「トヨタの"思想"に立ち戻る」 豊田社長が株主に伝えたこと

2022.06.20

株主総会で13回目となる議長を務めた豊田章男社長。自らが感じたトヨタの確かな変化を株主に語った。

6月15日、トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)で株主総会が行われた。今年は、来場自粛を呼びかけた昨年の2.4倍となる934人の株主が会場に足を運び、取締役9人の選任をはじめとする5つの議案を決議した。

株主からは、半導体不足やカーボンニュートラルなどトヨタを取り巻く環境への対応から、豊田章男社長の後継者まで、多岐にわたる質問が挙がった

トヨタイムズでは、3回に分けて株主総会をレポート。初回は総会の最終盤、議案採決前に豊田社長が届けたメッセージを取り上げる。

13年間やってきたこと

「議案の採決に入る前に、私の想いをお話しします」。1時間半にわたる質疑を終え、議長の豊田社長が切り出すと、出席者の注目が集まった。

この4カ月、ウクライナでは、悲しく、痛ましい事態が続いております。戦争により、多くの人の尊い命や幸せが失われている現実に直面し、私自身、本当にやりきれない気持ちでおります。

世界の分断が深まる今、改めて想いを強くしていることがあります。

それは、私たちには、笑顔にしたいお客様や仲間が世界中にいること。そして、トヨタは、すべてのステークホルダーとともに、「みんなが幸せになる世界」を目指したいということです。

この13年間、私がやってきたことは、「幸せの量産」という、トヨタの「原点」、「思想」に立ち戻ることでした。

「もっといいクルマをつくろう」「世界一ではなく、町いちばんを目指そう」「自分以外の誰かのために仕事をしよう」

そう言い続け、自らハンドルを握り、現場で、行動で、トヨタの「思想」と「技」 を示し続けてまいりました。

「この町いちばん」で考えれば、怒っている人の顔も、喜んでいる人の顔も見えます。

「もっといいクルマをつくろう」とすれば、自分の機能だけではできないことがわかります。

そして、開発からアフターセールスにいたるまで、クルマには20年を超えるライフがあり、そこにお客様の人生があることに気がつきます。

そのクルマづくりをモータースポーツの現場でやれば、レースという厳しい条件の中で、クルマも人も鍛えられます。

私が大切にしてきたものは、こうしたクルマづくりの物語、ストーリーづくりだったと思います。

そして、このストーリーの主人公は、お客様をはじめとするステークホルダーの皆様であり、トヨタの「現場」で働く一人ひとりだと思っております。

変化は、「商品」という形になって、あらわれました。今のトヨタには、あらゆるジャンルで、世界中のお客様から選んでいただける商品があります。それは、トヨタで働く人たちが変わったからだと思います。

先日、元町工場を訪問いたしました。元町は、新規のプロジェクトを成功させるため、社内外から応援にきてくれた多くの仲間に支えられている「現場」です。

多様なメンバーが、お互いを思いやりながら、知恵を出し合い、「もっといいクルマ」を、1日でも早くお客様にお届けするために地道な改善をコツコツと積み重ねておりました。

そこには、「幸せの量産」という「思想」を、「TPS」という伝統の「技」で、なんとか実現しようと奮闘している仲間たちの姿がありました。

社長が感じたトヨタの変化

こうした頑張りに感謝するとともに、トヨタの確かな変化を感じております。

いま、トヨタは「モビリティ・カンパニー」へのフルモデルチェンジに挑戦しております。

今後、私たちのつくるものや提供するサービスも変わっていくと思いますが、私は、「クルマ屋」にしかつくれないモビリティの未来があると信じております

トヨタの「思想」と「技」をしっかりと伝承し、「あなたは、何屋さんですか?」と聞かれたとき、「夢」と「自信」と「誇り」をもって、「私はクルマ屋です」と答えられる人財を育てることが、私のミッションだと思っております。

「クルマ屋」という言葉を使い、自らの使命を語る声が震えていた。

社長に就任した2009年、トヨタはリーマン・ショックの影響で販売台数が15%減少。赤字に転落していた。

しかし、当時を上回るともいわれるコロナ危機の2020年は、10年来続けてきた損益分岐台数(何台以上売れたら利益が出るか分かれ目となる販売台数)の改善が実を結び、自動車産業で働く550万人の仲間に「トヨタは赤字にはならない」というメッセージと、「基準」となる見通しを示すことができた。

この変化を生み出したのは「商品」であり、みんなでつくりあげた「もっといいクルマ」。それは「今のトヨタには世界中のお客様に選んでいただける商品がある」という豊田社長の言葉にも表われている。

今まで、口にしたくてもできなかった「クルマ屋」という言葉。

「ようやく『クルマ屋』という言葉を使える会社になれた」

「モビリティ・カンパニーへの変革に挑む今だからこそ『クルマ屋』であることを誇りにしてほしい」

そんな想いを、未来をつくる次の世代に届けたのではないだろうか。

豊田社長は一呼吸おき、言葉が詰まりそうになるのをこらえながら続けた。

時間はかかりましたが、何とかここまで来ることができたのは、良いときも、苦しいときも、私たちをお支えくださる方々がいたからこそです。

株主の皆様のご理解、後押しがなければ、私たちは、変われなかったと思います。この場をお借りして心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

今後とも、皆様のあたたかいご支援をお願い申し上げます。

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