること

現在、個人のアスリートをサポートする尾田は、現役時代の経験が大いに役立っていると語った。

大事な試合の前に声を掛けたほうがいいのかそっとしておいたほうがいいのかとか、自分の経験が生きていると思います。特に私の場合は怪我も多かったので、故障している選手の気持ちも理解できると感じています

この発言に渡辺は大きくうなずき、次のように言葉を続けた。

表現としてふさわしいかどうかわかりませんけれど、私も尾田も、現役時代は命を賭けて戦っていました。だから現役のアスリートもそれぐらいの覚悟で競技に打ち込んでいることがわかりますし、彼らを完璧にサポートしたい、理想的な環境で競技をさせてあげたいと思います。それがいまの仕事のモチベーションになっていますね

スポーツを通じた地域貢献のあり方

このようにアスリートをサポートするふたりは、さらに先を見ている。それはトヨタ自動車の運動部だけでなく、地域に貢献するという役割だ。たとえば2019年のラグビーワールドカップ日本大会にあたって、渡辺はレガシィ(遺産)を残したいと考えたという。

当時は、いま尾田が担当している地域貢献グループに所属していました。豊田スタジアムでもワールドカップの試合が開催されることが決まっていましたが、豊田市内にはラグビースクールはあるけれど、公立中学校にラグビー部がないんですね。小学校まではラグビーが盛んなのに中学生になるとラグビー人口が減ってしまうという問題がありました。そこで平日にラグビーに打ち込める環境をつくるために、入念に下準備をして、トヨタ自動車と豊田市役所と中京大学の産官学共同で、豊田スポーツアカデミーを立ち上げました

豊田スポーツアカデミーを立ち上げた当時の新聞記事切り抜き。

渡辺の取り組みは、地域貢献グループの後進にも引き継がれ、豊田スポーツアカデミーには今年から野球も加わり、今後他の競技にも拡大を考えている。また同じように、尾田も元陸上競技の選手としてのキャリアを、地域貢献に活かしたいと考えている。

何十年と陸上競技に取り組んできて、いろいろな経験を積ませていただきました。その競技経験を通じた技術や走る楽しさを市民ランナーや子どもたちに伝えたいという思いがあって、トヨタ自動車の陸上部のOBや社内駅伝で走っている仲間を集めて、手作りの陸上大会を開催しています。アットホームな雰囲気の中、OBや現役選手がペースメーカーになって、声を掛けながら記録更新のお手伝いをしていますが、こうした活動をさらに活発にしたいですね

スポーツが生み出す社内や地域の好循環

トヨタ自動車の運動部の選手として活躍し、そこで得た経験やノウハウを生かしてアスリートが思い通りに活動する環境を整える。さらには自社の運動部だけでなく、地域の活性化に貢献する。ふたりの話を聞きながら、こうした好循環が生まれていると実感した。

自分たちの仕事について、最後に渡辺は次のようにまとめた。

運動部が活躍することで社内に明るい話題を提供したり仲間意識を強めることも大事ですが、もう一歩踏み込んで、どのように社会に貢献できるかを考え続けることが重要だと思っています。まずは、競技の普及という切り口から、スポーツを盛り上げていきたいです

渡辺の言葉から、なぜトヨタ自動車というメーカーが運動部を持ち、それを支援するのかがわかるような気がした。アスリートをサポートすることは、最終的には、人々が明るく健康に暮らせる社会を作ることに寄与するのだ。

(文・サトータケシ、写真・小保方智行)

トヨタイムズでは、高い目標を掲げ、日々努力を重ねるトヨタアスリートと、モータースポーツの仲間たちの挑戦をレポートすべく、6日からトヨタイムズ放送部を再開する。

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