富士24Hへの予備知識2022

2022.05.25

2022年スーパー耐久シリーズ第2戦 富士24時間レースまであと1週間。トヨタイムズがレースの見どころを4つに絞って解説する。

2022年スーパー耐久シリーズ(S耐)の第2戦となる富士24時間耐久レース(635日)が1週間後に迫ってきた。様々なチームの参戦体制も発表されている。レース本番を前にトヨタイムズ的注目ポイントを紹介していきたい。

ポイント1:増えるST-Qクラスへの参戦

S耐は排気量や改造範囲などを基準にクラス分けされている。その中で、トヨタイムズが注目し続けているのがST-Qクラス。ここには水素エンジンカローラなど開発中の車両が参戦している。

昨年の富士24時間レースでは、トヨタの2台(水素エンジンカローラとGRスープラの先行開発車)しか参戦していなかったが、シーズン後半から徐々に参戦が増えてきた。

今年の開幕戦では、その参戦台数は5台になっている。

「水素エンジンカローラ(トヨタ)」に加え、合成燃料で走る「GR 86(トヨタ)」と「SUBARU BRZ」、バイオ燃料で走る「MAZDA2」。これら4台は、カーボンニュートラルの実現に向け、自動車メーカー各社が技術開発の加速を目指して走らせている車両である。

S耐初戦(@鈴鹿サーキット)で並んで走るST-Qクラスの3台。左から水素エンジンカローラ、SUBARU BRZ、GR86

もう1台はブレーキメーカーENDLESSのメルセデスAMG。こちらは自社製品であるブレーキの開発のための参戦ということだ。モータースポーツで使うものは “レースの現場で鍛えていく”という考えの参戦である。

今回、もう1社、新たに自動車メーカーが“同じ考え”での参戦を発表した。「Nissan Z」である。先日発表された参戦リリースには、以下のように書かれている。

NISMOニュースリリースより抜粋)
今回、日産/NISMOは新型「Nissan Z」の様々なモータースポーツカテゴリーでの活用の可能性を探り、実戦データを得るために、NISMOからエントリーする1台に加えて、「フェアレディZ」での同シリーズ(ST-3クラス)への参戦経験が豊富なMax Racingを加えた2台でST-Qクラスにテスト参戦します。24時間というタフなレースを通じてクルマを鍛え、Zにふさわしい、ワクワクするレースカーの開発を目指します。

Nissan Zのレースカー開発につながる参戦ということだ。510日の公式テストでNissan Z は富士スピードウェイ(静岡県小山町)を150秒台で走っていた。

昨年の24時間レースでGR SUPRAが同じくらいのラップタイムであった。将来的には、どこかのクラスで“Nissan ZvsGR SUPRA”のガチンコ対決が見られるかもしれない。

年初のオートサロンで豊田章男社長が発した「Zには負けませんから」という発言が思い出される。これは今年のスーパーGTに向けた言葉であったが、また違うカテゴリーでもこうしたライバル対決が見られるようになると、モータースポーツは一層盛り上がってくる。

ポイント2:ガチンコ対決は三つ巴に①

開幕戦の“トヨタイムズ的見どころ”は「GR 86BRZのガチンコ対決」であった。いずれも合成燃料を使ったカーボンニュートラルへの取り組みではあるものの、レースは「5時間走って、その差わずか63秒」という大接戦となった。

GR 86の28号車「ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」に乗る豊田大輔はレース後に「同じところにいる2台で戦うというのがドキドキで、モータースポーツってこういうものだったなと改めて思い出すし、ここからさらにカーボンニュートラルと技術開発を加速できるといいなと思います」と語っている。

今度はこの戦いに、もう1台のGR 86が加わる。86号車「TOM'S SPIRIT GR86」である。ドライバーは河野駿佑、松井孝允、山下健太の3人。このクルマは合成燃料ではなく普通のガソリンで走る。

「トヨタ製 1.4ℓエンジンに載せ替えた合成燃料のGR 8628号車)」「SUBARU製 水平対抗自然吸気2.4ℓエンジンで合成燃料のBRZ (61号車)」「SUBARU製 水平対抗自然吸気2.4ℓエンジンでガソリンのGR8686号車)」。

ややこしいが“燃料の違い”と“エンジンの違い”が入り混じった3台。この戦いは、カーボンニュートラルだけでなく、エンジンやクルマそのものの進化につながっていく。

ポイント3:ガチンコ対決は三つ巴に②

28号車「ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」にはプロレーシングドライバーが一人加わることも発表された。関口雄飛である。

関口は昨年のスーパーGT GT500クラスのチャンピオン。昨年末、チャンピオン獲得後にチームの移籍が発表された。そのことについてメディアが質問した際、豊田社長は彼のことを「優勝請負人」と表している。そんなドライバーである。

関口は24時間レースに向けて「自分自身まだ2回目の24時間耐久レースです。重要なことは、クルマをいたわりながら走り、まずは完走することだと思っています。その先に結果がついてくると思っています」と語った。

28号車には大嶋和也もいる。GT 500では違うチームで競い合う大嶋と関口が同じチームでタスキをつなぐというのも面白い。一方で、GT 500では大嶋の相方である山下健太は別のGR86に乗る。こうしたドライバー同士の関係も見えてくると面白い。

左が大嶋、右が山下。GT500ではコンビを組む

また、SUBARUからは61号車「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」の追加ドライバーが2名発表された。

一人は鎌田卓磨、全日本ラリーに出場しているラリードライバー。もう一人はレーシングドライバーでもあり、チューニングパーツメーカーの社長でもある吉田寿博。

SUBARUもレーシングドライバー、社員ドライバー、ラリードライバー、パーツメーカー社長と多彩なドライバー陣となった。

エンジン、燃料、ドライバーそれぞれの要素を整理すると“兄弟車の三つ巴”は、もっと楽しく見られることになる。

ポイント4:ラリー界のスタードライバーが水素エンジンカローラに!

