トヨタイムズ

豊田章男が私財を投じて導く未来【前編】

TOYOTA NEWS 2020.07.30 UPDATE

INDEX

1.TRI-ADという会社の組織再編

トヨタには「トヨタ“なんちゃら”」という関連会社がたくさん存在する。その中に正式名称38文字のひときわ長い名前の会社がある。東京・日本橋にある「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社」だ。長い名前のまま呼ぶ人は、トヨタの中にもほとんどいない。みんなTRI-AD(ティーアールアイ・エーディ)と呼んでいる。

7月28日、この会社の組織再編がアナウンスされた。“ホールディング会社”と“2つの事業会社”に分かれ、社名も変更となる。

Woven Planet Holdings」というホールディング会社と、2つの事業会社「Woven CORE」と「Woven Alpha」。

だいぶ呼びやすくなるが、今回の狙いは“呼びやすさの改善”ではない。

ニュースリリースが出た日にTRI-ADでは従業員向けの説明会が開かれた。
そこには豊田社長も出席し、自らの言葉でこの会社に対する想いを伝えた。親会社の社長ではあるが、TRI-ADでの役職は持たない豊田社長がなぜ出席したのか?そして何を語ったのか?

豊田社長のスピーチには“創業家が紡いできた想い”と、それを“未来に継承していくための覚悟”が見えた。その“覚悟”も単に言葉だけのものではない。大きな行動が伴った“とてつもなく強い覚悟”である。

トヨタイムズでは前後編に分けて、TRI-ADの事業再編と、そこある豊田社長の“強い覚悟”についてレポートしていきたい。先ず前編では、事業再編についての解説をしていく。

2.未来を商品化する“Woven CORE”社

そもそもTRI-ADとはどんな会社なのか?新会社でもCEOを続けるジェームス カフナーはその役割について、こう話していた。

<ジェームス カフナーCEO>

TRI-ADは2018月に立ち上がりました。設立の目的のひとつは、主に「トヨタのソフトウェアスキルを強めていきたい」ということ。
もうひとつは「“先進的な研究開発”と“実際お客様に届ける市販車”との懸け橋になる」ということです。

“商品化するには、まだ時間がかかる技術”を研究している人たちもトヨタには沢山いる。“種”のような技術が“芽”を出してきたら、それを“お客様にお届けできるもの”に仕上げていくのが、TRI-ADの役割だ。組織再編後は“Woven CORE”がこの仕事を続けていくことになる。具体的には「自動運転技術の開発、実装、市場導入・普及」が当面のミッションとなっていく。

首都高での自動運転実証実験に試乗した香川編集長

自動運転は、日々、進化していく技術である。しかし、どれだけ進化しても“完成”はしない。なぜなら運転には無限のシチュエーションがあるからだ。

例えば助手席に乗っている時、「自分なら、もうブレーキを踏む」と思ったタイミングより、ドライバーが遅くブレーキを踏んだとき、追突はしないと信じていても少し不安になったりする。

また、走り慣れた道でも、雨が降ったり、風が吹いていたりしたら、ドライバーは無意識のうちに、運転の仕方を変えているものだ。

自動運転で“誰もが安心できる運転”を実現しようとすれば、ドライバーや天気などによって変わる無限のパターンを“全て”再現できないといけない。Woven COREは、これを追求していく。技術を商品化させた後も、それにより集まってくる様々なお客様の走行データを用いて、さらに安全安心な自動運転技術への進化を続けていく。

3.未来の暮らしをも変えていく “Woven Alpha”社

もうひとつの事業会社“Woven Alpha”の役割については、「Woven CityAreneなどの新領域に対する事業拡大の機会を探索し、革新的なプロジェクトを立ち上げ、推進する。」とニュースリリースに記載がある。

今年1月に発表された“Woven City”の実現は、この“Woven Alpha”が担っていくということである。
もうひとつ記載のある“Arene(アリーン)”とは、なんのことなのか?カフナーCEOに聞いてみた。

<ジェームス カフナーCEO>

携帯電話業界で起きた例を見ると、古いケータイでは、ソフトウェアも、そのデバイスのためだけに開発されたものでした。

しかし、デバイスが高機能化するとともに「iOS」や「Android」などの登場により、様々なパートナーがアプリケーション開発に参加することが容易になり、音楽視聴や写真撮影などの多彩なコミュニケーションが可能になりました。クルマを含めたモビリティにも今、同じ変革が起こりつつあります。

私の夢は、トヨタとトヨタグループが、世界でトップレベルのモビリティ・ソフトウェア・プラットフォームを提供することです。私たちが“Arene”と呼ぶこのプロジェクトが、モビリティサービスとともにトヨタの競争力を高めるプラットフォームになると考えています。

