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増やせ!再エネ選択肢 水素エンジン2ndレース

TOYOTA NEWS 2021.09.06 UPDATE

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8月1日、スーパー耐久シリーズ2021第4戦の決勝レースが大分県日田市のサーキット・オートポリスで行われ、水素エンジンを搭載したカローラスポーツが5時間をノートラブルで完走した。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われた5月の24時間レースに続いて、2度目となる水素エンジン車のレース。

決勝前日の記者会見で、水素カローラのドライバーでもある豊田章男社長は今回の挑戦の意義を次のように語った。

豊田社長

カーボンニュートラルはエネルギーを「つくる」「はこぶ」「つかう」と全産業で取り組むことが大事だと思っております。

前回が「つかう」側の自動車の技術の選択肢を広げる行動であったとするならば、今回の取り組みは(「つくる」側の)再生可能エネルギーの選択肢を広げる行動になるのではないかと思っています。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

今回のレースで使用した水素の半分は、九州でつくったカーボンフリーの水素であり、いわば “地産地消”の燃料。その生成を行った大林組とトヨタ自動車九州(トヨタ九州)の活動を取り上げる。

大林組:水素化で広がるエネルギー利用

温泉で有名な大分県。千葉大学倉阪研究室と認定NPO法人環境エネルギー政策研究所が取りまとめた「永続地帯2020年度版報告書」によると、同県の地熱発電の供給量は全国1位。

再生可能エネルギー全体の自給率では、秋田県に次ぐ2位と国内でその活用が最も進んでいる県の一つである。

同県九重町に日本初の地熱発電による水素製造プラントを構え、今回レースで使用する水素の3割を提供するのが、大手ゼネコンの大林組だ。

大林組による日本初の地熱発電水素製造プラント

地熱から得られた電力を使い、水素製造装置で水を電気分解して水素をつくる。電力はすべて地熱発電でまかなっているので、製造されるのは100%再生可能エネルギーでつくられたグリーン水素。

製造能力は1時間に1kg10Nm3/h)。MIRAIの満充填で積める水素5.6kgは約5時間半で製造できる。

現時点では、供給先として、燃料電池やFCフォークリフトでの使用を予定するトヨタ九州、九州域内の水素ステーションなど、5社が名乗りを上げている。

自然エネルギーによる発電は天候に左右されがちだが、地熱のメリットは安定的に電力供給ができること。さらに、日本は地熱資源量でアメリカ、インドネシアに次ぐ世界3位のポテンシャルがある。

しかし、発電設備の容量では10位と資源を有効活用しきれていない。その理由として、地域との交渉、資源のあるエリアと国立・国定公園のバッティング、電力が得られるまでのリードタイムの長さなど、数々のハードルがあるという。

大林組が水素の製造に取り組む背景にも、そういった事情が影響している。

大林組・蓮輪賢治社長

発電したものをどう運び、お配りできるのか。地熱に限らず、電力会社の系統連系に接続して配るのがいちばんオーソドックスなやり方です。

しかし、その脆弱さなどで、せっかく再生可能エネルギーで電気をつくっても、配ることができないということがありました。

そんな中でも、水素に変えることで、将来のサステナブルな社会への貢献ができるのではないかと考え、(エネルギーの)キャリアとしての水素に注目し、水を電気分解して水素に変える挑戦をしてきました。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

事実、プラントがある場所は、元々、地元企業が地熱発電目的で、温泉の探索まで済ませていた。しかし、幹線を引っ張ってこようにもなかなか申請が通らず、事業が行えずにいたという。

今回の大林組の取り組みで、地熱によって得られたエネルギーが九州各地に供給できるようになり、地元では「自分たちの地熱エネルギーに(温泉以外の)新たな付加価値が生まれた」と歓迎の声も上がっているそうだ。

そうやってつくられた水素がレースに使われる。会見で大林組の蓮輪社長はその意義をこう語った。

蓮輪社長

これまでの悩みは、使ってもらえる場所がなかなかないということでした。そんな中、トヨタ九州から声をかけていただき、水素ステーションに供給したり、水素エンジンの燃料として使っていただけるようになりました。

これが実現できたことが、本当に我々にとっては光栄で、喜ばしいことでしたし、担当技術者も含めて、ますますモチベーションが上がりました。今後、これまで以上に継続して、コストの問題などの解決を念頭に置きながらやっていきたいと思っています。

