"トヨタひとり勝ち"と言われた豊田社長 11回目の株主総会⑤

2020.06.18

「ひとりも勝たなかったら、この国はどうなるのでしょうか」。販売店や仕入先の不満を懸念した声に社長の豊田が答えた。

約1時間に亘った質疑の最後の質問は、「トヨタ自動車だけが儲かって、仕入先や販売店は儲かっていない。各社は不満を持っているのではないか?どう考えているのか?」というものであった。

<株主>

私がお伺いしたいのは、最近のコロナの影響の中でもトヨタはしっかりと今期5000億円の利益の見通しを出しておられます。

株主としては非常に嬉しいことでありますが、反面、仕入先さんや販売店の皆さんが、そこまで利益を伸ばしていない実態がございます。

こうした“トヨタひとり勝ち”に対して、各社が不満を持っているんじゃないかと…

その辺について、トヨタとして、どう考えているかお聞かせ下さい。

豊田社長は、株主からの質問を丁寧になぞり、少しだけ想いを付け加えた。

仕入先・販売店、各社の不満のうえに成り立っているのではないか?ということですが、仕入先・販売店の皆様と一緒に頑張っておりますのでご安心いただきたいと思います。

その上で、“仕入先”と“販売店”を担当する2人の執行役員を回答者に指名した。

今回、トヨタイムズでは“2人の執行役員の回答”を後ろにまわし、豊田社長が力強く回答を補足した場面を先に紹介したい。

<豊田社長>

“ひとり勝ち”という言葉を耳にしましたが、ひとりも勝たなかったら、この国は一体どうなるのでしょうか?

そして、ひとり勝ったその会社が、その“勝ち”を何に使うのでしょうか?

私は、今のトヨタは、自分のためではなく、世の中のため、トヨタを普段から応援いただいている方々のために、この強さを使える会社に生まれ変わってきていると思っています。

ひとりでも勝たないと、このインダストリー(産業)は支えられないし、この国も支えられないと思います。

トヨタが目指している“この町いちばんの工場”も支えることができません。

大変な時期ではありますが…
大変な時期だからこそ株主の皆様に、その想いをご理解いただき、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

自動車産業は100年に一度の大変革を迎えている。

そこにコロナ危機が重なった。

今年に入ってからの豊田社長の言葉を振り返ると“生き抜く”“生き残る”というフレーズが何度か出てくる。

<2020年1月全国トヨタ販売店代表者会議>

とにかく、今は、生き抜かないといけない…そんな時代だと思います。
販売店も生き抜く…トヨタ自動車も生き抜く…
日本の自動車産業自体も世界の中で生き抜いていく…
「どんな未来をつくりたいか…」想いを共有し、本当の意味での仲間をつくっていく…
それができなければ、生き抜いていくことはできません。

<2020年4月自動車4団体合同会見>

経済環境も、冬が続いています。それも、かなり厳しい冬です。
とにかく生き延びなければ、春を迎えることができません。
自動車産業が生き延びていけば、
多くの人に、その影響を繋げていくことができます。
(中略)
我々の産業には、生き残るための、粘り強いDNAがあるはずです。
なんとしても踏ん張って、生き残っていきましょう!

企業にとっての勝ち負けとはなんなのか?
その定義は、よく分からない。

ただ、今の時代において、先ずは“生き残る”ことが、なにより大切だということを豊田社長は訴え続けている。

そして、生き残るものが、そのチカラを世のため人のために使っていくことこそが大切だとも言い続けている。

そうしないと、みんなで生き残ることは目指せない。
生き残れる人も生き残れなくなってしまう。

世界のみんなが大変なことになっている今だからこそ、その想いを強め、豊田社長は、自身の考える“ひとり勝ち”の意味を力強く補足した。

豊田社長の前に回答をした調達担当と国内販売担当の両役員も同じ思いを持って話していた。

仕入先や販売店と「共に生き残る」、そして「共に世の中を元気にしていこう」そんな想いが込められた回答だった。

(左)調達担当 白柳執行役員 (右)国内販売担当 佐藤執行役員

<調達担当 白柳執行役員>

仕入先の収益は、コロナの前から、アジアや中国の市場減少、あるいは地場メーカーとの熾烈な競争により、非常に厳しい状況になっていることを認識してございます。

それに加えて、今回コロナへの対応の中でも、CASEへの対応や、未来の投資については、たゆまぬ実施をしていただくこと…

今回のコロナ禍の中でも、医療現場への対応や、収束後の対応に向けて、ピンチをチャンスに色々な取り組みをしていただいており、大変ありがたいと思っております。

私どもも、こういった時は、よりきめ細かいコミュニケーションをということで、WEBを介してではありますが、400社を超える1次(取引先)の会社、1次の会社を介して、1万社を超える2次以降の会社の困りごとを把握するように努めております。

具体的には、資金繰りの対応に加えて、生産性への支援や、納品日の調整、私どもで作っておりますフェイスシールドの生産をお願いするといったことも対応してございます。

2次以降、特に3次以降の会社については、実態の把握は大変難しく、声を上げていただけてないと実感しております。

いずれにしても私どもは3万点を超える大変に裾野の広いサプライチェーン・仕入先の皆様に支えていただいて成り立っている産業でございます。

今回、黒字の見通しを出させていただいたのも、仕入先の皆様のご尽力のお陰と感謝してございます。

コロナの収束以降、私ども、トヨタ・自動車産業が経済の復興をけん引できますように、守るべきサプライチェーン・人材・技術・生産基盤をしっかりと維持できるようにあらゆる手を尽くしてまいりたいと考えております。

<国内販売担当 佐藤執行役員>

先程、豊田社長から自動車産業で日本を元気にしたいと話をさせていただきましたが、販売店も、まずはお客様の安全安心を最優先に(考え)、マスク・除菌・ソーシャルディスタンスをとりながら、お客様・地域の困り事を一生懸命聞いている状況です。

お客様が、どうしても車が必要だが、資金繰りの目処が立たないというケースでは、ローンの支払いについて、少し先延ばししていくとか、また車が必要だが新車は難しい場合については、中古車のレンタカーを提供させていただいております。

まだまだ、車を買っていいんだろうかと思うお客様もいらっしゃると思いますが、販売店の皆様方からは、お客様、そして地域の困り事も聞きながら少しでも元気に明るくやっていこうと言っていただいています。

ぜひ皆様方のご理解もいただきながら、頑張って販売店と一緒にやって参ります。


次回、株主総会取材の最終回「豊田章男が見せた涙の訳」。

株主総会QA全編

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