連載
2020.11.28

「かけがえのない一日」 ~35年の絆篇~

2020.11.28

今回の35年の絆篇では、ある販売店スタッフと、彼の人生に大きな影響を与えたお客様とのストーリーを紹介する。

3,000台もの販売実績をもつスタッフが、大切にしていること

「かけがえのない一日」シリーズでは、「ありがとうございます。今日もまた、かけがえのない一日でありますように。」という豊田章男の直筆での宣言篇以降、販売店スタッフとお客様との間で起こった実話を紹介している。

今回のお客様から頂いた宝物篇では、ある販売店スタッフと、彼の人生に大きな影響を与えたお客様とのストーリーを紹介する。

一人のお客様が、私の人生を変えた

鳥取県倉吉市。海や山に囲まれた自然豊かなこの町で、3,000台以上のクルマを販売したセールススタッフがいる。ネッツトヨタ鳥取 倉吉店の山下さんだ。彼には、人生に大きな影響を与えてくれた一人のお客様がいるという。

出会いは今から35年ほど昔。山下さんはまだ20代、その頃は1台でも多く売ることだけを考えていたが、いくつもの言葉を頂くうちに考え方が変わっていく。

お店で会うたびに雑談が始まり、「衣食住があるのは、あたり前ではなく多くの人の助けがあるから」「人は支え合って暮らしている。目配り気配り、相手の立場で考えるべき」など。

はじめは持論の多い人だなとなんとなく聞いていた。しかし他の多くのお客様と接する中で、その考えの重要さを徐々に実感。

「今では、仕事と向き合う根底にそれらの言葉がある」と山下さんは話す。ふだんの会話が、いつしか自身の生き方の確かな軸となっていたのだ。

買い替えない方がいい、というご提案

2016年、鳥取を震度6弱の地震が襲った。当時事務所にいた山下さんは、咄嗟にいろんな人の顔が浮かんだという。家族の安全を確認した後、すぐに多くの方に電話をかけた。その中に、例のお客様も。電話越しに何度も「心配してくれてありがとう」と話されたという。

街じゅうがまだ混乱する最中にも、相手を想う行動があり、そこに感謝が生まれる。販売店スタッフとお客様の関係を超えた絆が、また重ねられていった。

そのお客様は旅行が大好きで、トヨタのレジアスエースで奥様と何度も日本中に旅に出られていた。長期休暇を取り北海道まで出掛けたり、時には夫婦二人で車内泊を楽しまれていたそうだ。山下さんは各地のお土産を頂くなど、本当に目をかけてもらったという。

だがある時、共通の知り合いから奥様が入院されたと聞いた。いてもたってもいられず病院にお見舞いに。お客様は驚いた様子だったが、何度も「ありがとう。ありがとう。」と喜んでくださったという。

その奥様も1年ほど前に亡くなられ、大きなクルマも必要なくなり、コンパクトカーへの乗り換え相談にいらっしゃった。会話にはいつもの力がなく、どこか寂しそうな気配。

そのことを察した山下さんは、「奥様との思い出がたくさん詰まったおクルマなので、もう少し乗り続けてみませんか」と提案。すると「そうだよな」と、嬉しそうな表情を浮かべられたという。後から思えば、手放すことを思いとどまる、手助けを求めていたのかなと山下さんは話す。

目先の販売台数より、相手の立場に立った目配りや気配りを大切にする。まさに教えていただいたことをお返しできたのだ。

この取材を行った際、山下さんは当時のお客様の心情を思い出し、目頭を押さえた。自分以外の誰かの幸せを、心から願っているのだ。

山下さん(写真左)

お叱りを受けた際、必ず実践していること

山下さんは学校を卒業して整備スタッフとして入社、5年目で営業へ異動したという。「整備はモノを相手にするが、セールスは人が相手」。だからこそ絆を大切にする。

お客様から苦情が入った際は、ふつうは相手のもとに出向こうと思いづらいが、逆にお話を伺いに足を運ぶ。そうした行動が深い信頼関係と、特別な絆を生むという。

「話をしにくい状況を乗り越えると、かえって長いお付き合いに。いろんなお客様に成長させていただけた」と山下さんは笑顔で話す。

相手は人、だからこそ自動車販売というひとつの型ではなく、一人一人それぞれに心を込めて向き合う。今ではお客様から新たなお客様を紹介していただくことが多いそうだ。

3,000という販売台数。それは相手を想い、積み重ねた絆の数なのだと感じた。

山下さんは、人生に大きな影響を与えてくれたお客様に対してこう語る。「私から宝物をもらったと言ってくださったが、こちらがたくさんの宝物を頂いたと思っている」。

相手の気持ちを想い、目の前のお客様のために自分にできることを考え実践する。今日もトヨタのお店には、お客様の「かけがえのない一日」を願い、町の幸せのために働くスタッフがいる。

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