第1回 「初代クラウン・レストア・プロジェクト」キックオフ!

2022.09.21

100年に一度の大変革期を迎えた自動車業界。トヨタ自動車ではあらゆる部門で前例のない画期的な取り組みがスタートしている。

そのひとつが2022年の春、社内のさまざまな部署から多彩な人材を集めて元町工場でスタートした「初代クラウン・レストア・プロジェクト」である。

トヨタイムズでは、その意義とレストアの現場をリポートしていく。第1回は同プロジェクトのキックオフイベントの模様をお届けする。

新型クラウンが歴代モデルとともにワールドプレミア

去る7月15日、「本日は、『歴代主査とクラウンの物語』から始めさせていただきます」という豊田章男社長の言葉とともに、16代目となる新型クラウンのワールドプレミアイベントが幕を開けた。

クラウンは1955年に誕生した初代から「革新と挑戦」を開発テーマに、これまで66年間、15代にわたって進化・発展を続けてきた。豊田社長はその歴史を改めて振り返るべく、発表会冒頭で歴代モデルと主査のエピソードを披露。会場には初代から15代目までの実車がズラリと並べられた。
ワールドプレミア会場入り口に展示された歴代クラウン 撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

そもそもクラウンは、創業者である豊田喜一郎が名付け親であり、「日本人の頭と腕で国産初の乗用車をつくり、人々の暮らしを豊かにする」という喜一郎の志を受け継いで生まれた。

初代クラウンの中村健也主査は「いいと思うことは、たとえ周囲に反対されてもやる」という強い信念の下、既成概念にとらわれることなく、独自の技術を結集し、世界のどこにもない日本独自の高級車を世に送り出した。

実はトヨタ社内では、そんな初代クラウンにまつわる、「革新と挑戦」に満ちたある画期的なプロジェクトがスタートしていた。

伝説の初代「クラウン」をレストア

2022年42513時、愛知県豊田市のトヨタ自動車元町工場、グローバル生産推進センター(GPC)でこのプロジェクトのキックオフイベントが開催され、会場は静かな熱気にあふれていた。

イベントステージの左右には、このプロジェクトに先駆けて完璧に美しくレストアされた、1960年代のコンパクトカー「パブリカ」と、これからレストアされる初代「クラウン」が置かれていた。

プロジェクトに先駆けて完璧にレストアされたパブリカ

イベントに出席したのはオンライン参加も含め、ベテランの技能者を中心に、職場を超えて集まった総勢56名のプロジェクトメンバー。そしてエグゼクティブフェローの河合満、生産本部 本部長の伊村隆博、上郷・下山工場 工場長の斉藤富久、クルマ開発センターの統括部長などを務める菅原政好、トヨタ技能者養成所 所長の深津敏昭。

今回のクラウン・レストア・プロジェクトのためにオーナーから譲渡された初代クラウン

このプロジェクトのミッションは、初代クラウンをこよなく愛し、乗り続け、大切に保存してきたオーナーから譲り受けた愛車を、生産部門や試作部門の高技能者であるメンバーの手でレストア(復元)すること。

60年以上前の車両を社内で完全に復元した例はほとんどなく、お客様に大切に乗っていただいた長い年月の中でクルマはどのように変化しているのか、どうしたら直せるのか、トヨタの技能者にとっては多くのことが初めてで未知の世界だという。

「100年に一度の大変革期、レストアを通じて原点に立ち返る」

ところで、なぜいまトヨタはクラウン・レストア・プロジェクトに取り掛かるのか? それにはもちろん、大きな目標と、目標を立てた理由がある。

まずいちばんの大きな目標。それは「愛車に乗り続けたい」というオーナーの思いや困りごとを知り、お客様に喜んでいただくために自分たちの技能で何ができるのか理解すること。

