秋の交渉のゆくえ トヨタ労使は「共通の基盤」に立てるのか? ~冬賞与回答に込めた想い~

2019.10.09

異例となる秋の労使協議会。豊田が語ったのは、1962年に会社と組合が結んだ「労使宣言」に対する想いだった。

10月9日、愛知県豊田市のトヨタ自動車本社で、秋の労使協議会が行われた。毎年2月に労働組合から会社に賃金・賞与の申し入れが行われ、3月にかけて交渉を行う。年間の賞与は例年この場で決まってきたが、今年の春は夏と冬で6.7カ月分の組合要求に対して、会社は夏分のみを回答し、冬は継続協議を決定。春の交渉でトヨタが賞与を通年で回答しだした1969年から数えて50年で初めてとなる異例の事態となった。豊田章男社長は理由を次のように語っていた。

冬賞与については、「生きるか死ぬか」という会社の置かれた状況を踏まえ、労使ともに、一人ひとりが「何ができるか」「何をしなければならないか」を自ら考え、行動に移せているかどうか。その行動が周囲の方々に認められ、トヨタを「応援しよう」と思っていただけているかどうか、こうした点を確認するために、あらためて、秋に交渉の場を持たせていただくべく、継続協議とした。

9日の労使協議会では、メンバーの意識や行動が変わってきた職場、まだ変わりきれていない職場の実態や労使双方の課題について話し合うとともに、人材育成・人事制度の見直しについて議論が行われた。その上で、組合の西野勝義執行委員長からは次のような決意表明がなされた。

【西野勝義執行委員長】

本日、さまざまな職場の実態について議論してまいりましたが、改めて、春の労使協以降、多くの組合員が意識、行動を変え、一歩を踏み出しています。その一方で、職場の中には、まだまだ意識が変わりきれていなかったり、行動に移せていないメンバーがいることは、先ほどお伝えしたとおりです。

これまではそういったメンバーに対しても、「声を聞き」「寄り添い」、そして「守る」のが組合の役割だと考えておりました。しかしながら、この100年に一度の大変革期においては、これまで通りのやり方で「守る」のではなく、全ての職場で変わり切れていない組合員と徹底的に対話し、執行部と職場役員が力を合わせ、「変えて」いかなければならないと考えております。簡単ではないことは承知しておりますが、「変える」ことが結果的に、彼ら彼女らを「守る」ことに繋がるという信念のもと、一緒に考え、悩み、行動していきます。

「労使宣言」への想い

西野執行委員長の決意表明を受ける形で、社長の豊田がはじめて口をひらいた。豊田は、春の交渉で、創業の精神である「豊田綱領」を解説した。秋の交渉の締めくくりにあたっては1962年に会社と組合が締結した「労使宣言」に対する想いを語った。

【豊田章男社長】

労使宣言調印式

まず「労使宣言」が締結された時代背景を考えてみたいと思います。当時、乗用車の貿易自由化を控え、日本市場が欧米の車に席巻されるかもしれないという難局に直面していました。「1950年の労働争議以来」と言われたこの難局を乗り切るためには、労使一丸となることが必要不可欠であり、その決意を「労使宣言」として取りまとめたと言われています。

果たしてそれだけでしょうか。私の中でずっと気になっていたことがあります。1950年の労働争議から1962年の「労使宣言」の締結まで、なぜ12年という年月が必要だったのか。この間に一体何があったのかということです。歴史を紐解いてみると、1950年以降もストが頻発するなど、労使関係は非常に厳しい状況が続いていました。現場では、「草の根の話し合い」として、現在の社内団体「三層会(さんそうかい)*」のメンバーと会社人事が連日連夜、ひざ詰めの話し合いを続けていたと聞きます。

*三層会:技能職で組織する職制別の自己研鑽・コミュニケーション団体。EX(班長)会、SX(組長)会、CX(工長)会の3団体を総称したもの。

「共通の基盤」に立つ

豊田は労使宣言の3つの誓いをスクリーンに映し、説明を続けた。

労使の誓い02.png

「労使宣言」の中で、私が重く受け止めたのが「共通の基盤に立つ」という文言でした。

労使は互いに相手の立場を理解し、「共通の基盤」に立ち、生産性の向上とその成果の拡大につとめ、その上に立って、雇用の安定と労働条件の維持・改善をはかり、さらに飛躍する原動力をつちかわなくてはならない。