トヨタイムズで“水素エンジンカローラ”と呼び続けている32号車「ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」には、6人のドライバーがエントリーされた。

開幕戦にも出たレギュラードライバーは、佐々木雅弘、モリゾウ、石浦宏明、小倉康宏の4人。

「モリゾウこと豊田社長が予選アタックを担当するBドライバー」であることが、ひとつの見どころであることは以前のトヨタイムズでも紹介している。

今回も、その見どころは変わらないが、新たに加わった2人のドライバーも大きな見どころである。2人とも普段はサーキットを走ることのないラリードライバーである。

1人は昨年の全日本ラリーチャンピオンで、先述のSUBARUのラリードライバー鎌田とは同じクラスで争っている勝田範彦。もう1人はTOYOTA GAZOO Racingのチーム代表であり、3年前まで自らもWRCのドライバーであったヤリ-マティ・ラトバラである。

勝田は先日の公式テストではじめて水素エンジンに乗っている。トヨタイムズは、その感想を勝田に聞いてみた。

――水素エンジンに乗ってみてどうでしたか?

現在は“パワーが何馬力か?”でクルマの価値観が考えられてしまうことが多いのですが、いくらパワーがあっても高回転しか使えないクルマもあります。

でも、トルクが低回転で出れば出るほど、街中やワインディングでは乗りやすくなります。だから、どのメーカーも排気量を上げて、低回転からトルクを出せるようにしていると思います。

ですが、水素エンジンカローラは1600ccと低排気量にもかかわらず、低回転からトルクが出ていて、すごく乗りやすいことが印象的でした。

――2019年にGRヤリスで富士24時間に出場していましたが、今回はどんな想いでしょうか?

1回目のチャレンジは周りのクルマと争うのがすごく怖かった思い出があります。ラリーではそのような環境がないですから…。

でも、2回目となると、段々とレースのコツが分かってきています。チームの仲間も、色々と教えてくれるので、このような環境で走れることに感謝しています。

ラリーとレースの違いはたくさんあるので、レースの醍醐味の“抜きつ抜かれつ”を存分に楽しみたいと思っています。

レースのペースを掴めれば、いいレースができると思っています。今はラリーを少しだけ忘れて、レースに集中し、レースを楽しみたいと思っています。

ラトバラは、まだ水素エンジンには乗っていない。その彼が、なぜ今回の参戦に至ったかについてプレスリリースにコメントを寄せていた。

昨年のラリーポルトガル期間中、スーパー耐久レースの動画を見て、トヨタのモータースポーツを通じたカーボンニュートラルへの取り組みに感銘を受けました。

また、小林可夢偉、中嶋一貴から、水素エンジンは、ガソリンエンジンと感覚が変わらないと聞き、いつか乗ってみたいと思っていたら、チャンスが巡ってきました。

今回カーボンニュートラルへ向けた活動を自分の肌で感じることで、私からも欧州を中心に、世の中に伝えていけたらと思います。また、ラリー車へのポテンシャルも感じ取れればと思っています。

ラトバラが普段から小林可夢偉、中嶋一貴らと会話していることが伺える。

TOYOTA GAZOO Racingにはカテゴリーを越えたコミュニケーションがあり、様々な競技の関係者が各々の競技やクルマづくりを通じてカーボンニュートラルに取り組もうとしているということがわかる。

ラトバラはモリゾウともコミュニケーションが密である。昨年末の来日の際は2人で対談もしていた。

「ハイ! ヤリ-マティ!」「ハロー!アキオさん!」からはじまるフランクな2人の会話は「ドライビング対決をして、もしラトバラが勝ったらWRCのドライバーに復帰する。さらに、ヤリスWRCの実車(自身が現役参戦時に乗っていたクルマ)も勝ち取れる」という“賭け”をする約束で終わっている。

そんな親密な関係が見えるラトバラに「アキオさんにメッセージを!」とお願いしてみた。やはり「ハロー!アキオさん!」から始まっている。

【日本語訳】

ハロー!アキオさん!こちらはラリーポルトガルです。

富士24時間レースがとても楽しみだし、水素エンジンカローラを運転できることに、めちゃくちゃエキサイトしています!

でも、ちょっとだけ不安もあります…。クルマは右ハンドルですよね…。だから左手でシフトチェンジをしないといけない…。そっちは慣れてないんです…。右手のシフトチェンジに慣れているから。…。

だけど“オールド”、“プロフェッショナル”ドライバーだから、なんとかなると思ってます!

富士スピードウェイで会える日が待ち遠しいです!

ラトバラとアキオは、他の4人のドライバーと一緒に、水素エンジンカローラを乗り継いで24時間完走を目指していく。今度は“どんな会話が生まれるのか?”そこも大きな見どころになるとトヨタイムズは考えている。



トヨタイムズでは24時間レースを生中継します。ドライバーたちがピットでどんな会話をするのか? そんなレースの裏側まで見られるような放送をしていきますので、ぜひご覧ください。

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