そしてこの目標を立てた理由。それは「生産と消費」に関する世界的な価値観の大変化に対応できる基盤をつくるためだ。

元町工場グローバル生産推進センターの一画でキックオフイベントは開催された

20世紀に確立された大量生産・大量消費社会こそ、地球の未来にとって最大の脅威、環境破壊の元凶ではないか。多くの人がそう考え始めている。そして「お気に入りの、良いモノを長く使う」という、サステナブルなライフスタイルが主流になりつつある。

クルマに関しても「思い出や思い入れがあるお気に入りの愛車を、できるだけ長く乗り続けたい」という人が、かつてないほど増えている。「愛車に乗り続けられる、これまでにないサステナブルなクルマ社会」のニーズはより一層高まっていくだろう。

「愛車に乗り続けたい」というオーナーの想いに応え、喜んでいただくために自分たちに必要な知識・技能・技術は何なのか、これからのクルマ社会のニーズに応えるためにはまず自分たちの原点に立ち返るべきだと感じたのだという。

さらに今後、高齢化、少子化が進むことで、日本の人口はさらに減少することが予想される。このため、新車の販売数の減少は避けられない状況だ。そしてこの状況の中で、クルマづくりの現場を担う社内のスタッフから提案されたのが「初代クラウン・レストア・プロジェクト」であった。

「この提案を聞いたとき、ものすごくいいな、面白いなと思った。日本でも世界でもこれからは、新車がどんどん売れてクルマが増えていくという時代ではない。これからはお客様にクルマをお売りしたら最後まで面倒を見させていただく。同じクルマに乗り続けたいというお客様の希望に応えられる技能を伝承していかなければダメだろう」

出席者の一人で、このプロジェクトの理解者であり助言者でもある河合満エグゼクティブフェローは、こう述べてこの提案に賛同したという。
初代クラウンの状態を確かめるように見入る河合満エグゼクティブフェロー

自動車業界はいま「CASE」という造語に象徴される「100年に一度の大変革期」にある。この言葉は、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字を合わせたもの。世界の自動車メーカーは、このCASEをキーワードに、事業のサステナビリティ向上に取り組み、SDGs(持続可能な開発目標)を実現しようとしている。

トヨタも、自動車を生産することに留まらず、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供し、人や社会の多様なニーズに応える、未来のモビリティ社会の実現に貢献する「モビリティカンパニー」への変革に取り組んでいる。この変革に不可欠なのが、全社的なサステナビリティの向上。そしてその第一歩となるこのレストア・プロジェクトも、その革新に向けた取り組みの一環なのだ。

クルマづくりの新たな職場をつくり、トヨタのDNAと技能を未来へ

さらにこのレストア・プロジェクトには、実はもうひとつ大きな目的がある。それは、新たな職場づくりによる、社内の有能な人材の活用と育成だ。

多くのベテラン技能者が活躍するクルマの製造ライン。だが、年齢が高くなるにつれ、同じ現場で働き続けるのは難しくなる。しかも、クルマづくりにおける自働化・デジタル化が進む中で、従来のエンジンやボディを開発・製造する技術や技能が必要とされる機会は、残念ながら減りつつある。このままでは優れた技術や技能を持ちクルマづくりの第一線で活躍してきた技能者たちが活躍できる場所は限られてしまう。

イベントの冒頭挨拶で、トヨタ技能者養成所の深津敏昭所長はこうスピーチした。

深津所長

60歳を超えて働く時代、レストアの取り組みは皆さんの卓越した技能を存分に活かし、新しい技能を発見できる場づくりにつながる。しかもその技能をさらに高め、後進にその技能を継承する貴重な場になるでしょう。また今までは関わりがあまりなかった職場と連携、協力することで生まれるチームワークは今後のトヨタのモノづくりを支える力になるでしょう。

またレストアは時代を超えた「つくり手の対話」でもある。レストアに取り組むことで、メンバーは当時のクルマをつくった人々が持っていた、今では失われつつあるトヨタのクルマづくりの技術や技能、クルマをつくった人々の考え方や想いを知ることができる。それはつまり「トヨタのDNA」を、世代を超えて未来に継承・発展させることでもある。