乗用車の貿易自由化は確かに難局であったと思います。しかし、当時の会社と組合にとって、本当の難局は、「会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく」という「共通の基盤」に立つことだったのではないでしょうか。この「共通の基盤」を作り上げるために12年という年月を要したのではないか。私はそう考えています。春の交渉で、「今回ほど距離感を感じたことはない」と申し上げたのは、今の会社と組合が、本当に「共通の基盤」に立てているのか、根底の部分に疑問を感じたからです。

「真実」を求めた現場訪問

春の交渉で「今回ほど距離感を感じたことはない」と口にした豊田。組合や会社が伝える現場の姿と自分の持っている感覚とのギャップを感じていた。秋の労使協議会が近づく中、自分の目で確かめなければならないという思いを強くした豊田は、スケジュールを調整して、徹底的に現場を訪問した。ありのままの姿を知るため、訪問することは事前に知らせず、「アポなし」で現場に足を運んだ。

1950年代を生きた先輩方の「草の根の話し合い」には及ばないかもしれませんが、春の交渉以降、私自身、働く皆さんの本当の声を知りたいと思い、10以上の職場の方の話を聞きました。皆さんとの直接の会話から、今トヨタで何が起こっているのか、その「真実」を肌で感じ取りたいと考えたからです。

その一例を紹介いたします。衣浦工場を訪問した時のことです。職場の朝会で、一人の若者が自ら行った改善事例を報告している場面に遭遇しました。今年、トヨタ工業学園を卒業したばかりの新入社員でした。彼が担当した工程では、大小2種類のサイズの部品箱があり、空箱を返却する際には、その重さを利用して、レールの上を滑らせて移動させていました。しかし、サイズの小さな箱が、2本のレールの間に引っかかることがあり、その処置を行うときに、頭をぶつける危険性がありました。

衣浦工場の朝会に参加した豊田社長

彼が行った改善は、レールの数を増やすことによって、小さな箱でも、引っかかることなく、スムーズに移動できるようするものでした。話を聞いていた私は、少し意地悪な質問をしてみました。「レールの数を増やすと、その分のコストがかかるのではないか。コストが増えるのはよくないでしょ。そこはどう思っているの?」彼は一瞬戸惑いながらも、自信をもって、こう答えました。「安全第一。コストよりも安全を優先すべきだと考えます」。

私は思わず「君はすごいな!」と声をかけました。「安全はすべてに優先する」。この大原則を、彼が腹に落としていたことも嬉しかったのですが、何よりも19歳の新入社員が、普段思っていることを素直に話してくれたことが嬉しかったのです。

果たして、これが、会社に入って何年もたった人だったら、どう答えたでしょうか。会社に入り、職場に入ることによって、できるようになることはたくさんあります。同時に、今のトヨタには、職場に入るとできなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。

「感じる力」と「感じたことを素直に表現する力」

いろいろな職場を回って、私が感じたことは、皆さんの「感じる力」、「感じたことを素直に表現する力」が弱くなっているのではないかということです。お互いを理解し合い、「共通の基盤」を持つためには、「感じる力」が大切だと思います。

今の我々は、モビリティ・カンパニーへのモデルチェンジに挑戦しています。それは、この大変革の時代に立ち向かい、日本に自動車産業とモノづくりを残し、我々が最も大切にしてきた雇用を守り抜くための闘いでもあります。会社が変わるということは、職場の一人ひとりが自分の仕事のやり方を変えていくということに他なりません。そのためには「おかしい」とか「悔しい」とか、何かを感じ、それを素直に伝えることが大切になります。それができなければ、変わることなど絶対にできません。

一方で、嬉しいこともありました。特に生産現場では、「選ばれる工場」になるために、自分たちで稼がなければならない。そのためには競争力を向上しなければならない。そう思って、必死に、しかし、明るく頑張っている人たちがたくさんいました。国内生産が伸びない中、新しい仕事を獲得するために、一丸となって頑張っている姿を間近に見てきました。自分たちの仕事を守るのではなく、海外に移管するために、不具合と格闘する姿もありました。

田原工場から帰る時には、ある社員から「社長、何でもいいので仕事ください!」と声を掛けられました。トヨタの内製工場だからといって、「仕事があるのが当たり前ではない」と感じてくれている。ごくごく普通のことが嬉しかったのです。