トヨタ九州:1000世帯をまかなう太陽光発電

福岡県宮若市にあるトヨタ九州宮田工場。レースで使用する水素の20%は、工場のルーフに設置された太陽光パネルで発電した電気使って水を分解したものだ。

トヨタ九州の水素製造装置。太陽光パネルでつくった電気を使い、水を分解する

日ごろは、工場内の運搬作業を行うFCフォークリフトの燃料として使うほか、照明や給湯を行う定置燃料電池にも使用している。

このシステムが導入されたのは2016年。再生エネルギーから水素をつくり、利活用するまでの一貫したシステムを構築する日本初の取り組みとして始まった。

現在、同工場の太陽光パネルでの発電能力は3900kW。実に1000世帯分の使用電力をまかなう規模である。

水素の製造能力としては、1時間当たり2㎏(24Nm3/h)。2.53時間でMIRAI 1台分の燃料をつくることができる。製造した水素はタンクに貯められ、パイプラインを通じて現場の充填装置や定置燃料電池に送られる。

現在、同工場には、16台のFCフォークリフトがある(他拠点でのFCフォークリフト活用事例はこちら)。1回の充填で稼働できるのは5時間。1台あたり、5分~10分で1.2kg分の水素を充填し、現場へ復帰する。

FCフォークリフトへの水素の充填作業

FCフォークリフトは同工場で使用されるフォークリフト全体の1割にも満たないが、通常のバッテリーリフトと性能、操作性はほとんど変わらない*
*バッテリーリフトは、充電に6時間。バッテリーは取り外し式で交換作業は10分ほどだが、重さは約500kgあるため、交換作業にはリフトを使った作業が必要

太陽光発電は天候の影響を受けやすいので、同社では水素に変換することでストックしやすく、安定的に供給できるようにしている(エネルギーが貯められる水素のメリットはこちら)。

トヨタ九州ではさらなるグリーン水素活用に向けて、大林組でつくった水素の工場利用も今後進めていく。

同社の永田理社長は、レース前の会見で、意気込みを語った。

永田社長

私たちがつくった水素が水素カローラに載って、使ってもらえるのを大変ワクワクしております。

これからも大林組、その他の企業と一緒になって、水素を「つくる」「つかう」の仲間づくりをしていきたいと思います。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

広がりを見せるカーボンニュートラルの輪

前回の富士スピードウェイのレースから、水素を「つくる」仲間が加わった今回の挑戦。カーボンニュートラル社会の実現に向け、実証実験ではなく、モータースポーツという手段をとることで、多くの注目を集めた。

会見で豊田社長は、「カーボンニュートラルは地球のため、世界のため、そして、未来のためのものなので、仲間が集まってくることが大切」と仲間づくりの重要性を強調。

これに続き、蓮輪社長からは「(地熱利用で地元とWin-Winの関係を築く)実証ができれば、今まで尻込みしていた他地域の方々も『一緒にやろう』という機運が起こるかもしれない」。

永田社長からも「課題であるコストを下げていくためにも、産学官の連携が必要。専門家の知恵も借りながら進めていきたい」と活動への期待や抱負が語られた。

なお、次回の鈴鹿のレースではオーストラリアから水素を「運ぶ」パートナーとして、川崎重工業も加わる予定だ。

豊田社長が常々口にする「意志ある情熱と行動」を持った民間企業同士が共鳴し合い、広がりを見せる水素の輪。会見で国にお願いしたいことを聞かれた豊田社長の言葉に熱がこもった。

豊田社長

1点目としては、仲間を増やしましょうということ。2点目はカーボンニュートラルを正しく理解いただきたいということ。そして3点目が達成への道のりの順番を間違えないようにいただきたいということ。この3つに尽きると思います。

3つ目のところを補足させていただくと、「カーボンニュートラルの敵は炭素」です「決して内燃機関ではない」と思います。

ところが順番として、内燃機関が敵であるかのように、盛んに言う方が多い。そして、正解が今は見つかっていないと思います。

そういうときに選択肢を狭め、これがあたかも正解かのごとくやっていくのではなくて、今は多くの選択肢を与える。どこに可能性が出てくるかわかりませんので、是非ともそのサポートをお願いしたいです。

左から、GAZOO Racingカンパニー 佐藤恒治プレジデント、豊田社長、大林組 蓮輪社長、川崎重工 橋本康彦社長、トヨタ九州 永田社長 (撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

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