深津所長

レストアでは、今では失われてしまった当時の技術や技能を復活させることや、これまで社内になかった技術やノウハウの取得も必要になってきます。新たな技術を身に付けたい若い技能者はもちろん、最高クラスの技能を持つ技能者にとっても、レベルアップにつながる大きな挑戦になるでしょう。また、現在の職場を超えた、過去のクルマのレストアは、実は皆さんの未来をつくる取り組みでもあります。

レストアは「つくられたときのオリジナルの状態にする」ことが基本。だが、彼らの卓越した技能を活かして、新しい技術をプラスすれば、たとえば、外観はそのままにエンジンをモーターとバッテリーに置き換えるEV化にもチャレンジできるかもしれない。

今回の初代クラウン・レストア・プロジェクトは、「トヨタと技能者が、クルマづくりの原点に立ち返り、学んだ技能を未来につなげる」取り組みなのである。

未来につなげる「決意」とともに

キックオフイベントは、この深津敏昭所長のスピーチに続き、プロジェクトの体制や日程、このレストア・プロジェクトの先行テストとなった「パブリカ・レストア・プロジェクト」を紹介。

さらに、レストアのリーダーを務める3人の決意表明が行われた。

決意表明を行う3人のリーダー。左から岡本英昭SX、首藤修治SX、西田力SX

岡本SX

このプロジェクトで旧車オーナーの方の生の声を初めてお聞きして、乗り続けてきたクルマに対する熱い想いに感動しました。“I”ではなく“You”、つまりトヨタ車を大事に乗ってこられたお客様の立場に立って、レストアに取り組みます。

首藤SX

レストアは未経験の領域なので不安でした。でもトヨタ博物館で展示されていた実車を目にして「自分たちの持つ技能を活用して、これを超えたい」と思いました。クルマをつくったトヨタ、純正ならではの付加価値を付けて新車以上の仕上がりを目指します。

西田SX

新車の組み付けのプロとしてやってきましたが、旧車についてはまったくの素人。旧車の分解はチャレンジの連続です。仲間と一緒に切磋琢磨して、再生された部品を組み立てて、新車を超えるクラウンをつくり上げます。

キックオフイベントの最後にスピーチしたのは河合満エグゼクティブフェロー。

初代クラウンは、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎の「日本人の頭と腕で世界一のクルマをつくる」という信念から生まれた、その想いが込められたトヨタの原点となったクルマ。このクルマをレストアすることは、喜一郎のクルマづくりの心や想いを再生することでもあります。

皆さんには、このレストアを通じて分かった先人たちのモノづくり、クルマづくりの心、DNAを、後継者である後輩たちにもしっかり伝えてほしい。クルマほどつくり手の愛の詰まった工業製品はないと私は考えています。

クルマづくりからレストアまで、すべてが行える最強の技能集団になって、その愛の詰まったクルマを最後までお客様に愛していただけるようにしてほしい。期待しています。

「トヨタ車の原点」といわれる初代クラウン。それは河合が語るように「既成概念にとらわれることなく、独自の技術を結集し、理想のクルマをつくる」という、豊田喜一郎の志から生まれた最初のクルマだ。

そして喜一郎のこの志、“革新と挑戦”のDNAは、これまでの“セダンの常識”にとらわれない、まったく新しい4つのバリエーションからなる新型クラウンにも、脈々と受け継がれている。
16代目となる新型クラウン。セダンとSUVを融合させた「クロスオーバー」をはじめ、4つのバリエーションを持つ新時代のフラッグシップとして生まれ変わった

ところで、このプロジェクトはそもそも、どんなきっかけで始まったのか。次回はそのきっかけとなったパブリカ・レストア・プロジェクトを紹介する。

(文・渋谷 康人、写真・前田晃)

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