アライアンス時代を生き抜く2つの力

「CASE」の時代。それは、あらゆるモノ、サービスが情報でつながる時代であり、トヨタ単独、クルマ単体では生きていけないことを意味しています。これからは、間違いなく「仲間づくり」すなわち「アライアンス」の時代になります。このアライアンスの時代を生き抜くために、必要不可欠なものが2つあります。

一つ目は、トヨタにしかない「オリジナルの競争力」です。これは、「TPS」や「原価をつくり込む力」であり、言い換えれば、ベターベターの精神で常に仕事のやり方を変えていく力でもあります。

二つ目は「人間力」です。相手の立場や考えを理解、尊重し、巻き込む力であり、人間の感性や魅力と言ってもいいかもしれません。春の交渉の最後に、私が、豊田綱領を解説したのは、「創業の精神」に立ち返るということだけではなく、 我々がこれからの時代を生き抜くために必要な「人間力」がそこに記されていることを伝えたかったからです。過去の話ではなく、未来の話として聞いてほしいというのが私の真意でした。

「TPSと原価のつくりこみ」という「競争力」と相手を巻き込む「人間力」。この2つの力を身につけた人材が、これからのトヨタ、「選ばれるトヨタ」になるために必要だと考えております。

人のあたたかさと優しさを感じたSUBARU訪問

豊田の話は9月27日に新たな業務資本提携を発表したSUBARUにも及んだ。

先日、中村社長と一緒に、SUBARUの職場をいくつか訪問させていただきました。業務資本提携の真意を理解していただくためには、トヨタのトップである私自身が、顔を見せて、自分の言葉で、話をすることが一番よいのではないかと考えたからです。

SUBARUのエンジニアの皆さんとの懇談の中で、組合の役員をしているという方がこんな話をしてくれました。「トヨタイムズで、中村社長も出席されたタテシナ会議の記事を読みました。今後、協業を進めていく中で、経営トップの想いを知ることは、私たちが仕事をする上ですごく勉強になります。その上で、中村社長にお願いがあります。私は組合の役員をやっているのですが、SUBARUの従業員の80名ほどがトヨタに出向に行っています。ぜひ、会いに行っていただきたいです。SUBARUの代表として、トヨタに行って、自分の力を試しながら、成果に結びつけながら、歯をくいしばって頑張っています。なので、ぜひ、顔を見て、会話をしていただきたいなって思います」

自分のことではなく、仲間のことを話す姿に触れて、人としてのあたたかさ、優しさを感じました。同時に、SUBARUへの愛を感じました。「たった一言が人の心を傷つける。たった一言が人の心をあたためる」。そんな気持ちになったSUBARUの職場訪問でした。

「優秀」な人材とは?

先ほど、「選ばれるトヨタ」になるためには、「競争力」と「人間力」を身につけた人材が必要だと申し上げました。この2つの力を身につけると、どんな人になれるでしょうか? 私は「優しい人」になれると思っています。

私に「年輪経営」を教えてくださった伊那食品工業の最高顧問の塚越さんはこう言われています。「優しいという字は『にんべんに憂う』と書く。だから優しさというのは人への思いやりのことなんです。人を憂うことに秀でた人と書くと、『優秀』という字になる。思いやりの優れた人が優秀な人なんです。知識がある、計算が早い、そういうことじゃない。思いやりにも色々あって、同僚、部下、上司、会社、社会に対する思いやり。そういう思いやりをきちんと持っている会社が優秀な会社なんだと思います。」

私もそう思います。思いやりの気持ちをもった優しい人を育てるためには、働く人たちが「お天道様が見ている」と思える会社にならなければなりません。誤解しないでいただきたいのですが、「私がお天道様だ」と言っているわけではありません。トヨタで働く一人ひとりが、自分以外の誰かを思いやれる人、「お天道様」になった時に、はじめて、トヨタという会社が「お天道様が見ている」会社になれると思うのです。自分のことをアピールしなくても、「自分以外の誰かのために」と思って頑張っていれば、誰かがちゃんと見てくれている。そう思える職場を、労使で実現しなければなりません。

決して忘れてはならない労使「共通の基盤」

春の交渉で、夏賞与のみの回答というのは、50年ぶりの異例のことでしたが、私の中では、何よりも、労使が「共通の基盤」に立つことが先決であるとの思いでくだした苦渋の決断でした。「会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく」。これこそが、我々が決して忘れてはならない労使の「共通の基盤」であると思います。

