2019.08.20

「タテシナ会議はじまる」~交通事故死傷者ゼロへの挑戦~(前編)

通称「タテシナ会議」―。この言葉は、今年の7月17-18日に長野県茅野ちの市の蓼科山たてしなさん聖光寺しょうこうじで開かれた夏季大祭の場で誕生した。聖光寺は交通安全祈願のためにトヨタ自動車とトヨタ販売店が発願して1970年に建立した奈良薬師寺別院。毎年この日に夏季大祭を開いており、今回で49回目を迎えた。豊田章男社長らトヨタ役員のほか、トヨタのグループ会社や販売店などのトップ、地元の参列者らが御霊を供養し、交通安全を祈願するのだが、今年はそこにスズキやSUBARU(スバル)、マツダなどの自動車業界各社のトップの姿があった。今年の夏季大祭はいつもと様相が異なる。タテシナ会議とは、果たしてどのようなものなのか。その現場をのぞいた。

長野県茅野市の蓼科山聖光寺

聖光寺は東京と名古屋からそれぞれ電車で2時間半ほどかかるJR茅野駅から、さらに北東へクルマで30分ほどかかる自然豊かな蓼科高原にある。境内の道路側には「交通安全祈願の寺」と大きく掲げており、その祈祷対象が一目でわかる。この地で毎年7月17-18日に開かれているのが夏季大祭。17日には交通事故者の魂を供養する「萬燈供養会まんとうくようえ」などが、18日には交通安全を祈願する「夏季大法要」などが実施される。くだんのタテシナ会議は18日の夏季大法要の前にあった。

交通安全ディスカッション

安全とFun to Driveの両立

タイトルは「交通安全ディスカッション」。トヨタでフェローを務める、米国人工知能(AI)研究開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」のギル・プラット最高経営責任者(CEO)が基調講演し、質疑応答するという内容だった。ギル・プラットCEOは、聖光寺が建立された1970年に居住していた米国ニュージャージー州で友人がクルマにひかれて亡くなったのを目の前で見たこと、そして友人をはねた運転手が頭を抱えて道端に座り込んでいたことなど、改めて実体験を交えて交通事故の悲惨さとトヨタに入社した理由などを説明。自動運転技術が事故の多い高齢者や若者の安全運転を支援すること、人と機械の相互補完でFun to Driveと安全は両立することなどを映像も交えて訴えた。

ギルプラットCEOの講演映像はこちら

あいおいニッセイ同和損保の金杉恭三社長

質疑応答は静かに始まった。
先陣を切ったのは、あいおいニッセイ同和損保の金杉恭三社長。

いろんな運転のミスを自動的に、ドライバー本人が気づかないように修正していくことを目指しているというお話をお伺いしました。私は、高齢者になっても、トヨタの(スポーツ車)「スープラ」で高速道路でも運転を楽しむことができればよいと思っております。そういう方向で技術開発が進んでいるということでよいかを聞かせてください。

ギル・プラットCEOはこう答えた

ギル・プラットCEOはこう答えた。

そのアイデアは好きです(笑)。スープラを高齢者の方が運転出来るようにする。それはまさに今、私たちが考えている事です。もし、安全に運転する事が出来なくなったとしたら、高齢者の運転を制限する必要はあるのかもしれません。しかし、高齢になっても運転ができるという事を実現できればより良いでしょう。私たちのガーディアンの思想はそれを実現することにあります。

そして、若者にとってもこの技術は有効的なものです。ガーディアンははじめて運転をする子供達を守るためにも必要です。なぜなら彼らもよくミスを起こしてしまうからです。

「栄豊会」の永井淳会長(新東工業社長)

トヨタの取引先の設備・物流メーカーで組織する「栄豊会」の永井淳会長(新東工業社長)が続く。

人と車の協調が重要だという話がありました。人側の方で、あるいは、街側、道路側の方でも、このような事をしたらいいのではないかということがあれば教えてください。

ギル・プラットCEOが答える。

私たちは車同士の連携、そして車と街の連携について努力しています。この連携によって、車の安全性を、はるかに簡単で信頼性の高いものにできます。例えば、私の車が単独で走行していたら、自分の周りしか見ることができませんが、他の車や、信号などのインフラ設備、街と連携していると、私の車は幾千の目を持つことになります。目に見えない曲がり角を見ることもできます。これによって、今の車よりも更に楽しく、もっと安全な車にすることができます。