Areneとはクルマにとっての最適なOSをつくりあげるような構想である。しかし担当者に聞くと、OSというだけでは、少し理解が浅いようである。

<Arene担当者>

正確に言うとAreneOSそのものではありません。Areneを一言でいうとソフトウェアの“エコシステム”という表現になります。OSというと分かりやすいのですが、それだけでなく、そのOSとマッチしやすい開発ツールも含めたものになります。

正直、ちょっと難解である。なるべく分かりやすくArene(アリーン)の解説を試みるが、読んでいて、もし挫けそうになったら、遠慮なく次章に飛び越えていってもらいたい。ここでトヨタイムズを閉じないでほしい…。編集部としては、その先にある“他の読んでもらいたい話”にも辿りついてもらいたいと願っている。

で、話を戻す…。

TRI-ADの担当者が言う“エコシステム”を日本語に訳すと“生態系”である。
動植物がお互いの存在を必要としあって最適に生きている環境を表す言葉だ。

クルマの中には、様々な機能が共存している。
例えば、エンジン・アクセル・ブレーキ・ハンドル…、これらの機能は1800年代にダイムラーが自動車を生み出した時から存在している。クルマという生態系においては、いわば“大御所”といえる存在だ。

昨今、その生態系に“新入り”が増えてきた。一番の“新入り”は、自動運転に関わる機能たちである。

具体的にいうと、「人間の目の代わりをするカメラやセンサー」、「その情報をもとに車をどう走らせたら良いかを判断するコンピューター」、「その情報を更にアクセル・ブレーキ・ハンドルに伝えていくコンピューター」などである。人間の目・脳・手・足を、機械に分担してもらうので、あらゆる機能がクルマの中に入り込んでいく感じだ。

“大御所”と“新入り”が仲良くやっていける生態系ができていないと、これからのクルマづくりは成り立っていかない。(“新入りのセンサー君”がいくら情報を持っていっても、“大御所のブレーキさん”がヘソを曲げて動いてくれなかったら…ということである)

しかし、今のクルマは、やはり“大御所”オリエンテッドな環境になっている。
そこにTRI-ADが登場して、こう言い出した。
「“大御所”と“新入り”が一緒になって最高の作品を作れるような環境を用意しましょう。その名もAreneです!」

今はまだ“Arene”が整っていない。そのため“大御所”にも、“新入り”にも、双方に配慮したクルマづくりをせざるを得ない。そのため手間もコストもかかっている。(“大御所好みのヘルシー弁当”と“新入り好みのボリューム弁当”を両方手配しないといけない…ということである)

これからのクルマづくりには欠かせないAreneを“Woven Alpha”が手掛けていく。

一方で、“大御所”の大多数はトヨタ自動車サイドが手掛けている。実際のクルマづくりの仕事でも“新入りのWoven Alpha”と“大御所のトヨタ自動車”の2社が、協調し合って進めていかないと、この構想は早期には実現していかないものと思われる。

4.“Woven Planet”社に込めた想い

新しい3社は共通して“Woven”の言葉が社名に冠されている。そして、その核となるホールディング会社には、惑星を意味する“Planet”が組み合わさっている。“City”より遥かにスケールの大きい“Planet”という言葉の意味を豊田社長が語っていた。

<豊田社長>

なぜ“Planet”とつけたのか…?
この惑星に住む人は、みんな地球人です。同じ星に住むみんなの“共通のオポチュニティ”である未来に、なにか貢献できる器になって欲しいという想いで社名に“Planet”と入れさせていただきました。

誰かと対立するのでなく「ただ自分の強みを誰かの役に立たせたい」という想いで、各々が力を出し合えば、この会社は素晴らしいものになると思います。そして、それがこの会社の強みになっていくと思います。

“ホームプラネット”という言葉を、豊田社長は今までもたびたび使っている。
ホームタウン、ホームカントリーという言葉で故郷への愛を語るように、地球という故郷“ホームプラネット”を、国境を超えて、愛し、憂いていこうということである。

自動車には大気汚染や交通事故など負の側面がまだ多く残されている。例えば、大気には国境がない。みんなの財産として地球を、どうしたらキレイに保てるかを考えないといけない。

“事故ゼロ”や“もっと環境に優しい”持続可能なモビリティの実現は、メーカー同士で競争をするものではない。みんなが「誰かのために」「地球のために」という想いで取り組んでいかないといけない…というのも豊田社長が、よく口にする言葉である。

人の役に立ち、地球全体のためになるモビリティ社会を切り拓いていくのが、現TRI-ADの役割である。今回の組織再編は、そのスピードをあげていくための手段であり、新しい社名“Woven Planet”には、そうした豊田社長の強い想いが込められている。

最後に映像を見ていただきたい。TRI-AD社員説明会での豊田社長のスピーチである。約7分間、英語で語られたスピーチの中で豊田社長は以下のように話した。

I am personally investing a significant amount of my own money in this company…
(私も新しい会社に豊田章男個人として大きな投資することを決めました)

後編では、この「個人としての大きな投資」について注目していきたい。

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