労使宣言の中に、「企業繁栄のみなもとは人にある」という言葉があるように、労使の「共通の基盤」を支えるのは、「競争力」と「人間力」を身につけた「優しい」人です。今回の労使協議会を契機として、ただ今申し上げた労使の「共通の基盤」に立ち、相互信頼・相互責任のもと、必ずや行動の変革に結び付け、この難局を乗り越えていくことを誓い合いたいと思います。

先程、労働組合から「まだ変われていない人たちもいる」という話がありました。正直に申し上げて、人が変わるということは簡単なことではありません。しかし、委員長が「変われていない人たちを守るのではなく、『変えていく』」と宣言してくれたことに対し、「全員でより強固な労使関係を築いていく」という決意を感じました。本日申し上げたことを、必ず行動で示すという、今後の期待を込めて回答したいと思います。

冬の賞与 回答内容

▽本年の冬賞与は、組合員一人平均128万円とし、夏賞与120万円とあわせて、年間で 248万円とする。

▽冬賞与の配分等、細部については、11月に分科会で申し上げる。

▽なお、今回の回答は、本年の春交渉にて申し入れいただいた一時金6.7カ月に相当し、満額の回答であります。

回答終了後、豊田はこう続けた。

春の交渉から本日までの間、組合の皆さんが、もう一度、自分たちの現状を見つめなおしてくれたのではないかと思います。会社側も議長である河合さんが自分の経験を皆さんに伝えてくれました。心から伝えていただいたと思います。本日の話し合いは、これまでよりも労使がお互いに正面から向き合えたのではないかと感じました。皆さん、今日のこの場で感じたことがあると思います。それを素直に職場の仲間に話してください。それが「共通の基盤」に立つためのスタートだと思います。素直に話せない環境は皆で直していきましょう。

ここで豊田が言及した「河合さん」とは、議長を務めた総務・人事本部の河合満副社長のことである。交渉の中で、河合は自分自身の経験を次のように語っている。

【議長(河合満副社長)】

私が部下と共に挑戦し、共に成長できた実例を紹介します。鍛造特有のロット生産から一個流しへのチャレンジです。私は次長でした。やりたいことに集中できる立場でしたので、何か大きな挑戦がしたいと思い、自分の考え、やり方を上司や生技(生産技術)に話しましたが、「絶対に失敗して車両が止まるからダメだ」と言われました。どうしても諦めきれず、職場の技術員2人に話しました。彼らは、一日考え、次の日に「一緒にやります」と言ってくれました。1人は勉強家で設備のことを知り尽くしていましたが、知っているだけに頑固で上司に対してもズケズケ言う。上司やまわりから敬遠されていて、孤立状態でした。なぜか私は彼と馬が合って、仲良しでした。見通しは7割しかなく、不安で眠れない日々が続きましたが、3人で必死になっている姿を見て、現場の人たちが日々、日増しに手伝ってくれ、思った以上のラインが完成したのです。私が今ここにいるのも共に挑戦してくれた2人の頑張りがあったからです。なければ、ここにいなかったと思います。孤立していた彼は、多くの現場の人や業者の方々からプロとして認められていました。頼りにされていました。彼はちょうど5年前、御嶽山の噴火で亡くなってしまいましたが、5年経った今も九州の大分まで墓参りをしてくれる若者がいます。ご両親が「トヨタで働いて本当に良かった」といつも感謝してくれています。

トヨタで働く全員で「現場主義」を取り戻し、自ら考え、実現していく実行力と、周囲のメンバーを巻き込む人間力を兼ね備えた人材を、「現場主体で育成する」べく、トヨタの人づくりを見直していきたいと考えています。

豊田は最後に、この河合の言葉を引用したのである。こうして、秋にまでもつれ込んだトヨタの2019年の交渉が妥結した。回答を受けた組合の西野執行委員長は交渉を振り返り、組合のトップとして新たな決意を述べた。

【西野勝義執行委員長】

会社回答および、今回の交渉に対する組合のまとめを申し上げます。

先ほど冬の一時金について、満額という回答をいただきました。これは、まだら模様の中でも春の労使協以降、変わることができた職場・組合員について認めていただいたことと、そのほかの職場・組合員に対しては、これから変わっていくことへの強い期待が込められた回答だと受け止めております。感謝を申し上げるとともに、今後の変革については、組合としてその責任を重く受け止め、込められた期待に対しては行動でお返ししていきます。