TRIの自動運転技術はいつ市場に出るのか

3番手で手を挙げたのが豊田章男社長

そして、3番手で手を挙げたのが豊田社長。

TRIの自動運転の研究がいつ頃、我々が手に入れられる車に実装できるのか。この辺を寺師さん、吉田さん、ギルさんの3人に聞いてみたいと思います。

ギル・プラットCEOが考えを述べた

この発言で、突如、趣きが変わり、会場がどよめいた。ギル・プラットCEOに加え、技術担当の寺師茂樹副社長、吉田守孝副社長も回答者にまわった。

まず、ギル・プラットCEOが考えを述べた。

私は日本に毎月来て、寺師さんや吉田さん、他のたくさんの方と議論をしています。私の希望としては今後予定しているTEAM MATE CARによってTRIが自動運転に対して影響を与えていきたいと思っています。これを(予防安全パッケージ)「トヨタ・セーフティ・センス(TSS)」や「レクサス・セーフティ・システム(LSS)」などに2020年代前半に実現したいと考えています。

理由は簡単です。最近、日本でとても悲しい、悲惨な事故が起きているからです。多くは高齢者によって起こされていますが、若い人もこういった事故を起こしています。私たちはこの問題をできる限り早く解決しなくてはいけません。そのために皆さんと強い連携を取っています。

もう一つの理由は競争力です。トヨタグループ、一緒に働いてくれる他社の皆さんはとてもフレンドリーで、この関係は私たちの自動運転を競合他社に比べてよりレベルの高いものにすることを可能にすると思います。

副社長の寺師茂樹の答えはこうだ

と語った。

寺師茂樹副社長の答えはこうだ。

最初のうちはすごく価格の高いシステムになると思います。ですから全ての技術を全ての車に入れるということではなく、一つ一つの技術を、トヨタセーフティセンス(TSS)に入れていくことが普及させるために必要だと考えています。ギルさんが私たちにハンドオーバーしたら、できるだけ早く入れていきたいと思います。

これまで、何かエラーがあった時に「後から助ける」ということを一生懸命やってきたんですが、一歩前に出るだけで、かなりのことが出来る技術でもあります。例えば、対向車があることを事前に認識できれば、右折する寸前にドライバーに対向車が来ることを伝えることができます。そうすることで、防げる事故もあると思っています。

完全な自動運転にして助けるというのには、まだ時間がかかるかもしれませんが、一つ一つの技術をもう少し前に出して、ドライバーとキャッチボールすることによって、もっともっと事故を減らすことが出来るんじゃないかと思います。これをどう車に入れていくかというのは吉田の仕事ですので、交代したいと思います(笑)。

副社長の吉田守孝が続ける

吉田守孝副社長が続ける。

ギルさんや寺師さんとは、いつも合うところと合わないところがあります(笑)。合うところは、考え方がすごく合います。今日のギルさんの話も非常にいいなと思います。合わないところは、タイミングとお客様の求める価格。これをいかに早くするかというのが私の仕事であり、その間をつなぐのが寺師の仕事だと思っています。

現在、いろいろな悲惨な事故が起こっていますが、その悲惨な事故を救っているのが、寺師が言ったTSSです。問題は既販車を含めTSSが付いていない車です。TSSが付いている車と付いていない車の両方の安全性能をいかにあげるかが非常に重要で、ギルさんが言った「人とシステムのハーモニーコミュニケーション」が大切になります。これを無しに、システムだけで、安全なものを作ろうとするとこれはなかなか難しいです。

いま取り組もうとしているのは、高齢者の方がどういう行動をとるのか、高齢者の方が運転する車に対して、何をすると後付けのシステムでより効果があるのかというところです。喫緊の課題として、後付けのシステムのレベルアップと普及に向けた原価低減に取り組んでまいりますので、本日ここにお集まりの関係者の方々、デンソーの有馬社長、販売店の方々、私たちはいま改善システムをやっておりますので、ぜひご協力をお願いしたいと思います。

この後、トヨタの会議から業界各社を巻き込んだ会議へと様相が大きく変化していく。

後編に続く