また、先ほど会社から説明がありました、人材育成・人事制度の見直しにつきましても、既に労使専門委員会で議論している内容もありますが、組合も会社の言う「現場主義」の観点を踏まえながら、今後しっかりと議論していきたいと思います。

先ほど、私からトヨタの労使関係を守っていくためには労使の不断の努力が必要で、そのことを肝に銘じていかなければならないとお話しさせていただきました。「共通の基盤」を支え続け、100年に一度の大変革期を会社とともに生き抜くために、「競争力」と「人間力」を身につけ、組合および組合員の変化を加速させることをお誓い申し上げ、先ほどいただいた会社回答については、執行部として、そこへ込められた会社からのメッセージとともに、しっかりと職場へ展開していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

なお、春の労使協において、一時金の年間協定を結べなかったことについては、本音の議論のレベルが会社トップの危機意識・期待に至っていなかった結果であり、先ほど申し上げましたように、組合員は変われるチャンスと理解し、前向きに取り組んでいます。決して「年間協定を崩す」という意図からではないということは十分理解していますが、働く仲間のためにも、世間に誤って伝わり、形だけが広がることだけは何としても避けたいと考えています。組合としては関係先に丁寧に説明していきますが、会社におかれましても、社外への発信時には、この点にご理解とご協力をいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

繰り返しになりますが、この労使協はあくまで通過点であり、変革に向けた取り組みがここで終わるわけではありません。社長からありました「共通の基盤」の上に立ち続けるのはたやすいことではありませんが、大変革期を乗り切るためにそうしていくことが組合としての責務でもあると考えております。引き続き、組合としてはこの変革を途切れさせることなく、活動を推進してまいりますのでよろしくお願いいたします。

今回の交渉にはさらに続きがある。総務・人事本部の桑田正規副本部長が挙手し、西野執行委員長による組合の決意に応じる形で、会社を代表して誓いを述べた。

【桑田正規副本部長】

今日の話し合いの中で、組合より、幹部職や基幹職の中には、役割を果たせておらず、周りにマイナスの影響を与えている人がいることをご指摘いただきました。この点は、会社も同じ認識であり、重く受け止めております。

これから各職場で、幹部職、基幹職の役割付与や、働き、仕事に向き合う姿勢が、資格に見合ったものになっているかについて総点検をし、役割が果たせていない人には、上司からきちんと期待値を伝え、変化を促してまいります。

私たち一人ひとりが、周囲から「一緒に頑張りたい」「仲間になりたい」と思われるような人になるためには、まずは幹部職、基幹職からそれを実行しなければならないと思います。

最後は議長を務めた河合副社長が締めた。

【議長(河合満副社長)】

先ほど西野委員長より、変わり切れていないメンバーも含めて、同じように向き合い「守る」ことが組合の役割と考えていた、そして、そのやり方を変えていく、という主旨のお話がありました。

私たちマネジメントも、同じように、幹部職・基幹職を含めたメンバーへの向き合い方を変えていかなければなりません。これまで、波風立たせず、仲良くやることがチームワークだと捉えていたのではないか。それは断じて間違っていると私は思います。

社長が常々言われている、本当の家族であるならば、いや、本当の家族であるからこそ、変わりきれないメンバーに対しては、ダメなところはダメだといい、気づかせ、やらせてみる。財産の財の「人財」へと生まれ変わるまで、時には嫌われようとも、しつこく指導する。これが、トヨタの目指す「厳しくも愛のある、本当の人材育成」だと思います。

人を育て、変えることは容易なことではありませんが、「変われていない幹部職、基幹職」から実践していくことで、「本当の人材育成」をトヨタに根付かせたいと考えています。その結果、誰一人欠けることなく、ベターベターの意識を持ち、少しでも目の前の仕事を改善していく。こういったことを、全ての職場で、全ての人が行動に移すことができれば、会社全体での、大きなうねりへと変わっていくと信じています。

最後に、先ほど社長が言われたように、今一度、我々労使は、その原点に立ち戻り、「会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく」という「共通の基盤」に立ち、この大変革期を必ずや乗り越えていくことを誓い合い、本年の労使協議会を終了したいと思います。

「本日の労使協議会はゴールではなく、むしろスタート地点に立ったに過ぎない」。交渉を終えるにあたって河合が語ったこの認識のもと、トヨタの労使の話し合いはこれからも続いていく。

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